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第二十三話 陰キャと温泉と甘酒と

「草津きたぁぁぁあ!!!」


 大ノ宮のバスターミナルから約三時間。草津温泉ターミナルで俺達は下車した。

 辺りには家族連れの観光客や、俺達と似たような高校生グループにとどまらず、外国人観光客でも溢れていた。

 バスターミナルから右へ視線をそらせば、草津の町の所々で白い煙が上がっている。遠くに見える細い路地に並ぶ出店や、温泉巡りをしているのか、髪が濡れた観光客が歩いていた。

 拓が声を上げたので、俺もキャリーケースを引きながら返す。


「温泉街って雰囲気いいよなぁ。旅行に来たって感じがするぜ」

「櫻葉ぁ。なんか臭くね?ゆで卵みたいな」


 菜月がいつの間にか俺の隣にいたので、俺は視線を町に配ったまま返した。


「硫黄だよ。源泉がそこら中に湧いてるからな。確かにちょっとキツイけど、まぁすぐ慣れるだろ」

「エータローくん。これからどうするんですか?」

「ああ。とりあえずここから歩いていた十分くらいで湯畑に着く。足湯とか出店とかもあるから、旅館のチェックインまで適当にそこらで遊んでようぜ」

「なんかエータロー引率の先生みたいだな……」

「黙ってっとお前らが勝手な行動取るからだよ!!!」


 言ってやると、菜月が俺の肩に手を回してくる。


「じゃあわたしらの責任はお前の責任だな、櫻葉先生」

「菜月……。お前なぁ!」

「じゃあ早速湯畑とやらに行くぞ!!着いてこい、お前らァ!!」

「あぁ!!ズリぃぞ陣子!!」

「おい!拓!!菜月!!走んなぁ!!……ったく、言ったそばから……。俺達も行こうぜ、日向」


 俺達三人のやり取りを笑ってみていた日向に視線を送ると、日向もニコッと頷いた。


「はい、櫻葉せーんせっ!」

「ひ、日向もかよ……。はは」


 俺達は顔を見合わせ、どちらともなく笑いあった。



 湯畑に着くと、俺はその美しさに圧巻された。

 なんと……!写真や映像では何度も見たことはあるが、こう実際に間近で見ると、やはり迫力が違う。

 湯畑の周りには瓦が敷き詰められた歩道、そして湯畑を囲う石柵と出店、湯畑から見上げれば、白根山がよく見える。

 俺達四人は柵から身を乗りだし、湯畑を眺めた。


「すっげぇな。なぁエータロー、この湯畑はどんなとこなんだっけ?」


 俺は丸めてケツポケットに入れていたガイドマップを開き、それを読んだ。


「んー。ああ、知っての通り、草津で一番の観光名所で、日本三名泉の一つだとよ。毎分四千リットル。一日単位だと、ドラム缶二十三万本の源泉が湧き出てるらしい」

「毎分四千……!?一日でドラム缶二十三万!す、凄いですね……!!」

「確か、湧いてくるのはすげぇ酸性なんだよな。殺菌効果があるとかなんとか」


 菜月が言うので、俺は答えた。


「pH濃度は2.1のド酸性だな。……これを使った《湯けむり亭》っていう足湯があるんだが、行ってみるか?」


 確認するように俺の右にズラリと並ぶ三人を見ると、全員がコックりと深く頷いた。石柵から離れ、近くにある湯けむり亭へと向かう。

 拓と菜月が並びながら歩いているのを後ろから日向と見ていたら、日向が口を開いた。


「わ、私……お友達と旅行って初めてです」

「そうなのか?……あぁでも、俺もそうかも。拓の家に俺が泊まったり、俺の家に拓が泊まったりはした事あるけど、こうやって友達とガチの旅行って初めてだ」

「え、エータロー君達もそうなんですか!?」


 日向がバッと身を寄せてくる。おお……ち、近い。


「うん。友達と旅行は初めてだ」

