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第七話 俺たちは『異世界案内人』だ。案内は、いつか終わりが来るものだろ?


「カイトくん、様子はどうですか?」


「ん? ()()()の方は問題なしだな。ショウは……」


 迷宮都市の中にあるダンジョンの中、薄暗い空間に二人の声が響く。

 二人がいるのは10メートルほどの開けた空間だった。

 床は石造りで、壁はなにやら異形のモンスターが彫刻されている。

 彫刻のモンスターたちは巨大な扉を睨みつけていた。

 視線を受けるカイトとエリカに緊張した様子はない。


「順調だな。もうすぐここに到着しそうだ」


「わっ、よかったですぅ! さすが『ゴーレムメイカー』ですね! ショウくんの仲間はどうですか?」


 扉の前に立っていたカイトが瞳を閉じる。

 エリカは前に「覗きはよくない」と言ったくせに、カイトが〈感覚転移〉を使うのを止めようとしない。

 宿屋で離れて以降、ずっと別々に行動してきた少年が気になっていたのだろう。


「姿が見えないのは老騎士だけ。あとは全員いるな、戦闘ゴーレムも物資輸送用ゴーレムも欠けてないみたいだ」


「じゃあ没落貴族令嬢剣士も、悲惨な境遇から助け出したケモミミ欠損元奴隷斥候も、絶望から立ち直らせた平民聖女も無事なんですね!」


「言い方、言い方を考えようなエリカ。俺が言ってたけどそれは説明のためで」


 カイトとエリカが、男子高校生・ショウを異世界に案内してからもう一ヶ月近い。

 それでも二人は、別行動しているはずのショウの状況を把握していた。

 覗き趣味、ではない。

 異世界に転移した男子高校生がチートスキルで活躍して、ハーレムを形成するのを見たかったわけではない。見たい。

 カイトは、「困った時に手を貸す」「依頼人の安全を守る」異世界案内人として、必要に駆られてちょくちょく〈感覚転移〉してショウの行動を覗いていた。


「……もうすぐですね」


「ああ。もうすぐだ」


 巨大で豪奢な扉から目を離して、二人は振り返った。

 彫刻のモンスターに見つめられながら、開けた空間の入り口を見つめる。

 ぼんやりと、少し寂しそうな微笑みを浮かべて。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「罠ニャし、モンスターの気配ニャし」


「魔力の流れがおかしいわ。下に繋がってないの」


「では、ここが最下層なのかもしれません。誰も足を踏み入れたことのない、迷宮50()()()


「みんな、ちょっと待って。先にゴーレムを行かせるから」


 女性の声が三つ、続けて年若い少年の声が一つ。

 カツカツと靴音を鳴らしながら階段を降りてくる。

 やがて、魔法の灯を手にしたゴーレムが、開けた空間に入ってきた。


「警戒しなくていいぞ、ショウ」


 カイトが声を掛ける。

 話し声も足音も止まった。


「……カイトさん?」


「そうだ」


「はい! 私もいますよ!」


「……エリカさん、も?」


 ゴーレムに続いて、入り口から少年が顔を覗かせた。

 二人を確認して、警戒しながらゆっくりと中に足を踏み入れる。


「なんで、二人がここに」


「油断してはダメよ、ショウ! きっと人に変化するタイプのモンスターだわ!」


「あー、それは本人だって証明するのが難しいなあ」


「ふふ、簡単だよカイトくん! はい、ショウくんこれ!」


 この異世界には、人の姿を写し取るモンスター・ドッペルゲンガーや、生前の姿のままの幽霊タイプのモンスターも、様々な生物・無機物に擬態するミミックもいる。

 冒険者として活動してきた「没落貴族令嬢剣士」がショウに警告するのも当然だろう。


 だが、ショウはふらふらと無防備にエリカに近づいた。

 エリカが自慢げに差し出す荷物を手にする。


「これは……みんな、心配しないで。二人は本物だよ」


 ショウは荷物をそっと撫でて目を細めた。


 エリカが差し出したのは、ショウがこの異世界に来た時に着替えて、預けた()()だ。

 ショウがそう言っても、冒険者仲間が警戒を解く様子はない。

 宿屋の食堂で見かけた金髪巻き髪の女の子は細剣を手にショウの前に立ち、小柄な女の子がネコのような耳を片方だけ揺らしてその横に並ぶ。

 身長ほどもある杖を手にした少女は、ショウの斜め後ろに控えて魔力を練る。


「それでカイトさんとエリカさんはなんでここに? あれ、でもここ、前人未到の50階層なんじゃ」


 女性陣に遅れて、ゴーレムが四人のまわりを取り囲んだ。

 まるで、四人を守るかのように。


「ああ、そこは心配しないでくれ。俺たちはカウントされない」


「……え? まさか二人はモンスターで」


「違いますよ、私たちは入り口を通らないで来たから、冒険者ギルドは把握してないってことです!」


「はあ、そういうことですか。ビックリさせないでくださいよ。カイトさんは真面目な顔だし、ここはダンジョン最深部みたいだし、『知り合いがラスボス』ってよくあるパターン……かと……?」


 言いながら、ショウが目を見張る。

 いまその可能性に気づいた、かのように。

 数歩あとずさる。

 創造主の心に反応したのか、ゴーレムが盾を構えた。


「はは、それも心配しなくていい。()()()()()()()()から」


 開けた空間にカイトの声が響く。

 ショウは疑いのまなざしを向けたままだ。


「じゃあなんで……」


「簡単なことだ、ショウ」


 そう言ってカイトが能力を発動させる。

 エリカはカイトの横に並んで、めずらしくキリッとした顔をしている。


「いま、俺たちがいる空間をまわりと切り離した。この方がゆっくり話をできるからな」


「は、はあ、それでカイトさん、なんの」


「俺たちは『異世界案内人』だ。案内は、いつか終わりが来るものだろ?」


「…………え? 案内の、終わり? じゃ、じゃあボクは! まさか!」


 うろたえるショウをなだめる言葉はない。

 カイトはただまっすぐに見つめて、両手を広げた。


 ショウに問う。



「さあ、選択の時だ! 異世界に残るか、元の世界に還るか。心して選べ、少年よ!」


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