番外編 イタズラしたい日向ちゃん
短編を三つほど執筆してみました。本編の箸休めになればと
【イタズラしたい日向ちゃん】
ある日の昼休みでした。
私達は屋上の用具入れの後ろで、いつもの様にお弁当を開いているのですが……
「すー、すー……。おい、拓ぅ……お前なんで漬物石の代わりに爪切り置いたんだよォ……」
エータローくんが、私の隣で寝ています、なんでしょう今の寝言……漬物石の代わりに、爪切り……?市山くんは夢の中でも平常運転ですね。
今は菜月さんと市山くんはいません。委員会の仕事が入ってしまって、今日はエータローくんと二人で食べていました。食べ終わって二人で並びながら談笑をしていたら、エータローくんの頭が私の肩に落ちてきたのです。
ど、どうしましょう。う、動けません。
起こしていいものなのでしょうか。ですが、疲れてるのかもしれません。でもこのまま私の肩に頭を置いたままだと、首を痛めてしまいます。
……うぅ……は、恥ずかしいですが、今は市山くんも菜月さんもいませんし……。
私は正座をして、自分の太ももの上に、ゆっくりとエータローくんの頭を置きます。膝枕……と言うやつです。男の子にするのは初めてです。エータローくんの髪の毛が当たってこそばゆいですが……
……エータローくんの寝顔……。ふふ……
つんつん……♪
わぁ、ほっぺた柔らかいです。なんだか羨ましいです。
つんつん……ぷにぷに……♪
えへへ……♪
私は起こさないように、エータローくんの名前を呼びます。
「エータローくん……ふへへ♪」
エータローくん、全然起きません。
それなら……。私は、エータローくんの頭に手を置きます。いつもぐしゃぐしゃ撫でられるので、お返しです。
……ナデナデナデ……。ナデナデナデ……!
「んん……」
「あっ……」
「すー……すー……」
び、ビックリしました……!お、起きたのかと……。
「すー……日向ぁ……むにゃむにゃ」
わ、私の夢をみてるのでしょうか。寝言に返事をしてはいけないとは、よく聞きますが、私は……
「え、エータローくん」
名前を呼び返します。
「……日向ぁ」
「ふひひ♪エータローくん、エータローくん♪」
ふふ、可愛いです。エータローくん可愛いです。
キーンコーンカーンコーン
あっ、予鈴です。こ、これは起こさなくては。
「エータローくん!起きてください!予鈴ですよっ!」
「んー……すー、すー」
「え、エータローくん!」
………
私は自分の身を屈ませ、エータローくんの耳元に自分の口を近づけます。
そして、吐息を吐くように、エータローくんの耳元で、私は囁きました。
「……は、早く起きないと……い、イタズラしちゃいますよ〜♪」
「イタズラでお願いします」
ガバッとエータローくんは起きました。
「は、早いですね。起きるの」
「あ、あぁ……いや、ほら……あの……」
それにしても、人ってこんなに寝起きいいものでしたっけ……。
あれ?エータローくんの顔が赤い……め、目も合わせてくれません。
え?え?……う、嘘ですよね……?!も、もしかして……!
「あ、あの!エータローくん」
「ひゃ、ひゃい!」
「い、いつから起きてたんですか……」
「あ……あの、日向が俺の事をエータローくんって呼び始めた辺りから……」
あ……あぁ……あぁ……!!
「え、エータローくんのバカ!!寝たフリなんてして……ず、ずるいですよ!」
「い、いや、とても起きれる状況じゃあなかったってか……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
私は、弁明を重ねるエータローくんの腕を握ります。
「な、なに!?」
「い、イタズラします!……というより、バツです」
「バツ?」
「そうです。寝たフリをしてたバツです……。あの、だから、その……えーっと……」
自分の顔が紅潮するのを感じました。エータローくんの顔も、自然と赤くなっています。
私がエータローくんを掴んでいた腕を離して、意識的にエータローくんの手の方へ、自分の手を持っていきます。
私達の指同士が、触れ合いました。
私が手を握ろうとすると、エータローくんは焦らすように、指だけを絡ませてきます。
そして私が『むー』と不機嫌な顔をすれば、エータローくんは笑いながら、キュッと手を握ってくれました。
えへへ……暖かいです……。
片方だけじゃなくて、両手を握ります。
「……き、今日は……手を繋いで……二人で一緒に帰りましょう。それがバツです……」
エータローくんは、私の手を握る力を強めて、言いました。
「……バツになってないんだけどな……。教室戻るから手ぇ離していい?」
「嫌です」
【男同志のジャンケンってなんか盛り上がるよなぁ!?】
「「「「「男気ジャンケン、ジャンケンほい!!!」」」」」
「いよっしゃぁぁぁァ!!!いちぬけぇぇぇぇ!!!」
「はい!四ノ宮喜んだからおまえのまけぇぇぇぇ!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
あ、あれは何をしているんでしょうか……。エータローくん、市山くん、四ノ宮くん、十文字くん、井出くんが集まって、凄い盛り上がってます。じゃ、ジャンケン?
「なんで男子ってあんなんで盛り上がれるんだろうねー。春咲さん」
隣にいた大槻さんが言いました。
「馬鹿だからでしょ」
菜月さんの辛辣な一言。
「いや、猿だな」
真宮さん、それはさすがに酷いのでは……。
「でも羨ましいよねー。あんなんで盛り上がれるなんてさ。私達もおままごとでもすれば、盛り上がれるのかな?」
綾小路さんが言いました。おままごと……ですか。
「いいかも、ですね」
「うん!じゃあ男子も誘ってくるね〜!」
え?
「栄太郎く〜ん!」
「おん?どうした〜?」
「私、お母さんになりたいから、お父さんになって〜!」
「ぶほぉ!!」
「エータローが吐血したァァァ!!!」
【あの日の想い出】
「櫻葉マジ調子乗ってんなよ」
「綾小路さん!アイツと早く別れなよ〜!!」
「櫻葉アイツ俺らが話しかけるとクソキョドるのウケるんだけど!裏で悪口言ってんのバレてたわ〜!!」
……あぁ。聞きたくない。栄太郎くんの悪口は聞きたくない。
やめろ。やめろ。やめろ……!!
「由奈?」
「栄太郎くん……。ごめん……ごめんね?……私と付き合ってるせいで、こんな……!ごめん、ごめん……!!」
「なにいってんだよ」
栄太郎くんは、ヘラヘラ笑いながら私の頭に手を置いた。
「誰に悪口言われようが関係ない。俺は、君が好きだから付き合ってるんだよ。誰になんて言われても関係ない。謝らないでくれよ……」
「栄太郎くん……」
「お〜い!!エータロー!一緒に帰ろうぜ〜!」
「櫻葉ぁ!《オレンジ》行くぞ〜!!」
「分かった!今行く!」
あっ……今日は……一緒に帰りたかったんだけどな……。
「なにしてんだよ由奈」
「ほえ?」
栄太郎くんは、私に向かって手を差し伸ばした。
そして、ニヤリと笑った。
「行こうぜ!」
────「うん……!!」
次回は本編を更新します