航跡
『二神よ・・檜原の商談客な、購買欲は上がってるからフォローしてやってくれ』
『えっ? 課長がフォローに入ってた商談やないですか?』
『うん・・トイレが我慢出来ん! ついでにタバコも吸ってくるから頼んだで・・』
噂で聞いた事がある櫂の鬼軍曹伝説・・・・
機嫌良く口笛を吹きながら催事場を離れるその後ろ姿からは想像もつかない
ここのところの櫂は、要所でのフォロー以外は掴み所のない気の抜けた表情のまま、バックヤードに待機し続けるだけである。
フォローも、便宜の値引きでさえ、何かと主任の二神に割り振ってしまう始末なのだ
其のくせ自分がフォローに入る際には、二神を呼び寄せてこう言うのである
『今すぐチームの営業スタイルは変わらん・・けどな二神は俺のフォローを聞いて使えると思うトークを盗め』
二神も、そして最近では二神を補佐してやれと櫂に指示される事の多くなった林本も、櫂の推し量れぬ態度に困惑するしかなかった。
携帯電話は呼び出し音を響かせたままであるが櫂は待ち続けた・・・気持ちを察するとこの対応も頷ける
やがて諦めたような口調で〔はい・・〕と応じる声が聞こえた
〔森田です、例の件ですが・・・そろそろ返答を聞かせて頂けますか〕
〔そんな簡単な問題じゃないでしょ! どう考えても変な話なんやから!〕
〔それなりの力量にはなってますよアイツ等は・・・安心して下さい〕
〔私はそんな事を言ってるんじゃない! ・・・この件の返答にはもう少し時間が必要よ・・〕
通話はそう言い残して途絶えてしまった
《加山次長め~・・・適当に誤魔化しながら時間稼ぎをするつもりやな!・・・・・・こうなったら仕方無い・・・突撃するか!》
櫂はショッピングセンターの駐輪場脇に設置された喫煙ベンチから立ち上がると、両腕をグイっと空に突き出して背筋を伸ばした
《そろそろ来場者が増える時間か・・・いいや、出しゃばるな・・もう一本吸ってから戻ろう・・》
櫂はもう一度ベンチに腰掛けると、ゆったりとタバコを吹かした
『課長! 何処に行ってたんです? 商談テーブルが埋まり始めてますよ』
二神は催事場に戻った櫂の顔を見るなり語気を強めた
『う~ん・・・まだ商談内容は温まってないみたいやな~・・そう焦らんでも良え・・それよりもな二神・・次の会場の搬入日は俺は全国会議で不在になるやろ・・』
『ええ、その予定です・・』
『会場のレイアウトと作品選びな・・・お前が全部考えろ』
『そんなっ! 無理ですよ・・やった事無いんですから!』
『良えから・・・この商談の山が温まるまでバックヤードでレイアウト図面を作っとけ・・会場は俺が見張っといてやる・・・時間は無いぞ、商談が温まれば次はフォローやぞ!』
二神は言い返したそうな表情ではあるが、櫂はそんな表情を無視してその場を離れてしまった
全国会議は支社長・営業課長の晴れ舞台である
しかし、全国から集結する支社長・課長の表情は業績不振が続く状況のせいか曇ったままである
櫂はいつもの様に新大阪駅からの徒歩移動で全国会議に向かっているが、今日はいつもよりも1時間も早めにワールド第4ビルを目指している
『うわ~珍しいですね! 森田課長が会議開始ギリギリの到着じゃないなんて!』
櫂が早足で向かってくる様子を発見した岩崎は自動販売機から清涼飲料水を取り出しながら大声を上げて話し掛けてきた
『岩崎課長も早い到着やん・・』
『私はね・・会議前に近くの喫茶店でパフェを食べるのがルーティンなんです・・そうするとね、すこしは明るい気分になれるんですよ・・森田課長も一緒に食べます?』
『俺はいいわ・・・ちょっと用事もあるしな・・お腹痛にならんように気をつけや・・』
そんな会話を交わしながら歩くうちに貯水槽に添えつけられた菱形看板が見えてくる・・2人はそこで別れた
