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尖んがりジプシーの航路  作者: 下市にまな
第一章 新人奮闘編
16/160

段取り八分

牧野が集めてくれた大量の材料のおかげで櫂達のアプローチブック作成は難なく完了した。

『聞きたいことがあったら下のフロアに来ればいいから』と言い残して牧野も部屋から姿を消してしまっている。

程なく峰山が、ウッドデッキスペースと外部電源の使用許可が出た事を研修室に伝えに舞い戻ったのであるが、櫂はその報告を聞いてから林葉と藤田に相談を持ちかけた。

『実は今回も作戦を考えてるんやけど、手伝ってもらいたい事があるねん』

『なになに~、勿の論やで~』 二人は身を乗り出して期待の表情を櫂に向ける。

その様子を見た峰山は 『君達・・・クレームトリオになるのだけは勘弁してよねっ』 と釘を刺してから笑顔で退室したのである。


 櫂は手早く自分のノートを引きちぎると、今からここに書く物を下のフロアで探して欲しいと林葉・藤田に各々手渡した。

『1時間もすれば、運搬業者が下のフロアに備品の引取りに来る時間やから、なるべくそのリストに書いたのが揃うように探して欲しい』

『大きくて綺麗な布を沢山と紙コップ大量・・、画鋲と雑巾?』藤田は櫂に手渡されたメモを見て不思議そうに読み上げた。

『延長コードと養生テープ・・クリップライト沢山とバケツ?』林葉も続いて自分のメモを読み上げる。

 備品の引取りまでに時間は無かったが、二人には納得してメモに書いた品々を探してもらいたかったので櫂は説明を付け加えて話し始めた。

『実は昨日ギャラリー黒鳥を見てきたんやけど、今回はメルシーみたいな作戦は通用しそうも無いねん、理由は人の流れなんやけれど・・・ギャラリー前の歩道は往来する人の数は充分すぎるほどやけども、流れが横という事で話しかける為に足を止める術が無いって感じたんや・・』

『なるほど~、確かに縦の流れなら足も止められるし歩調を合わせて話しかけることも出来る』林葉が頷く

『おまけに今回は歩道に出ることも出来ないしね』藤田も続けて納得する。

『そういう事、だから今回は潰れた喫茶店のウッドデッキスペースを使って行き交う人の気を引いて、まずは足を止める事から始めようと考えたんや』

『へえ~、ディスプレイで足を止めるって事か~』 藤田が楽しそうにポンッと手を叩いた。

『うん、ディスプレイしてからテーブルセットと画集、それと版画作品も置く、それで足を止めてくれた人にはお茶を振舞ってテーブルに着座って流れや』

『面白いわ~、そこで人間関係を作ったら階段を登って黒鳥にご案内って事やね』 林葉も納得した様子で自分に手渡されたメモを確認した。

『そのメモに書いたのを後1時間で集めなあかん、下の人吉さん秋爪さんにも説明して協力してもらって』 櫂は二人を交互に見てガッツポーズを作って見せた。

『森田君は今から何するつもり~』藤田が何かを企んでいるでしょ、と言わんばかりの表情で櫂に訪ねる

『俺は今からワールド第4ビル内に飾ってある植物を全部集めてくる』

『簡単には貸してもらえんやろ~』林葉がそう言ったが、まずはやってみるしか無いと櫂は立ち上がった。


 備品庫フロアでは説明を聞いた人吉と秋爪もリストに書かれた備品を集める作業に参加して大捜索が展開されていた。

捜索活動に参加する誰もが引取りまでの時間を意識しながら無駄なく動けたのは、その目的が明確に見えていた事が大きな要因であったと考えられるが、急に備品庫フロアに押しかけて黙々と作業をする4人を見た牧野も自分のチーム全員に声を掛けて捜索に加わってくれたのである。

