第0章 プロローグ
第0章のみ一人称です
やっとこの日が来た。
祝ってくれた両親と妹を振り切って二階に上がる。
部屋の扉を閉めてパソコンの前に座る。
「ふう。やばい、緊張する」
深呼吸する。
スマホをパソコンの横に投げ出す。
俺のスマホはフィルタリングがかかってて、今日この日を迎えても役に立たない。
震える指で、俺はパソコンを起動した。
ネットを立ち上げる。
一足先に18歳になった友達から聞いた、魔法の言葉を打ち込む。
画面が切り替わる。
オトナの女性が微笑んでいた。
「まだ、まだだ。今日からはこの先が本番だ。焦るな俺」
さすが友達オススメの優良サイトなだけあって、わかりやすく警告のメッセージが表示されている。
『あなたは18歳以上ですか?』
いままで、俺は何度もこの質問に阻まれてきた。
学校には「そんなの無視してるけど?」ってヤツもいたし「俺のスマホ、フィルタリングかかってないから」ってうらやましいヤツもいた。
ちゃんと守ってきた俺はマジメなのかもしれない。
でも。
「今日でやっと18歳。高校生だからリアルじゃ止められるだろうけど……大丈夫、これはネットだ。18歳ならOKだ」
高鳴る鼓動を抑えてカーソルを動かす。
クールだとか無表情だとか何考えてるかわからないとか言われるけど、俺にだって感情はある。欲求はある。
「さあいくぞ俺。オトナの世界に足を踏み入れるんだ」
カチッとYESのボタンを押した。
YES。生まれて初めての圧倒的なYES。
画面が切り替わる。
読み込みを待つ。
「ついに……焦るな俺、興奮はこの先にある。くっ、なんだかカラダが熱く……熱く?」
熱を感じる。
男のアレに熱を、じゃなくて。
めずらしく昂ぶる俺の気持ちに反応したみたいに、ヘソの下あたりからカラダが熱くなってくる。
「なんだこれ? どんどん熱くカラダ中に広がって、熱でも出たか、でもこんな急に」
動揺する俺をよそに、画面にはエロい目で俺を見つめる巨乳美女が映った。
「さすが親友、俺の趣味をよくわかってる。ついに、18歳になった俺はついに堂々とエロサイトを見られるように、って熱っ、マジでなんだこれ俺のカラダどうなって、」
やたらエロい女の人が消えた。
というかパソコンが消えた。
「は? いてっ」
どさっと尻餅をつく。
イスも消えたらしい。
「は?」
パソコンやイスが消えたところじゃない。
部屋が消えた。
「…………はい?」
俺は地面に座り込んで、手には草の感触があって、風が吹いて葉っぱがガサガサ音を立てて——
「えっと…………なにこれ」
目の前には、森が広がっていた。
俺は部屋にいたはずなのに。
18歳の誕生日を迎えて堂々とエロサイトを見ようとしたのに。
見ようとしただけじゃないけどいまそれはどうでもよくて。
いつの間にか、カラダの中の熱は消えていた。
見渡す限り森が広がっている。
「いやほんとなんだこれ」