《さあ、行くか!》・・・・・・ワールド第4ビルの正面入口を見上げてから、櫂は真っ直ぐ部長室に向かった
全国会議が開催される30分前になると、部長室に集合した支社長陣が手短な打ち合わせや、情報交換を行う事が慣例となっている・・櫂は此処に居る加山に会う為に早めの出勤を試みたのである
《誰が居ようが関係ない! 社長・部長クラスが居るなら余計に話が早い!》
櫂は部長室のドアを力強くノックすると返事も聞かぬままドアノブを捻った
『失礼します』
ドアを開けると同時に室内を見回すが、部長室に先着していたのは加山と村下だけである
『な、何なんですか・・・課長参加の全国会議は1時間も後ですよ・・』
勢いよく入室してきた櫂に驚きながら村下は問いかけたが、加山は苦い表情を浮かべた
『加山次長・・・無理を言ってばかりですいません・・でも、今日は明確な答えを聞かせて貰う為に来ました・・』
櫂は村下の言葉に答える素振りも見せずに加山が着座するテーブルの前に立った
『はあ~・・・ホント無茶苦茶な事を言ってくれるわね・・』
『はい』
『悪役を押し付けられるのはアンタになるんよ? 私の独断で決められる範囲でもないしね・・・』
加山は覚悟を決めたのか、タバコに火を点けてからしっかりと櫂の目を見返した
《何の話なんや?》
居合わせた村下には2人の会話が見えてこないままである
『俺がどう思われようが、そんな事はどうでもいいんです・・・この辞令を受け入れてくれたほうが、後々で加山次長もやり易い筈です! チームの体制は整えてあります・・・わがままですが、主任に降格させて下さい!』
『そ、そんな事は・・・こっちサイドが決める事です・・・』
櫂の言葉でようやく話が見えてきた村下は、遠慮がちではあるが櫂の無茶な要望に釘を刺そうと薄ら笑いを浮かべながら力ない声を放った
《村下よ、俺のこの要望の意図も読み取れんでどうするんや・・・あっちサイド・こっちサイド・・役職に溺れるうちに未来のお前は潰しの効かん人間になってまうぞ》
櫂は一瞬だけチラリと村下に視線を向けたが、その後は加山を直視したまま答えを待った
『初めて会った日から頭のネジが跳んでる子とは思ってたけど・・・まさか降格させて下さいなんて・・・・少しは自分の事を優先で考えられないの?』
『出来ないみたいです・・すいません・・』
『もうっ!・・・・わかったわよ! 私も最後はあなたの尖んがりに付き合ってあげるわ・・今日からあなたは主任です! 私が責任を持って辞令を通すわ・・尖んがり櫂ちゃん!』
加山は目を細めて笑ったが、言葉には相応の覚悟が含まれている
『ありがとうございます・・・上司が加山次長で良かった・・それと・・・これもお渡ししておきます・・・今日はこれで会場に戻りますが後日の呼び出しには即座に駆けつけますと、中山社長にお伝え願えますか・・』
櫂はスーツの内ポケットから退職届を取り出して加山に手渡した
『やっぱりそうなるのね・・・・責任を持って預かるわ』
覚悟を固めた加山はすんなりと櫂の退職願を受け取った
『では、失礼します』
深々と頭を下げて退室する櫂を村下はあんぐりと口を開けたまま眺めるしかない・・
『い、良いんですか! 全国会議に参加せずに帰っちゃいましたよ! それに・・勝手に主任降格を受け入れてしまって・・・社長や部長が後で何て言うか?』
村下は狼狽しながら加山を問いただすが、加山はそんな村下を睨みつける
『あんた、蝿みたいにさっきから五月蝿いんよ! 真意が読み取れないのなら黙っててくれる!』
プイッと横を向いた加山は巨大な胸の空洞を埋めようと静かにタバコの煙を眺め続けた
『課長! 何で? 今日は全国会議に行かれたんじゃないんですか!』
慣れぬ搬入作業を指示していた二神は、櫂の顔を見て目を丸くした