「ふひひ……。じゃあ私達、両方初めて同士ですね。エータローくんと、初めてが一緒です。ふふっ♪」


 口元を抑えて控えめに笑う日向はとても可愛らしいのだが……。

 あんまり初めて初めてって言わないで欲しいんですけど……、初めて同士とか辞めてよ。健全な男子高生は別の方向に想像しちゃうからさ……。


 む……。この前ショッピングモールで買った桜のヘアピンが少しズレて、前髪が垂れ下がろうとしている。

 俺は『ちょっとストップ』と言う。


「なんですか?」

「いや、ヘアピンが取れかかってるぞ」

「ほえ……や……あっ……」


 俺は日向の前髪に手を伸ばし、ヘアピンを付け直してやった。


「あ、ありがとうございます……。エータローくん」


 恥ずかしげに日向が俯いたので、俺も不意に視線をずらしてしまう。


「お、おう。ちゃんと付けとけよ……。ほ、ほら行こうぜ、拓達が待ってる」

「はい」



 湯けむり亭はかなりの人だかりだったが、ちょうど四人程度が座れるスペースがあったので、俺達はそこに腰掛けた。靴と靴下を脱ぎ、恐る恐る足を温泉に入れる。


「うぇぇええええ!!生き返るねぇ、ひなったん」

「あはは……!菜月さん。なんかお父さんみたいですよ!」

「強酸性だから、数分足を浸けただけで温浴効果を得られるらしいな」


 俺の講釈の途中なのにも関わらず、横から邪魔が入る。


「おいエータロー……見てみろよ」

「あん?」


 拓が俺に耳打ちで聞いてくるので、俺は拓の向いている方向へと視線を写した。


 なんと、とんでもない。キャッキャッ!!という擬音がよく形容されている大学生程の女子達が、足湯に浸かりながら談笑をしているではないか。しかも……全員が美人だ。


「ええなぁエータロォ。おなごがキャッキャッしてるのはええなぁ……。女子大生の生足を合法的に見れるとは……足湯バンザイ……草津バンザイ……俺達バンザイ……」


 何を言っているのだこの男は。

 とかく言う俺も、思わず女子大生グループの生足に釘付けに……


「おい。櫻葉、拓」

「へいなんでしょう姫」

 

 拓の切り替わりの速さよ。


「女子大生の生足ばっか見てんじゃねぇ。通報されんぞ!」

「な、何を言う陣子よ。不可抗力だろう!」

「いやお前ガン見してたじゃん……」

「え、エータローくん……その、やっぱり、そういうのが……」

「え!?あ、いや違う!違くないけど違う!!」

「櫻葉に拓!!お前らは何も分かっていない!」


 突然菜月が繰り出す。

 菜月は日向の体を引き寄せ、自分の足と日向の足を絡ませやがった。……お、おぉ……。

 日向は驚いた様子、そして、菜月はニヤニヤしながら言ったのだ。


「こっちには現役JKの生足が四本もあるんだぞぉ?希少価値的にこっちを見るべきじゃあないのかね、童貞共よ」

「や、やめてください!菜月さん!!」

「なんだよ、ひなったん!照れちゃってぇ!ほれほれ、もっとおじさんと足を絡ませようではないか!」

「な、菜月さん!!?ひゃっ、ひゃっあ!!」


「エータロー……」


 拓が俺の肩に手を置いてくる。そして、一筋の涙を流しながら、グッジョブ。


「いいなぁ。足湯って……!!」

「足湯関係ないし……、なんで泣いてんの?」




 足湯から上がれば、既に旅館へとチェックインが出来る時間になっていた。俺達の旅行は湯畑の近くに位置しており、湯けむり亭から徒歩十五分程で到着。

 福引で当てた旅館なだけあって、外観はかなり豪華だ。とても普通に生きてきた高校生四人組が、プライベートで来れるような場所ではない。周りを歩いている観光客達も、如何にも高そうな身なりをしており、正直俺達は場違いだ。

