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第七話 本当の友達は誰だ?③

初めて評価を頂きました…!

こんなに嬉しいものなんですね…!

 俺の無意識に放った一言で、クラス中が沈黙に陥った。全員の視線が俺の方を向き、顔に驚愕の表情を見せる。

 そりゃそうだ。普段なら教室の端っこでヘラヘラしてる根暗生徒がスクールカースト上位の生徒に暴言を放った。もうね、これ天変地異レベルだからね?俺今世界ひっくり返してるからね?

 俺が言葉を放って十秒程経った今でも、クラス視線の的は春咲さんではなく俺に向いている事が目に見えて分かった。


 隣にいた拓が言う。


「エータロー、お前凄い事言うな…。」

「ふん。」

「でも、そういうの嫌いじゃねぇ。」


 拓はニヤリと笑う。そして、大袈裟に椅子に寄りかかりながら声を張り、殆ど笑いながら言った。


「いやぁ、猿にチンパンジーか!こりゃぁ今世紀最大の比喩表現だなぁ!」

「なっ…!!」


 春咲さんを馬鹿にしていた女が、顔を真っ赤にしながら悔しそうな声を上げる。

 そして、《猿》という表現がウケたのか、周りからは嘲笑とも取れる笑い声が響いた。


「調子乗ってんじゃねぇよ、クソ陰キャ共が!!てめぇらには話しかけてねぇだろ!!」

「なんだ?随分わめくじゃねぇか。図星か?」

「黙れ!!」


 俺の声に被さるように女子生徒は言った。

 すると、俺が反論したことに拍車がかかり、拓の隣にいた菜月が楽しそうに口を開く。


「なぁ、小村(こむら)。別に櫻葉と拓はあんたらに対して猿だなんて言ってないと思うぞ?なんだ?自意識過剰か?」

「はぁ…って、菜月…さん…。」


 俺達の取り巻きの誰かが言ったのかと思ったのか、女子生徒は最初は強気だったものの、自分よりカースト順位の高い菜月が話しているわかった瞬間『さん』付けの低姿勢かよ。


 てかあの女子生徒…小村って言うのか、別に覚えなくてもいいや。

 もう関わることもねぇし、関わりたくもねぇ。


 今この瞬間のみ、クラスの中で少数の対立ができた。


 春咲さんが座っている長机を挟んで、右側の俺達三人と、左側の小村率いる五人。

 小村は既に茹でダコのように顔を赤くして泣きそうな面をこちらに向けいる。

 取り巻き達は小村が押されている事に気付いたのか困惑するだけで、何も言わない。


 仮にこの喧嘩が問題になったら加害者として扱われるのは向こう側だ。それを見越してさも自分らが関わってないように見せかけるんだとしたら、俺はアイツらを褒めて称えよう。友達を見捨てた非情で残忍な生徒としてな。