『ちょうど、新作のレイアウトで悩んでた所なんです・・森田課長の意見を聞かせて下さい』
二神の傍らでレイアウト作業をしていた林本は、悩ましげな表情で櫂に答えを求める
『悩むなら、答えが出るまで悩み切った方が力が付くやろうな・・・二神と林本で考え抜くべきや・・』
『そんな~!』
『それよりもな・・・俺はこの会場にはもう来ない・・人事移動の辞令や』
『何故です! まだそんなにチーム発足から時間が経ってないのに?』
二神の表情は疑問を色濃く湛えている
『俺は今日から主任になったんや・・・このチームの新課長は後日に発表されるやろう・・』
『どう言う事ですか! 何で森田課長が主任に降格するんです? 加山次長は何て仰ってるんですか! あまりにも急でおかしな人事ですよ!』
林本は怒りを顕にして疑問を投げかける
《ありがとう・・・そして、申し訳ない・・》
櫂は心の中で感謝と謝罪を同居させた
『いや~・・真っ当な辞令やで~ ここんとこ俺は仕事をお前等に丸投げやったしな~、やっぱ経営陣の目は誤魔化せんな・・・俺も自分に思い当たる所が有るからさ・・さぼったツケが回ってきたんやな・・・まあ、納得しての降格やな!』
櫂は惚けた表情で薄ら笑いを2人に向ける
『そんな簡単に・・・私達はどうすれば?』
二神は困惑を隠せない
『新体制は加山次長の頭の中で完成してる筈や・・・けど、2人は力を合わせて自分たちのプライドを反映出来る営業集団を目指してくれ! ほいじゃあ、俺はこれで会場を離れるから・・・・頑張れよ!』
櫂はニヤリと笑うと、振り向きもせずに姿を消してしまったのだ
『何よ、無責任過ぎませんか? 簡単に頑張れよ・・なんて!』
『愚痴っても仕方無いわ・・まさかあんな人だとは思ってなかったけど・・私達は新体制でブレないように、切り替えて搬入を済ませる事を優先しよう・・』
二神は何故かすんなりと状況を受け入れる気にはなれなかったが、不思議と足を止めずに前に進もうと言える自分が存在している事に驚いた・・・
《以前の私ならこの状況に右往左往していた筈?》
自分の思考に多少の変化を感じながらも、状況の流れに振り回されぬよう二神はメンバーに指示を出し続けた
加山は淡々と中山に櫂の主任降格の経緯を報告した
『・・・そういう事で、私の独断ですが・・課長としての資質に疑問を抱く行為が続いたものですから・・』
加山の経緯報告を聞く中山は終始黙って耳を傾けていたが、加山を見る視線には疑念の感情が含まれている
説明を続ける加山は中山に真実を見抜かれまいと、体の芯が熱を上げてゆくのを感じながらも櫂から降格人事を申し出てきた日の事を思い返していた
『もう俺はこのワールドアートに対しての情熱を使い切ってしまいました・・いや・・・使いたくないと思っているのかも知れません・・・そんな俺を信じてくれるチームメンバーの笑顔が辛いんです・・俺にそんな資格は無い・・』
『それと主任降格への申し出はどんな関係があるのよ?』
『課長として・・自分達のリーダーとしての立場の俺が退職すればアイツ等はどう感じます? 見捨てられた・見限られたと考えるメンバーが居てもおかしくない! けれど、俺が主任に降格して自分の力の無さを悲観して退職すればアイツ等も少しは傷つかずに済む・・・・思った以上に深いんです・・・盲目的に信じていた上司に見捨てられるって言うのは・・』
『あんた・・・本気で言ってるの?』
『冗談で言う内容ではないです・・』
『そんな終わり方で良い訳? あんたが闘い続けた栄光も栄誉も藻屑と消えるんよ! 簡単には返答出来ないでしょ、そんな事! もう少し時間をかけて考えましょう』