 中に入り、エントランスでチェックイン。鍵は二本渡された。

 部屋割りは勿論、俺と拓。日向と菜月。

 部屋に入る直前、俺は言った。


「温泉入りに行くんなら早く準備して出てこいよ。特に菜月」

「わーってるよ、櫻葉先生。準備したらすぐだろ?」


 そう言って菜月とど突き合いをすると、俺達はそれぞれ割り当てられた部屋に入った。

 部屋は十畳程の畳が敷き詰められた部屋で、中央には長方形の長机、部屋の奥には窓から外の景観を見るための椅子と丸机が置かれている。

 一度椅子に座って窓の景色を見ていると、机の上に置かれていた和菓子をボリボリ食べながら拓が近寄ってきた。


「中々いい景色だな」

「高級旅館だからなぁ。高校生の俺らには勿体ねーよ」

「だな。……楽しそうだなエータロー。春咲さんと来れて」


 拓がニヤッと笑いながら言う。いつもならここで溜息をついて一瞥で終わるのだが、気分が乗っている俺は言い返してやった。


「そういうお前も楽しそうだな。菜月と来れて」

「はぁ?なんでそこで陣子が出てくんだよ!馬鹿な事言ってんな。アホエータロー」


 そんなやり取りをしていると、部屋のチャイムが鳴らされる。扉の向こう側から日向の声が聞こえた。


「じゅ、準備が出来ましたっ!温泉行きましょう、エータローくん。市山くん」


 俺と拓は顔を見合わせ、部屋に備え付けられた浴衣とバスタオルを掴んで、部屋をあとにした。


 これから行く温泉はこの旅館と共営しているものらしく、旅行内に設置された木製の屋根付きの廊下を渡っていけば直ぐに着く。

 赤い暖簾が女子。青が男子だ。

 拓と『お前赤いけよ』、『お前が行けよォ』という温泉に来た男子恒例の馬鹿なやり取りを交わし、青へ。


 脱衣所で服を脱ぎ、温泉へ。

 先程見た時間は5時半で、既に多くの宿泊客が温泉に浸かっていた。温泉は露天で、様々な効能が書かれた湯がある。

 俺と拓は体を洗い流し、白く濁った湯に顎までどっぷり浸かった。


「くぅぅう!染み渡るぜい……」

「なんかぁ……今までの疲れが全部抜け落ちてくみたいだ……。なんだかんだこの夏休み、色々あったもんなぁ」


 俺が空を見上げて言うと、タオルを頭に乗っけた拓が俺の隣までくる。


「そうだなぁ……。それで?なんか分かったか?由奈ちゃんのこと」

「……分からん。本人に聞く訳にもいかんし、十二月がどうとか言ってた日向に聞くのも気が引ける」

「……うーん。十文字辺りならなんか知ってんじゃねぇか?」

「去年十文字とは違うクラスだったろ?さすがに知らねぇだろ。天下の十文字様でも」

「なぁエータロー。話変わるんだが……」

「あん?」

「《秋人(あきひと)》さん。覚えてるか?」


 覚えていた。本名《菜月秋人(なつきあきひと)》。菜月の実の兄貴だ。

 俺達が中学の頃、一応進学校をなのっている大ノ宮高校よりも頭二つ、三つ抜けた進学校に通っていた。

 俺も何度か話したことはあるが……確か高校卒業と同時に……。


「秋人さんが、どうかしたか?」

「連絡があったらしい。一昨日、非通知でな」

「菜月にか?」

「ああ、ほとんど会話は無かったらしいんだ。電話の向こうでボソボソ声が聞こえて、切られたらしい」

「それ、ホントに秋人さんか?」

「俺はその場にいなかったからなぁ。ただ、陣子は間違いないって言ってたよ……」

「そうか」


 詳しい事情は知らないが、秋人さんは俺達が中学二年の時、高校卒業と同時に家を出て行ったらしい。家族との縁を切ったそうだ。

 大ノ宮最大の進学校に通っていた為か、親からの重圧もかなりのものだったとも聞いている。秋人さんが家を出て行った後の菜月は、とても目を当てられるものじゃなかった。

 いつも死んだ魚みたいな目をして、痛々しい程やせ細っていたのも、記憶にハッキリと残っている。

 あれから三年……なんで突然連絡なんか……。

 拓が続けた。


「元々、高校時代も夜に外出する事が多かったらしい。あんまり思慮深い連中とつるんでる訳じゃ無さそうだったよ」

「大ノ宮に戻ってくるのかな?」

「さぁな。陣子もそこは分からないそうだ。でも……」


