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第五話 本当の友達は誰だ?①

 風を切る音と共に、俺は朝の住宅街に自転車を走らせた。


 やっべぇ。これ急がない遅刻だぞ…。

 楓の野郎…今日朝早く出るなら昨日のうちに言ってくれよ!

 なんでテーブルの上の置き手紙に『今日早いから早く起きてね!!』って書いてんだよ、誰に向けて書いたものなの!?それ書いた時俺寝てたろ!?

 でも可愛いから許しちゃう!あぁ神よ…慈悲深い我を許し給え。


「エータロー!」


 聞き慣れた声の方向に視線を送ると、数十メートル先の住宅街の十字路にスクールバッグを背負った拓が手を振ってる姿が見えた。もう六月で衣替えの季節に入っており、拓は学ランを羽織っておらず長袖シャツをまくっていた。ちなみに俺もそれと同じ格好である。

 俺は拓の前まで移動すると自転車を止めて、あからさまに大きな溜息をついた。


「拓がいるってことは…遅刻か…はぁ」

「まだ確定じゃねぇよ!そういう言い方やめろ!…てか、後ろ乗せろ!!そして走れ!」

「バカ言うな!二人乗りしたらスピード出ねぇだろ!てめぇが遅刻しろ変態大魔王!!」

「はーはっはっはっ!!!ならエータロー、てめぇからこのチャリを奪っておれが遅刻を免れる!!」

「お前もう数え切れないくらい遅刻してんだから大丈夫だろ!!」

「数え切れない?ふっ、笑わせてくれる!!まだ二十四回目だ!!」

「数えてんの!?遅刻の回数数えてんの!?」


 朝っぱらから喉を酷使しながら今世紀最もくだらないであろう言い争いを拓としていると、俺達の少し後ろから一つの足音が聞こえてきた。

 その足音は俺と拓に確実に迫り、俺達と足音の主との距離は五メートルを切った。

 しかし俺達は気付かない。忍び寄る大悪魔の足音に…。


 その足音の主は俺達の真後ろで立ち止まり、俺の可愛いケツに向かって…。


「チャリよこせ!!魔法使い予備軍共ォ!!」

「痛ぁい!」


 容赦のない蹴りを入れた。

 俺は蹴られた勢いで拓と衝突。絡み合った俺達はその場に力なく倒れ込む。

 俺達は倒れ込んだまま、俺に蹴りを入れた人物を睨みつける。


 茶髪を黒染めした結果出来た、血のように赤黒いウェーブのかかったロングヘア。学校指定の夏のセーラー服のリボンは外されており、胸元がポッカリと見える。

 無数のキーホルダーが付いたスクールバッグを肩にかけて、短いスカートにやたらでかい胸、そしてムカつく程整った顔をニヤつかせた女子生徒。

 