『他人にどう思われようが俺には関係無いんです・・・他人に褒めて欲しくて走ってきたんや無い・・俺は自分を誇れるようになりたくて・・・だから、アイツ等を傷つけたくはない・・・』
中山は掌を加山に向かって突き出して経緯説明を遮った
『もうそれ以上の説明は要らん・・・明日の午前中に社長室に来いと伝えてくれ・・』
社長室から開放された加山の額からは大粒の汗が流れ落ちた
【イエスマンで終わらない独自性のあるメンバー】
ワールドアートの拡大計画において必要な人材を求める自分が望んだ要素である
中山は社長室のソファーに対峙する櫂の惚けた表情を眺めながら埋もれた記憶が蘇るのを感じていた
『加山から話は聞いた・・・お前、加山をけしかけたな?・・・まあ良え、そんな事は・・・・けど後悔するぞ、この会社を辞めたらな!』
『自分の心は整理済みです・・後悔はしません』
そう言い切る櫂の潔さが、中山の心をざわつかせる
どうやって追い込んでやろうか・どう窮地に立たせてやろうか・・目の前の小憎たらしい青年に対して自分は常にそんな感情を向けて来た・・・自分が望んだ通りの要素を持った社員であったのに・・である
イエスマンで終わらない事に感情が逆撫でされ、窮地に追い込んでも這い上がってくる事に嫌悪感さえ抱いた。
今日は勝ち誇って退職を認めてやろう・・そう思っていた筈なのだ・・
『お前がワールドアートの一時代を築いた事は俺も認めている・・このまま負け犬で此処を去ってしまって良えのか? 俺はそれを言うてるんや』
中山は何故か口をついて出てくる自分の引き止めの言葉に驚きながらも平静を装った
『ありがとうございます・・・けれど、決意は変わりません!』
『辞めてからどうするんや? この最悪の景気でこれだけの給与を手に入れるのは無理やぞ!』
『はい、地べたを這ってでも家族は食わせてみせます』
櫂の返答からは微塵も揺らぐ事の無い決意の強さが感じ取れる
『戻りたいと言っても・・お前の席は二度と用意出来んのやぞ!』
『はい承知してます、今までお世話になりました・・ご指導いただけた事に感謝しております・・有難うございました』
表情を引き締めた櫂は丁寧に深く頭を下げた
『ふ~・・・何を言っても決意は曲げずか・・入社当時のまんまやないか・・勝手にしろ! 』
櫂は最後にもう一度丁寧にお辞儀をすると、静かに社長室を退室してドアは閉じられた
《ふんっ! 馬鹿な奴や・・・ワールドアートを去った事を後悔するぞ!》
いつもの様に中山は櫂に対して心の中で悪態を吐いたが、何故か大きな虚無感が襲ってくる・・・
ワールドアートのエンジンから主要部品が抜け落ちてしまったような焦りが同時に心を蝕み始めるが、中山はそれを誤魔化す様に書棚に飾ってある高級バーボンをグラスに注いだ
《俺・・・ホンマもんのジプシーになってもうたな! 後は感謝を伝えるべき人への挨拶を済ませるか・・・》
井筒には面と向かってサヨウナラが言いづらい・・・
会場の開拓業務に追われる井筒には電話をするよりも手紙を残そうと準備してきた・・・・・・・
と言っても文面は簡素そのものである
【井筒へ・・・感謝を仕切れませんので長文は避けます・・お前が居たから頑張れた・・今までありがとう!】
それだけである
櫂は営業推進部の井筒のデスクにそっと手紙を置いて、お客様相談室に居る桝村のもとに向かった
桝村との出会いが今の自分に繋がっているのだ・・・どうしても挨拶をしておきたい
『桝村さん居りますか~?』
遠慮がちにお客様相談室のドアを開けた櫂はおどけた口調で桝村を呼んだ
笑顔で姿を現した桝村は櫂の入社当時よりも大きく老け込んだようにも見えるが、やはり営業マンとしての鋭さは健在なのであろう・・・櫂の顔を見るなり桝村は残念そうな表情で櫂の両肩をがっしりと掴んだ
『あの・・今日でもう退・・』