 自分の取り巻きをギロりと睨んだあと、小村は俺達を指さしながらほぼ叫び声のように声を発した。


「大体あんたらなんなんだよ!!最近までは見て見ぬふりをして来たチキン野郎のくせに、一昨日から私達の邪魔しやがって!春咲!!」


 小村が春咲さんの名前を叫んだ。春咲さんは身体を震わせる。春咲さんもどうしたらいいのか、という顔をしながら小村の方に向いた。


「あんたはどっちなんだ!!私たちは友達だよなぁ!!それとも…」


 小村は再び俺達三人を指さした。発せられるのは先程までのような甲高い声ではなく、ほぼ怒号だ。喉も枯れてきているのか、しゃがれた汚い声が教室に響く。

 耳障りなことに変わりはない。


「あいつらが…、友達なのか!!!??」

「え…?…わ、私は…。」


 春咲さんが俺の方を見る。視線がぶつかり合った。俺、拓、菜月は春咲さんの目を見つめる。

 そして、春咲さんは小村の方を向いた。震えながらも、口を開く。


「菜月さんは…今日知り合ったばかりだけど…私を庇ってくれました…。とっても嬉しかったです。」

「はぁ?」


 小村の表情がさらに曇る。


「市山くんは…私を笑わせてくれます。ちょっとだけ、 …えっちで頼りない所もありますけど…彼はとても、心が広い方です。」

「何言ってんだよ…あんた!!」


 小村は後ずさりをする。意識的にか、無意識にかは分からない。一歩、また一歩と後ろに下がる。

 春咲さんは自分の胸に手を置き、涙を我慢した赤い目で小村を睨みつける。


「櫻葉くんは…いつも私に優しくしてくれます。あなた達から私を守ってくれました…、私に手を差し伸べてくれました…。私を…“ほんとの友達”にしてくれました!!」


 春咲さんは『すぅ』と息を吸った。

 そして、これまでにない程大きな声で、小村に向かって叫んだ。



「私のお友達は櫻葉くん達です!!あなた達ではありません!!」



 『おぉ』という声が辺りから聞こえてくる。『やるじゃん』、『素直な子だなぁ』という春咲さんを褒める声が聞こえてくる。

 俺達三人は顔を見合わせて軽く笑った



 そして、叫ばれた当の本人小村は…ギリッという歯ぎしりと共に、怒りに満ちた顔を剥き出しにしながら、先程の春咲さん以上の声を上げる。

 その声はまるで耳元で叫ばれているようで、思わず耳を塞いでしまいそうな程だった。



「ふざっけんじゃねぇ!!!ボッチだったアンタを助けてやったのは誰だと思ってんだ糞が!!!てめぇはあたし達に黙って従ってりゃあいいんだよ!!あたし達が居なきゃ何も出来ねぇクズが…、突然イキりだしやがって…!!調子に乗ってんじゃ…」



「うるさいなぁ!!」



 小村の声を遮ったのは、俺でも、拓でも、菜月でも、春咲さんでもなかった。

 美術室の一番端っこで、俺達の今までの会話を黙って聞いていた十文字グループの一人。


 俺の《元カノ》綾小路由奈が、小村を睨みながら口を開いていた。


 美術室は静寂に満ちた。


 十文字グループ全員の冷厳たる視線が、一気に小村に集まる。

 うわ、こええ…。なんだよあの目…絶対人殺してんだろ。殺人鬼の目だよアレ。


「あ、…あぁ…ごめ…ごめんなさい…」


 小村は口に手を置き、泣きだしそうな顔で十文字グループを見ていた。そして…


「はい!喧嘩終わり!!」


 いつもの明るい声に戻った綾小路は、手をパンっと叩き場を沈めた。綾小路の視線は、ゆっくり俺の方を向く。

 そして口を開いた。


「栄太郎君もやりすぎ。女の子を泣かせちゃダメだよ?」

「…。」

「春咲さん、もう一回座ってもらえる?まだ描けてないんだ。」


 十文字が春咲さんに爽やかな笑顔で話しかける。ハッと我に返った春咲さんは、黙って頷いた。


「…あぁ、はい。分かりました…。」


 春咲さんは再び机の上の椅子に座り、被写体となった。

 俺は春咲さんのスケッチを仕上げると同時に、小村達の方を見る。


「…はぁ…はぁ…はぁ…許さない…絶対、許さない…!」


 恨めしそうに俺の方を睨みながら、激しく息を漏らしている小村。だから怖いって。なんてスクールカースト上位陣はあんなに怖いの?ホラー?

 取り巻き達が小村の背中をさする。


「大丈夫?未知(みち)ちゃん。」

「あいつらさいてー。」

「保健室行こ?」

「泣かないで」


 なんだあいつら。被害が収まった瞬間にあれかよ。

 なぁにが友達だ。笑えるな。あんな上辺だけの関係が友達なものか…やっぱり怖い怖い。


 その後先生が戻ってきて、そのまま俺達は何事も無かったかのように授業を進めた。

 そして授業が終わり、俺、拓、菜月は教室に戻るために廊下を歩いていた。


「おい、俺ってばちょっとえっちだけど、心の広い人なんだって?しかも女の子に“えっち”って結構御褒美だぞこれ!!」


 拓が菜月に向かって自分を指さしながら言った。菜月は赤黒い髪をバサッと払いながら、嘲笑の笑みで拓に一喝入れる。


「調子乗んな。ひなったんがお前のいいところを適当に挙げただけだよ。」


 ひなったん…?あぁ春咲さんのことか。春咲日向だもんな。菜月にしては随分可愛らしいアダ名じゃないか。


「櫻葉。」


 背中に声がかけられた。俺は振り向くが、拓と菜月は気づかないようで先に行ってしまった。

 そして、俺は俺を呼び止めた人物に話しかける。

 なぁんでこんな奴が俺に話しかけるかねぇ…。

 男子生徒。爽やかな顔つき、脱色された髪の毛。制服こそ着崩されていないが、俺と同じワイシャツを着ているだけだと言うのにオシャレに見えてしまう。


 俺は溜息をつきながら、答える。


「どうした?十文字。」


 スクールカースト最上位、十文字は『溜息とは酷いな』と笑いかけながら、口を開いた。


「話がある。次の休み時間、空いてるかな?」

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