 男勝りの言葉遣いにでかい態度、こいつは……。

 俺は口を開く。


「てめぇ、《菜月(なつき)》……!」


 我らがクラス二年A組の問題児であり、俺と拓の中学時代からの同級生、《菜月陣子(なつきじんこ)》が倒れた俺の自転車を起こして跨った。


 菜月はニヤケ顔で、ハスキーボイスの口を開く。


「おはよう、櫻葉、拓ぅ!この自転車あたしが使うからよろしく〜!あっ、自転車の鍵は学校で返すから〜!」


 言いながら菜月は俺の自転車を白昼堂々とパクり、俺達に反論の余地も与えず学校に向かって自転車を走らせた。

 俺と拓は菜月の背中を眺め、そして……


「俺の自転車ァァァァ!!」


 拓の涙混じりの叫び声。


「俺のだよ!!」


 櫻葉栄太郎。市山拓。本日も仲良く元気よく、遅刻。





 ****





「「はぁァァ!!」」


 遅刻をした朝のホームルーム後、俺は自分の顔を机の上に置いていたリュックサックに倒した。

 俺の前の席に座っている拓も、同じような溜息をつく。

 今日は自転車に乗っていれば防げたはずの遅刻だった…。畜生あのビッチ絶対上履き隠してやる。寝てる時にマッキーペンでホクロひとつ増やしてやる…。


「あの、櫻葉くん、市山くん。おはよう…です」


 春咲さんの声が俺の耳に届いた。俺は視線を隣の席に向ける。

 いつもの目にかかる長い前髪を鬱陶しそうに弄りながら、小さな顔に見合わない大きな丸眼鏡を直している春咲さんの姿があった。

 俺は片手を上げて挨拶を返す。


「おう。おはよう」

「遅刻してました」

「こいつのチャリがパクられたからなぁ」


 拓が俺を指さすと、春咲さんは少し驚いた表情を見せた。焦った口調で話を進める。


「え?そ、それって大丈夫なんですか?警察に」


 やべ。なんか勘違いしてるっぽい。拓もそれに気づいたのか、直ぐに訂正する。


「あぁいや、多分そろそろあのクソビッチが鍵を返しに……」「誰がクソビッチだ。腐れ童貞」


 突如と現れた菜月に後ろから後頭部を殴られた拓は、産まれたての赤ん坊のように首が大きく揺れ、頭を机の上に力なく落とした。


「拓ぅう!!」

「うるさいな、朝っぱらから。ほら、鍵返しに来たよ」


 菜月は親指と人差し指で俺の自転車の鍵をプラプラ揺らしながら俺に渡してきた。俺は鍵をひったくるように取り返し、言う。


「てめぇのせいで俺達は遅刻したんだからな。なんか奢れ」

「やだよ。そんなお金ないし。いーじゃん、中学時代からの付き合いのよしみとしてさ!!」


 菜月は八重歯を出してニヤッと笑う。普通に見れば美人なんだけどなぁ。拓も普通に見ればイケメンだし。そういや春咲さんも眼鏡外せば美人だし。


 あれ?なんか俺……ハブ!?


 いやいや、待て待て。もしかしたら俺だって?ほら、あれだよ。前髪を上げたらカッコイイみたいな奴?


 ……。  


「誰がブサイクだこの野郎!!」

「突然どうした!?何も言ってなくね!?」


 ……おや?


 俺は自分のシャツが掴まれるような感じがした。振り向くと、いつの間にか俺の後ろに春咲さんが隠れるように居た。春咲さんは菜月を警戒するようにじっと見つめ、菜月と目が合うとビクッと体を揺らし俺のシャツを握る力を強くした。

 俺は視線を春咲さんにずらして言う。


「春咲さん。大丈夫だよ。こいつは危なっかしいけど悪い奴じゃあない。十文字グループとはちげーよ」


 十文字グループも別に悪い奴らじゃねぇけどな。

 けれど十文字グループを春咲さんが苦手にしてるのは知ってる。


 そして目の前にいる菜月も十文字グループは嫌いらしい。見た目だけなら同じ人種だけどな…本人曰く、『見た目は百歩譲っても、あたしとあいつらじゃ根本は違う』だそうだ。


 以前に何故そこまで十文字達を毛嫌いするのか聞いた所、『十文字みたいな誰にでも人当たりが良い奴は信用出来ない。本当に心を開いている奴がいる人間は、あんな芸当は出来ない』と言っていた。


 菜月は俺の後ろに隠れ、俺の背中に額を置く春咲さんに視線を向けながら、笑った。


「おいおい櫻葉。お前浮気か?」

「いや陣子。こいつ別れたの知らねぇの?」

「え!?まじ!?ウケるんですけど!!ぷーくすくすくす!!」


 いつの間にか復活していた拓が菜月にその事を報告した後に、菜月は小馬鹿にするように俺を見ながら笑った。こいつら……!!


 拓と菜月は互いを名前で呼ぶ。俺は違うが拓と菜月は幼稚園時代からの付き合いらしい。

 家同士の仲もよく、俺が菜月と中学時代に知り合ったのも拓経由だ。


 って言うか……。


「てめぇ拓。人の別れ話を簡単にホイホイ喋んじゃねぇよ」

「いいじゃねぇか!過去は水に流そうぜ!!」


 拓は俺の肩をポンポン叩く。俺は鬱陶しそうにそれを払った。


「お前が流してんのは水にじゃなくて、人にだよ!」

「ま、あたしはいい判断だと思うぞ」

「いい判断つーか、こいつが振られたんだけどな」


 俺は拓の肩を一発殴った。余計なことは言わなくていい。


 菜月は腰に手を当てながら横目で少し離れた場所で雑談をする十文字グループに目をやる。

 俺達三人もそれに釣られて、十文字グループの中にいる綾小路を見た。


「綾小路由奈。あいつなんか信用出来ないというか、あんまり良い目で見れないって言うか……」

「なんでみんなそう言うかな」


 俺は綾小路から視線をずらした。そっと伏し目になり、スマホの待ち受け画面の綾小路とのツーショットを見る。

 

 はぁ…俺の何がいけなかったんだろうなぁ…。


「あの、櫻葉くん…」


 クイクイと俺の袖が引っ張られる。俺は春咲さんに顔を向けた。

 春咲さんは少しだけ焦っているように見えた。


「どした?春咲さん」

「あの…そろそろ一時間目が始まります」

「一時間目ってなんだっけ?」

「美術です」


 美術です。その言葉を聞いた途端に、春咲さん以外の俺達三人の顔が一気に青ざめる。

 見ると、先程までいた十文字グループの姿どころか、教室に残っているのは俺達四人のみ。

 全員が既に美術室に移動しており…そして…。



 キーンコーンカーンコーン!



「はしれぇぇぇ!!」


 俺は咄嗟に春咲さんの手を掴んで拓と菜月と共に走るが、時は既に遅く、俺達は一時間目も見事遅刻になった。


 はは…ハットトリック達成…。







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