『そうか・・俺はお前には何も言えんよ・・若いんや! 成功を祈ってるよ・・』
色々と感謝の言葉を伝えたかったが、井筒と同様にその短い言葉だけで多くの感情が伝わってくる
櫂は肝心なシーンでの自分の口下手を呪いつつも、自分の感情もきっと伝わった筈だと信じてワールド第4ビルを後にした
《やっぱり・・最後はあそこしか無いよな・・》
外気の心地良さのせいか、妙に体が軽いと感じながら櫂は口笛を吹いて歩き出す
『おばちゃん! 久しぶりっぶりっ! 12個入りを頂戴!』
簡素な暖簾を捲り上げて客の居ない10坪ほどの店内に入る
『あら~久しぶりやないの! こんな時間から油を売ってて良えんか?』
櫂の顔を見て、たこ焼き屋の初老女性は満面の笑顔を見せた
『良えねん! それよりおばちゃん早よ頂戴・・俺、もう腹ペコや!』
『よっしゃ! 速達で作ったるから待っときや』
腐れ縁である・・・ワールドアート入社初日の朝に立ち寄ってから、櫂はおばちゃんのたこ焼きを食べ続けている
『おばちゃん! 俺は騙されへんで・・・タコの大きさを変えたやろ? 前より小ちゃくなってるで・・』 ニタリと笑う櫂は美味そうに口の中でたこ焼きを転がした
『不景気なんや・・文句を言いなさんな! こっちも生き残りを賭けて商売しとるの! よ~く味わったら気付く筈やで・・小さくなったタコの代わりに注ぎ込んだ愛情の多さに!』
『相変わらずの屁理屈っぷりやで・・・』
掛け合いを楽しみながら、櫂はあっと言う間に12個入りのたこ焼きを平らげてしまった
『ごちそうさま~・・おばちゃん! 体に気をつけや・・』
『何や! 気色悪い事を言うやないの?』
『へへ・・・おばちゃん! もう来んとくわ!』
舌を出して櫂が店の外に飛び出す
『コラッ! いつまで経っても口の悪い子や!』
櫂なりのお別れはこの会話で終了した
《ん?》・・・・駅方向に向かおうと歩き始めた櫂はズボンのポケットの中で振動する携帯電話に気付いた
《ああ、そうや・・・社長室に入る前にバイブに切り替えたままや・・・・》
慌てて携帯電話を取り出した櫂は相手も確認せずに急いで耳に押し当てた
〔おうっ、櫂・・・儂や!〕
聞き慣れた声でも、未だに背筋が伸びるのは不思議である
〔加山から連絡をもらってな・・聞いたぞ・・勝手に何でも決めやがって!〕
携帯電話の向こうで河上が苦い笑顔を浮かべているのが想像出来るが、あえて口調はいつもと変わらぬようにしているようだ。
〔日を改めて挨拶に伺うつもりでしたが・・こんなに早くバレるとは・・〕
〔ど阿呆が・・儂はな、北浜会長にも言われてたんやぞ! お前をワールドグループ本社に引き抜いたらどうや? ってな!〕
〔そうですか・・・すいません〕
〔まあ、お前の事やからな・・アート事業部を飛び出してグループ本社に来る事は無い・・そうやろ? どうせ自分を育ててくれたアート事業部に対して不義理はになるからと即答で断るに決まってる! 北浜会長には儂から答えておいたがな・・・〕
〔ええ・・その通りです・・・流石は営業の神様ですね!〕
〔どうするんや・・・この先は?〕
〔考え中・・・いや・・まだ考えてません〕
〔フンっ! お前の事や・・心配するほうが損するわい!〕
〔はい・・・あの・・〕
〔何や? ハッキリ言わんかい!〕
〔ええ・・じゃあ前から言いたかった事を言わせてもらいます・・・こんな俺を指導して下さって感謝してます・・・・・へへ・・有難うございました糞親父!〕
〔おうっ、いつでも遊びに来いよ! 馬鹿息子!〕
櫂は携帯電話を切ってから、もう一度ワールド第4ビルの屋上に設置された菱形看板を振り返った
《最高に楽しかったな~! 皆さん本当に有難うございました!》
櫂は自分の今までの航跡を消すように、携帯電話内の全てのアドレスを消去した