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尖んがりジプシーの航路  作者: 下市にまな
第二章 京都激闘編
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井川からの集合でメンバー全員はさらなる衝撃を受けることになった

『い、何時からですか・・・・』 人吉は固まった表情のまま井川に問い直した。

『来月頭には移動する・・今なら異議を受けるぞ・・・』 井川にも決意の表情が浮かび上がる。

『小倉ちゃん・・・どうするの?』 林葉は目を真っ赤にして小倉に聞いた

『私は、ついて行きます・・』 メンバーの中で一番明確に答えたのは新人の小倉であった。


 井川の話しはあまりにも唐突であった

ワールドアートは即戦力となる中途採用の営業社員を増員し続けて、各チームの体制もようやく従来の人数の倍近くにまで拡大出来た。

それを見越した上で、まず既存の実績を考慮されたメンバーの中から課長職を増員する事となったが、それが池谷と人吉である。

実績だけで見れば林葉・櫂・藤田の3人となるのだが、藤田は既に退職しており、林葉と櫂もリーダーとしての資質を持つにはもう少し経験値を要するという判断である。

 今回の人事に伴い、井川は人吉と小倉を率いてワールドアート初の支社となる九州支社を立ち上げる為に博多への転勤となる。

林葉と櫂は課長候補の主任として、各チームの補佐要員となって展示会場を転々とする予定である。

糸居は基本的に櫂が面倒を見る形を取り、櫂と共にどのチームにも属さないまま様子を見る。

大阪に残る櫂達3人は河上の部隊に属することとなり、事実上の井川部隊はこれで消滅する事になる。

今後は井川と同様にワールドグループから部長職人員が送り込まれ、やがて東海地区や関東地区にも同じような支社展開をしてゆく事になるであろうと井川は付け加えた。


『3人で支社を立ち上げるなんて・・無茶じゃないんですか?』 林葉が井川に詰め寄るが、井川は微笑を返すのみである。

『俺も次期が早過ぎると感じるんですが・・・いずれの別れは覚悟してたけど、小倉も糸居もまだ充分な力を身につけていないんですよ!』

『森田、ワールドアートは足を止めへん・・』 井川はそれだけ言うと櫂の目を見た。

《何やこの的外れな感覚は? 何か間違ってる・・》 櫂は違和感を感じずにはいられなかった。

 新しい体制を造り上げようとする事は櫂にも理解出来るが、支社を出店するのに3人とはお粗末過ぎるのではないか?

2チーム位を丸ごととなると流石に経費が嵩むので無理かも知れないが、せめて1チーム丸ごと位の初期投資をするべきではないのか?

優里の事があるので大阪残留となった自分は大いに助かるが、通常であればこのチームがそのまま博多へ転勤する事がベストなはずである。

櫂にはまだこの時点で井川の転勤の意味も分からないし、今後の自分の展望も全く見えては来なかった。



『強制解散やん!』

フロントロビーのソファーで林葉は飲まずにいられるかと缶ビールを煽って吐き捨てた。

『急ぎ過ぎや・・・バランスが悪すぎる・・・』 櫂は井川の話を聞きながら感じた違和感を拭いきれずにいる。

『2人共、ここに居てたんか』人吉がソファーの2人を見つけて近づいてきた。

『僕も課長として井川部長を支えるから、2人も頑張ってや』そう付け加える人吉は寂しさと昇格の嬉しさが混ざったような微妙な表情でしみじみと語った。

《能天気な人やな・・あんたが一番苦労するんやぞ!》櫂は喉元まで出た言葉を飲み込んで表情の険しさを隠した。

『俺は優里に電話してくるわ、心配や・・・』櫂は席を立った

『うん森田君、ユリリンを支えてあげてや』林葉は又もや目を真っ赤にしてビールを煽った。



井川部隊の最終催事は達成目標を大きく下回り、部隊始まって以来初めてマイナスとなる結果で終わった。

コウ・カタヤマ来日展まで残すところ1ヶ月であるが、明日には井川は博多に打ち合わせのために出発するであろう。

林葉と櫂、糸居は河上の面談があるという事でワールド第4ビルに呼び出されている。

出会いから1年を待たずして、大旋風を巻き起こした井川新設部隊はこうして最後の日を迎える事となった。

雇われの身である事で理不尽を飲み込まなければならない事はあるのだろう。

それでも井川が言ったように、櫂も足を止めるつもりは無い

何処でもすべき事は同じである、守るべき人が居る事が櫂に大いなる力と覚悟を与えてくれていた。

 


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