 拓は温泉の中で、ギュッと手を握った。そして軽く水面を叩いて、言ったのだ。


「戻ってきたら、一発ぶん殴ってやんないと気がすまねぇ……。あの人が出て行ってから、陣子がどれだけ泣いたのか……分からせてやんねぇと」


 ……。

 俺は拓の頭にチョップを入れる。


「いてぇな!!」

「人の事言えた義理じゃないが、辛気臭ぇんだよ。草津だぞ?温泉だぞ?友達と旅行だぞ!暗い話はやめだやめ。秋人さんが戻ってくるとまだ決まった訳じゃねぇしな」

「……。わぁーってるよ!!もう一回体洗うぞエータロー!背中流せ、背中ぁ!!」

「へいへい……」



 ****



 温泉から上がり、俺達四人は大広間で食事を取った。

 そして時刻は、九時を回ろうとする。


「日向と菜月は?」


 温泉街を散歩して、旅館の部屋に戻ったのだが、隣の部屋から二人の気配がなかったので、俺は部屋の畳に敷かれた布団の上で寝転がる拓に聞いた。


「会ってねぇの?お前と合流するって、温泉街の方に散歩に行ったぜ?」

「マジか。すれ違ったな」

「お前が散歩に出てすぐ行ったから、そろそろ戻ってくるんじゃない(ドンドン)か?」


 拓の声に被さるように、俺達の部屋のドアが叩かれた。なんだァ?チャイムならせチャイム。


「さ、櫻葉!!拓!!早く開け……う、うわぁぁ!!!」

「菜月(陣子)!!?」


 菜月の叫び声。一体何事かと俺達は部屋のドアに向かった。恐る恐る、ドアを開ける。……んな!!?


「菜月さぁん!!もっと飲みましょうよォ〜うふふ……!!」

「ひ、ひなったん落ち着けって……!!きゃあ!!」


 俺と拓の部屋の前に倒れ込んでいたのは、真っ赤な顔をした浴衣姿の日向に押し倒される菜月の姿だった。


「ふふ……。あっ!!エータローくんだぁ!!」

「ひ、日向?お前、顔赤いけど……」

「えぇ〜?そんなことないっすよォ〜〜♪」

「陣子……!お前春咲さんに酒飲ませたのか!!?」

「ち、違う!!温泉街で甘酒を配ってたんだ……。ひなったんとそれ飲んでたら突然倒れてこの状況だよ!!」


 あ、甘酒で酔っ払ったのか……!?


「さ、櫻葉、拓!!あとは頼む!!」

「はぁ?おい、菜月!!」


 菜月は俺に日向を押し付けると、隣の部屋に駆け込んだ。日向は浴衣越しに俺の胸板に顔を押し付ける。


「……エータローくん、あったかぁい……♪ふふ……♪」

「ひ、日向ぁ!!離れろ!!」

「やぁだぁ……!!意地悪しないで……!!日向はエータローくんと、もっとギュッてするの!!」

「エータロー……俺も向こうの部屋行ってるわ」

「お、おい!!変な気を使うな!!」

「エータロー……」

「ん、んだよ……」


 拓は去り際に、肩目を瞑りこう言い放った。


「酔った女の子って、なんかエロいよな」

「ぶち殺すぞ!!!」


 拓も菜月が入っていった隣の部屋に移り、廊下には俺と日向の二人が取り残された。と、とりあえず……この酔っ払いを部屋に入れなくては……。


「ふへへ……エータローくん……エータローくん……エータローくん!!」

「うわ!!」


 日向は俺を引っ張って部屋に入ると、敷かれている布団の上に俺をほっぽり投げた。

 あぐらをかいて布団の上に座る俺の前に、日向は立ちはだかる。


「なんだ頭がポワポワしますぅ……」

「い、一回落ち着け?な?お前酔ってんだよ!!」

「むー。ふひひ……エータローくんと二人きり……」


 日向は俺のあぐらにまたがり、俺の首周りに両手を回してくる。

 日向と俺は向き合った形で、ほとんど密着した状態になった。


 ち、近い……!!てか日向……めっちゃシャンプーのいい匂いがする……!ヤバイヤバイヤバイ!!反応するな俺のエクスカリバー……!!


 そんな俺の考えなど知る由もなく、日向は額同士をコツンとぶつけ合わせた。そして、ニヤリと笑う。


「今夜は寝かせないぜ☆エータローくん♪」


 ヒィィィィイイイイイイイイ!!!

次回は酔っ払った日向回です……

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