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尖んがりジプシーの航路  作者: 下市にまな
第五章 九州決戦編
131/160

継ぐ

 九州支社メンバーは相変わらず客数の少なさに悩まされながらも、戦力となる社員への育成の手を止めずに九州・山陰地区の地方催事を駆け抜けたが、いよいよ1週間後に迫るATH決戦を前に、参戦させるメンバーの最終選考を行わなければならない。


戦力的に見劣りのする納元のチームにも精力的に力の有る社員を振り分け、支社内のチームバランスも取れ始めてはいたが、全国会議で九州支社からの参戦が認められたのは10名まで・・・

同じく長川の率いる東京支社も10名で、後は大阪・東海エリアのチームが本部隊として会場を取り仕切る。

総勢120名体制で挑む来日展は、船上パーティーで中山が発表した通り、過去最大規模の催事となる。



櫂はATH参戦メンバーの最終選考の意見を汲み取る為に両課長を支社に呼び寄せた。

『俺の中でメンバーの選考は練り上げたけど、その前にお前達の意見も反映したいんや・・』

 櫂は山木と納元を交互に見た

『私の意見から言っても良かですか?』

 珍しく能動的な態度で納元が櫂に答える

『勿論や!』

『私のチームからは椎名・梅原・七田・海本を連れて行ってやって下さい・・・この4名を参戦させてやれるなら、私は九州に残ろうと思うとります』

『何で納元課長が残るとですか? 戦力ば固めて行かんと負けてしまうやなかですか!』

 納元の予想外の意見に山木も思わず狼狽える

『ATHの会期中も九州の地方催事は入っとるとよ、私は自分の力を理解しとるけんチームメンバーに賭ける! 責任を持って残ったメンバーと一緒に催事運営しようと思います・・・次長、間違うとりますか?』

 納元は櫂の意見を聞かせてくれとばかりに視線を向ける

『参ったな・・俺と同じ事を考えてるとはな・・・山木! 男ならバトンを黙って受け取れよ・・・これで尚更に負けられん様になってもうたぞ!』

『も、勿論です! 生かしては帰さんもんね!』

『それは可笑しか言葉やね・・殺し合いに行く人のセリフったいね』

 納元はそう言って笑った


当初から櫂が練り上げた通りのメンバーですんなりと参戦メンバーは決まった

納元の理解を得るのが難題だと思っていたが、櫂が思う以上に課長として支社全体を見渡せる目を養っている事に小さな感動を覚える。

『よしっ、2人は直ぐに自分の会場に戻ってメンバー移動を指示してくれ! 納元は参戦メンバーの4名を山木チームに移動! 山木は残留メンバーの4名を納元チームに移動! ATHの直前会場から両チーム共、準備を整える事とする・・俺も支社業務を終えたら山木の後を追う・・くれぐれも参戦メンバー以外の者に不平を出させるなよ』


ATHの会期に向けては井筒と打ち合わせの上、支社に残すメンバーが催事に出なくても良いように地方催事を削って貰ってはいたが、永年の付き合いのあるショッピングセンターからお盆時期の催事としてどうしてもと頼まれると断りようが無いのも事実である。

新卒社員と新人社員の大半はお盆休暇を与える予定であるが、納元にはATH参戦メンバーから漏れた中堅メンバーを引き連れてこの地方催事を守って貰う事になる。


『次長っ、不平は絶対に出させませんよ! ATHメンバーへの対抗意識で逆に戦意を上昇させれば良かとでしょ・・』

 納元は支社を出る寸前に笑顔で櫂に言ってから姿を消した。


《あいつも変わったよな・・・・まだまだ九州は強くなるぞ》

 櫂は笑顔で納元に答えると、逸る気持ちを抑えながらデスクワークに目を向けた。




『納得出来ません! 納元課長が残留するなんてどうかしとります!』

 納元チームの数字を支えて来た椎名紗織は、チームメンバーの前でも不服の表情を隠そうともせずに憤った。

納元を囲んで輪になる他のメンバーも椎名の醸す不満ムードに便乗するように、少なからず表情を歪めている

『これは私から森田次長に進言して決まった事ったいね・・』

 それでも納元は表情を変えずに椎名を直視した

『森田次長は不公平です! 山木チームの参戦メンバーが多いやなかですか!』

 気の強い椎名は言葉も選ばずに抗議するが、それを聞く納元は一気に表情を引き締めた。

『あんたはいつまで小さな視野で見とるつもりね! 森田次長が不公平なら私は此処まで付いては来ないっちゃ!』


椎名を睨みつけた納元は視線をゆっくりとメンバー全員に移しながら続けた

『公平やからこそ山木課長チームが多く選ばれたとは思わんの? 私はその公平さに納得出来るから自分で残留を進言したんよ! 私に悔しさは無いと思うとるん? 森田次長の心は傷んどらんとでも思うとるん? 私達にもっと力が有れば、チーム全員で参加してくれと要請された筈でしょ! あんたら4名はこのチーム・・・いいえ、今の九州支社の誇りを背負って戦うとよ!』

 納元の言葉にメンバーは一気に静まり返る


『・・強うなるけん・・私は残留メンバーとまだまだ成長する為に闘うて見せる! あんたら4名も強うなって帰っておいで・・・じゃないと此処にあんたらの居場所は無いけんね!』

 井川に引き上げられて課長職に就いてから以降、納元は始めて自分の心の昂りをぶつける想いでチームメンバーに語り掛けていた。


《本気とはこう言う事なのだ・・あん人はこの昂りの中でずっと私達を信じてくれていたんだ・・》

 自分を囲んで沈黙する4名と残留メンバーにも、この昂りが届いているのが実感出来る


『さあ、もう行きんさい! 今頃は次長がイライラしながらあんたら4名を待ってる筈やけん・・私と残るメンバーも覚悟ば固めんとね・・今がこの4名を抜き去るチャンスやけんね!』

 並び立つ不満顔達は、いつの間にか其々の決意を秘めた集団に変化していた。



『お前等! 遅すぎるんじゃ・・・納元に恥をかかせるつもりか! ぐずぐずしとらんと直ぐに接客体制に移れ!  俺はもう圧倒的に臨戦態勢なんやからな~!』

 山木チームに合流した4名に櫂の怒号が飛ぶ!

『はいっ! さあ、先ずは山木チームに勝つよ!』

 椎名が含み笑いでメンバーに激を飛ばす

『何が可笑しいんや』

 櫂がムスリと問い返す

『いえ・・・ちょっと次長の第一声が想像通りだったもので・・・』

 4名はクスクスと笑いながらも自分の鞄からアプローチブックを取り出すと表情を一変させた。


『あんたらに私が負ける訳無かろう!』

 早々に本間がズケズケ村の本領を発揮して吹っ掛ける

『それは勝ってから言うセリフですけんね!』

 椎名が受けて立つとばかりに応戦する


《伝わってるぞ、納元・・・・お前の気持ち・・確かに受け継いだで!》

 櫂は集結した参戦メンバーに大きな手応えを感じていた



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