『何をするつもりか知らんけど、あんたらも一緒に探したり』 牧野はそう言うと自分自身も使わない備品が積み上げられた一角を探し始めた。


 櫂は総務室の横にある営業推進部の部屋に峰山を訪ねた

営業推進部は人の居るスペースよりも、整然と並べられた資料ファイルや全国地図等の書物類にほとんどのスペースを奪われており、独特の雰囲気を漂わせている。

『森田君っどうした?』 櫂を見つけた峰山は大げさに仰け反る仕草でそう聞いてきた

『はい、実は相談したい事がありまして・・』


一通り、櫂の話しを聞き終えた峰山は『う~ん』と唸っているが、その表情には明らかに渋さが含まれている。

『だいたい森田君達がやりたい事は理解したけど、そこまでする必要ある?』

   《やっぱり、そう答えるよな・・・》 櫂は内心そう思ったが、諦めなかった

『中途半端なディスプレイでは、やる意味が無いと思うんです・・・・・だから出来る限りの事を今やっておきたいんです』

櫂は食い下がってそう答えたが、峰山の表情に渋さは残ったままである。

『そうは言ってもね森田君、運搬業者も過度に積載量を増やせば経費も変わってくるよ・・当初は備品庫フロアにある籠車2台分の積載契約なんだからね』

『載せきれない植物は僕らが手持ちで運んでも良いと考えています』櫂も峰山への視線を外さずに応戦する


『やらせてやればええやないかっ、俺が許可したるわい』 突然書棚の影から発せられた声の主は河上であった。

『せっかく人が仮眠を取ってる所を賑やかに騒ぎやがって、 森田っ! 無理を通す頼みごとには責任が付いて回るのは理解しとるやろな~』

寝起きで余計に鋭くなった目つきを河上は櫂に向けながらニヤリと笑った。

『はい、全力で挑んで結果を残すつもりです』櫂も河上を直視しながら真顔で答えた。


結局は牧野チームまでを巻き込んでワールド第4ビル内の観葉植物や装飾用の造花に至るまでを集めて、手配していた運搬業者には峰山自らが直接交渉し、全ての準備品を積み込む事に成功したのである。

『牧野課長チームの皆さん、本当に有難うございました』 人吉が代表して感謝を述べて井川部隊は全員がそれに続いて深々と頭を下げた

『私達も次の展示会場を成功させるから、井川部隊も頑張ってや』牧野はそう言うと、キャリーバック軍団を率いて出張先の次の会場に向けて旅立ったのである。

『よし、そしたら僕達も今から心斎橋へ移動しよう、 暗くなるまでに搬入を済ませないとあかんし』


人吉がそう言うと、備品庫のドアが静かに開いて河上が入室してきた。

威圧感を感じさせる雰囲気に押されて場の全員が身構えたが、河上はそれを気にもとめずに話し始める。

『牧野チームに手伝ってもらった感謝は言葉で返すんやない、営業マンの感謝は数字で返すんや』 そう言った後、河上はさらに続けた

『明日からの3日間はお前達5人だけで責任を持って運営しろ、俺と井川部長は東海地域開拓の新しいパートナーとなるショッピングセンターとの交渉を行う為に留守にする、井川部長は既に名古屋に前乗りした』


『えっ、僕達だけで・・』 又もや人吉のシバシバが激しくなる。

『やった~』藤田が喜んではしゃいだが、すぐに林葉もそれに続いた。

『人吉っ、しっかりせんかい! 新人のほうが喜んどるやないか! 人吉と秋爪がしっかりこいつらを管理して、出張先の井川部長にいい報告を聞かせてやれ』

河上はそう言うと、早く心斎橋に行けと追い出すように井川部隊を出発させたのである。


『あの子達、大丈夫かな?』 河上の後ろで峰山が笑う

『準備段取りを自分の知恵を絞ってやれているという事は、少なくともあいつらは与えらた仕事だけをする集団では無いという事や。 段取り八分で既に勝負は見えてくるもんや』

『段取り八分ですか』

『そうや、但しあいつらの残りの二分はあまりにも頼りないけどな』 河上はそう言ってから豪快に笑った。


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