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異世界無料案内所〜剣と魔法の世界も最強チートもハーレムものんびりスローライフも賢者も建国も復讐もぜんぶご案内します!〜  作者: 坂東太郎
【第2章:夢見がちな純朴ホスト、異世界を往く〜 ぱーりらっぱりらっぱりら転生!※転移 〜 / とあるホストの場合】
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第五話 この異世界では存在しない商売だからなあ。そもそも受け入れられるんだろうか


「これで、ついに俺の店がオープンッス!」


「おめでとうございます、ケンジくん!」


「『ついに』ってほど期間はかからなかったけどな」


 第4196z世界線 zsdc星、ストラ大陸セレナ神国の小さな港町。

 港近くの飲み屋街に、一軒の店がオープンした。


 元歌舞伎町のホスト・ケンジの店だ。

 カイトとエリカが案内した開店資金稼ぎは順調で、短期間で終わった。

 スキルは存在しなくとも、たしかに上がった【身体能力】を活かした討伐やモンスター素材の売却がいいお値段になったらしい。

 異世界さまさまである。


「今日からよろしくお願いしまぁッス!」


「イントネーションがおかしい。ホストっぽいと言えばホストっぽいけど……異世界でも通じる、のか?」


「ふふ、カイトくん。ちゃんと言葉が通じるようになってますよ?」


「転移者への特典(サービス)なあ。そのへんは助かるけども……」


 テンション高く、店の前の道に向けて深々と頭を下げるケンジ。知り合いがいたわけでも、お客さまに頭を下げたわけでもない。

 いわば街への挨拶である。律儀か。

 カイトとエリカはぼそぼそ会話している。

 ホストクラブの新規開店なのに、お店の前には花がない。

 そもそも「ホストクラブ」がなんなのか、異世界の民はわかっていない。

 新しく料理と酒の店ができたか、程度のリアクションだ。


「んじゃ俺は行ってくるッス!」


「あっおい店は」


「がんばりましょうね、カイトくん! お客さまがいらっしゃったらケンジくんを呼びますね」


 自分のホストクラブをオープンさせてすぐに、オーナー・ケンジは新規のお客さまを探しに出た。勤勉である。なにしろ「ホストクラブ」という営業形態さえこの世界にないので。

 これでいいんだろうかと首をかしげるカイトは、エリカに腕を掴まれて店内へ入っていった。


 ケンジが希望したのは「つきっきりの異世界案内」だ。

 案内人カイトとエリカは、ケンジが異世界ではじめた商売も手伝ってくれるらしい。


 異世界案内はまだ続くようだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 無骨な港町の町並みに漏れず、ケンジのホストクラブもまた石造りだった。

 近くの岩場から持ってきた石を積み上げて魔法で固めただけの外観には、派手な装飾も看板もない。歌舞伎町でよく目につく、看板ホストの写真入り看板もない。


「ケンジくん、遅いですねえ……」


「この異世界では存在しない商売だからなあ。そもそも受け入れられるんだろうか」


 留守を任された異世界案内人のカイトとエリカは、所在なげに話し込んでいる。

 店内もまた、外観と同じようにシンプルだった。


 壁際には木製のイスが並んでいる。

 イスは座面がわずかに傾いて、長めの背もたれも肘掛けもまた傾いている。

 座ると自然にリラックスできる体勢になる、木製のデッキチェアである。ビーチや小洒落たカフェのテラス席にでもありそうなイスだ。

 スプリングも低反発クッションもない異世界で、しかも港町で手に入る素材で、少しでも違いを出したかったらしい。

 横に置かれた簡素な丸イスにケンジが座り、サイドテーブルにグラスやお酒を置くのだろう。

 なお、滑らかな木面に仕上げたのはエリカだ。

 風と土の融合魔法、らしい。

 繊細な魔力コントロールにむしろカイトは頭を抱えた。これができるのに、なんでエロトラブルは避けられないのかと。


 床は土間だ。

 土間というか、むき出しの地面をエリカの土魔法で固めたものだ。

 コンクリート打ちっ放し風の床は、建物の中も土埃が舞う地面が当たり前の港町で異質なものになるだろう。


 店内には各テーブルの仕切りとして1メートル半ほどの観葉植物が置かれていた。

 ケンジが立てば店内を見通せて、座ったお客さまの視線は隠す工夫である。

 エリカの魔法は関係ない。


 ケンジがオープンしたのは、質素で殺風景なホストクラブだった。

 おそらく日本で同じ作りをしたら「ホストクラブ」と思われないだろう。コンセプト居酒屋にしても厳しい。


「お客さま、来ませんね……こうなったら、カイトくん!」


「しない。異世界に来てまで呼び込みはしないぞ。……けどまあ、少し協力はしようか。俺たちは依頼人の希望を叶える『異世界案内人』だからな」


「はいっ!」


「やる気なところ悪いけど、エリカは店で待機しててくれ」


「ええー?」


「無人にするわけにはいかないだろ?」


「はいぃ……」


 エリカが口をとがらせつつ頷く。

 納得してないけど仕方ない、とばかりに。

 ホストクラブに女性店員しかいなくなるがいいのか。


 異世界の小さな港町にオープンしたホストクラブは、初日から前途多難なようだ。

 客引きに出た店長でオーナーでナンバーワンホストのケンジはいまだ帰ってこない。

 ナンバーワンホストというか、唯一無二のホストである。なんならこの異世界で。

 カイトは営業の協力こそするが、ホストではない。異世界案内人である。


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