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第八話 偽善と自己満

ジャンル別日刊ランキング六位になってましたー。

めっちゃくちゃ嬉しいです。

「櫻葉、話がある。」


 大ノ宮高校二学年、スクールカースト第一位《十文字昴》は俺をそう言って呼び止めた。

 俺の前を歩いていた拓と菜月は十文字が俺を呼び止めたことに気付かず先を歩いていってしまった。

 おいお前ら、俺がいないことに気付けよ…そんなに俺って影薄い?


 俺は十文字の方へ首だけを向ける。


「なに?少しだけならいいけど。」

「助かる…そうだな…、屋上に行こうか。」


 俺は黙って頷いた。




 ****




 流石に二時間目と三時間目の間のだけあって、屋上に生徒は一人もいなかった。

 無人の屋上に風が吹き荒れ、俺と十文字の髪が大きく揺れた。不意に春咲さんが昼飯を食べている用具入れの方を眺めるが、用具入れの後ろに出来ている空間は見えなかった。どこからも死角になっているというのは本当らしい。

 俺は柵に肘をかけた。


「で?話って?」


 十文字は『はぁ』と溜息をついた。

 おいおい、スクールカースト一位様がこんな底辺の前で溜息なんてつくなよ。溜息をつきたいのはこっちだぜ。


「やりすぎだ。」

「…?小村との口喧嘩のことか?」

「あぁ、確かに火種を蒔いたのは小村さん達だ。でも、君の最初の一言で小村さん達をよく思ってない生徒達に拍車がかかった。結果的に彼女は泣いていたろ。」

「知るかよ。十文字も分かってんじゃねぇか。先に吹っかけてきたのは向こうだ。こういう言葉知らない?『撃っていいのは撃たれる覚悟のあるヤツだけだ。』だったら俺はこう言うね、『泣かしていいのは泣かされる覚悟があるヤツだけだ。』結果的に泣いたとしても自業自得って奴だよ。」


 自分でも不思議に思う程口が軽快に動いた。

 十文字は軽口をヘラヘラと叩いていた俺を軽く睨んだ。俺の陰キャセンサーが働き、十文字から視線をずらす。

 こえ〜。てか自分で言っといて陰キャセンサーってなんだよ。要らないんだけどそんな不名誉なセンサー。


 十文字は俺を睨んだまま、ゆっくりと口を開いた。


「実際に被害を受けていたのは君じゃないだろ。」

「ん?」

「実際に小村さん達の標的になってたのは春咲さんだ。君じゃない。」

「だから見て見ぬふりしてろって言うのかよ…、バカ言ってんじゃぇ。そんなの出来るわけ…」

「今まではしてたろ」


 俺の言葉に被さるように、十文字は声を発した。

 そしてその言葉を聞いた途端に俺は大きく目を見開いた。

 十文字は俺と向き合っていたが、足を動かし俺の隣で俺と同じように屋上の柵に肘をかけた。空を見上げながら言う。


「今までは君は、春咲さんを助けはしなかった。それどころか、君は春咲さんがあんな状態になっている事すら知らなかったんじゃないのか?」


 十文字は一度唇を舐め、言葉を続ける。俺はそれを黙って聞くことしか出来ない。


「いつも隣の席にいながら、君や市山くん、菜月さんは彼女に手を差し伸べようとはしなかった。いつもヘラヘラ笑って、自分の事以外見ていない…。そんな自己中な人間じゃなかったのか?君達は。」

「…っ!」


 何かを言い返そうとしたが、言葉が出なかった。

 いや、もしかしたら何かを言おうとしたのかもしれないが、そんな事は無駄だと悟ったのだ

 十文字の言うことは全て真実を示唆していた。


 俺は見て見ぬふり所か、春咲さんが困っている事すら最近まで知らなかった。

 目の前の事だけ見て、ヘラヘラ笑って、一番近くにいたはずの俺は、春咲さんに手を伸ばさなかった。でも…


「櫻葉。君のやってる事が悪い事とは言わない。けど、僕は君が突然、なぜ春咲さんを庇おうと思ったのかがわからない。それは傍から見れば偽善だ。」


 でも…昨日春咲さんが腹を割って話してくれた時に、俺がなんで春咲さんを助けたのかっていう答えは出たじゃねぇか。

 たったらもう、悩む必要なんてない。俺は口を開く。

 

「寂しかったんだ。」

「なに?」

「お前も知ってんだろ…綾小路に振られて…俺、普通に落ち込んでた。綾小路と付き合ってた毎日を忘れられなくてさ…笑えるだろ?未練なんてありまくりなんだよ。けどそれで、俺は春咲さんに気付けたんだと思う。」


 俺は十文字の目を見据える。


 多分次は、俺が十文字を睨んでいる。十文字の大きな瞳に、堂々と立つ俺の姿が写った。



「俺達は兎なんだよ。誰かに寄り添わなきゃ生きていけない。ダサくて、弱虫な兎だ。けどな、そんなクソッタレな兎同士だからこそ、俺達(俺と春咲さん)は互いの存在に気付けたんだ。自分の傷見せあって、舐め合って、自分と相手の心の溝を埋めていくんだ。自己中?偽善?はは、上等!俺が助けたいと思うから助けるんだ。“俺が春咲さんと一緒に居たいと思うから助けるんだ。”」



 十文字は驚いた表情でも俺を見つめていた。目を大きく見開き、口をポカンと開け、そして…


「ぷっ…あっはっはっはっはっ!!」


 …大笑いしやがった。


「な、なんだよ。面白いことなんて言ってないぜ?」

「い、いやごめん。くく…君にそこまでの覚悟があったなんて、知らなかった。」

「なっ…!んだよ…恥ずかしい事言ったのに大笑いしやがって…。」

「『俺が春咲さんと一緒に居たいから助ける』…ね。うん、実にいいよ。君らしい実に自己中な言葉だ。でもそれ、捉え方によっては告白にも見えるけどな。」

「こく…っ!!そんなつもりはねぇよ!!」


 あぁ。調子狂うな…なんだこいつホントに。

 しかもこいつ軽く俺の事ディスったよね?自己中な言葉だって言ったよね?

 …。でもこいつの言葉自体に、嫌味とかそういう感情は含まれてなかった。

 なんかよく分かんないけど、俺を試したっつーか、なんというか…。わからん。


 十文字はやっと笑いが収まったようで、いつもの爽やかな笑顔を俺に見せた。


「君は凄いな。」

「ん…どういう事?」

「…いや、なんでもない。次の授業が始まる。教室に戻ろう。」


 十文字はクルリと後ろを振り向き、屋上の出口に向かって歩き出した。俺はその背中を見つめ、十文字が校舎に入るドアのドアノブに手を掛けたところで、話しかける。


「お前…春咲さんのなんだ?」


 十文字はこちらに顔を向けず、ピタリと止まった。

 屋上の上を飛び回る鳩を悲しそうに眺め、大きく溜息をついた。


「ただの中学からの同級生さ…。クソッタレで、自己中で、彼女から伸ばされた手を拒絶した…ただの知り合いだ。」

「拒絶した?」


 十文字は再び俺の方に振り向き、悲しげな顔と声で言った。


「もしかしたら…」


 一度躊躇い、続ける。


「もしかしたら…今の君の居場所は…。春咲さんの隣は…、僕だったかもしれない。」


 十文字の言っている事を、俺は理解出来なかった。


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