第三話 わかりました! ショウくんが身につけたスキルは『無属性魔法Lv.MAX』です!
「ここは……? 森? えっほんとに?」
男子高校生の声が森に響く。
「第6587m世界 mdagy星、エウロ大陸ピカルド国、迷宮都市近くの森だ」
目の前の光景に驚く男子高校生と違って、スーツの男はさも当たり前のように場所を説明した。
「つまり……」
「ああ、『異世界』だ。少年が望んだ通りの」
「おおおおおおおお! ボクが! 異世界に! あ、待って、でもほんとはどこかの森の中かもしれなくて! 瞬間移動したんならそれはそれですごいけど!」
先ほどまでがウソのように、男子高校生のテンションは高い。
一方でスーツ姿の男は変わらない。
まるで、これが日常であるかのように。
「ほらカイトくん、着替えて着替えて! その格好じゃ目立っちゃうよ!」
強引についてきた外国人美少女のテンションは高いままだ。
いつの間にか手にした布袋をカイトに渡して、着替えるように求めている。オカンか。
「はい、キミの分もあるよ! カイトくんと一緒に着替えてね!」
「え? その、いいんですか?」
「ああ、むしろ着替えてくれ。俺たちはお試しで一週間、少年にこの世界を案内するんだ。よけいな揉め事が起きないようにするのも俺たちの仕事だ」
バサッとジャケットを脱いで、ためらうことなくシャツも脱いで着替える男。露出狂である。いや、下着は替えないようだ。セーフである。
男子高校生は「そうなんですね、よろしくお願いします」などと言いながら着替える。こちらはチラチラと外国人美少女に視線を向けていた。恥ずかしいらしい。初心か。
ちなみに外国人美少女は着替えないようだ。
元の世界でじゃっかん浮いていた服装は、異世界では浮かないらしい。用意周到である。
「さて、まずは街に案内しよう。少し歩いてもらうことになるけど」
「待ってください、チートスキル! さっきあの女の人がチートスキルをつけられるって」
「そうだな、先に説明しておこうか。ちょっと待ってくれ、えーっと」
「翔です。飛翔の翔で、そのまま『ショウ』って読みます」
「俺は異世界案内人のカイト、あの子はエリカだ。エリカ、いつものを頼む」
「はいっ! むむむっ……」
「あの、これって?」
「気にしないでくれ、ショウ。どの異世界でも通じる〈鑑定魔法〉は『エルフ稀代の天才魔法使い』でも難しいらしくてな」
「え? え? 鑑定? いやそれはいいとしてエルフ? 天才?」
「ああ。ああ見えて、エリカはエルフで、天才だ。俺と違って自力で『異世界転移』を果たしたほどに。たぶん元の世界で一番の、魔力量と質、魔法に関しては複数世界でも有数の使い手だろう」
「……は?」
「あの感じを見てたらそうは思わないよなあ。あの見た目で、あのエロ体質で」
「わかりました! ショウくんが身につけたスキルは『無属性魔法Lv.MAX』です!」
「無属性……? レベ…….MAX?」
「無属性魔法か。ちょっと面倒ごとが起こるかもな」
「えっえっ? その、『無属性魔法Lv.MAX』って強くないんですか? チートスキルなんですよね?」
「どんな魔法でも、Lv.つきスキルありの異世界ならMAXは強いです! 自信持ってください!」
「エリカが言うように、強いのは間違いない。『チート』の言葉通りに」
「じゃ、じゃあ問題ないですね、この世界ならボクは特別で、『無属性魔法Lv.MAX』で活躍してみんなの助けになって」
異世界の森の片隅で、ショウと名乗った男子高校生は顔を上気させて、ぐっとガッツポーズを作る。
そこに、秋葉原の路地裏で肩を落としていた少年の姿はない。
「それで、無属性魔法ってどんな魔法があるんですか?」
「えっと、この世界の魔法体系では、衝撃を飛ばす〈ショット〉、透明な壁で攻撃を防ぐ〈ガード〉、無機物を生み出す〈ゴーレムメイク〉が有名です!」
「すごいすごいすごい! これならボクでも役に立ちそうですね! ボクは戦ったことがありませんし、ゴーレムは頼りになりそうです!」
「たしかに、攻撃・防御・便利魔法は揃ってるんだけどなあ」
テンションが高いショウとは違って、カイトは浮かない顔だ。
無数の異世界の中から選んだはずなのに、「この世界の魔法体系」を把握しているエリカの異常性はスルーである。
「最初の目的地はあの街でいいんですよね? さあ行きましょう!」
喜びのままに、ショウは森を歩き出した。
が、すぐに立ち止まる。
目の前の獣道を、どちらに進めばいいかわからなかったらしい。
「まだ説明は途中で……まあ、あとでフォローすればいいか」
「そうですよ、異世界案内人・カイトくん。それも私たちのお仕事ですから」
「あの? お二人とも? 街はどっちでしょうか?」
「すまんすまん。では、案内しよう。まずは最寄りの迷宮都市へ」
「よろしくお願いします!」
立ち止まるショウを、案内人のカイトとエリカが追い抜く。
うしろにショウを連れて、森を歩き始めた。
「あの、迷宮都市ってことはダンジョンがあるんですか? そこを探検する冒険者も?」
「あるし、いるぞ、少年。ここはそういう『異世界』だからな。まあその辺は街に着いてからしようか。ここは日本と違って、街の外は安全じゃない」
「そ、そっか! モンスターとか! 盗賊とか!」
「そう、この第6587m世界 mdagy星にはモンスターが存在するし、エウロ大陸ピカルド国には盗賊やならず者もいる。ってことでさっさとここを離れよう」
森の中の獣道を、スーツから着替えたカイトが先導する。
なんだかご機嫌な様子のエリカが横を歩く。
ショウは、キョロキョロしながらその後ろをついていった。
ブツブツと小さな声で、身に宿ったチートスキルを妄想しながら。
だが、少年の、ショウの期待は間もなく裏切られることになる。
迷宮都市のダンジョンに入りたいと案内人にリクエストして、登録が必要だからと案内された冒険者ギルドで。
「はははっ! 無属性魔法だってよ! ひょろっちいガキが使えねえスキルで粋がってやがる!」
————テンプレである。