第十二話 夏の幕開け
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陰キャだろうと陽キャだろうと、学生なら避けては通れない行事が存在する。
大ノ宮高校、二学年一学期期末試験が訪れた。
今回はそれなりに勉強したつもりだった。春咲さんの手助けもあって、中間よりかは点数は取れた。
ちなみに俺達のテストの結果はこうだ。
まずは俺。350人中98位。
感想。拓『中途半端』、菜月『お前みたいな順位』
ほんとこいつら蹴散らしてやろうかと思っちゃったよ。なんだお前みたいな中途半端な順位って、アイツらは俺の事なんだと思ってるの?友達だよね?一応中学時代からの友達だよね?
拓。350人中15位。
……腹立つわァ。ホントに腹立つわァ。
なんで俺よりいいんだよ。こういうのって俺より順位低くて俺に殴られるまでがテンプレでしょ。
本人曰く『しくった』そうだ。
なにが『しくった』の?勉強しすぎて『しくった』の?俺はそろそろこいつにお灸を添える必要があるらしい。
菜月。350人中329位。
こいつはバカだった。
菜月に付きっきりで教えていた春咲さんは顔を両手で覆って処置なしというポーズを取っていた。なんで解の公式言えないんだよ。どうやって高校入ったんだよ。
ちなみにこの順位をみた菜月は『まぁこんなもんかな』とドヤ顔をかましてきた。
春咲さん。350人中2位。
これの感想は満場一致で『ぱねぇ卍』だ。
俺達三人の質問に答えながらこの点数とは、もしかしたら一位を狙えたんじゃないか?と本人に言ったところ、どうやら高校に入ってから彼女はずっと二位をキープしているらしい。
ほほう。春咲さんを抑えて一位をキープしてる奴の顔をいつかは拝んでみたいものだ。
俺は今拓と帰路を共にしていた。
夏休みまで一週間を切り、春咲さんと菜月と別れた俺達は商店街で買った串カツを頬張っている。これがまた美味い。
拓が口に入っているカツを飲み込んだところで、俺を見ながら口を開いた。
「ふっ、遂に夏休みだなエータローよ。高校二年生の夏……おれはこの夏で変わるぜ」
「へいへい。それ中学時代から毎年聞いてるぞ?」
「舐めるな!!今回のおれは覚悟が違ぇ!!今年の夏はとっておきの秘密スケジュールを用意しているのだ。ふふ……お前になら教えてやらんこともない。聞きたいか?我が悪友よ」
「いや、秘密なら別に……」
そう言って串カツを口に放り込むと、拓は俺の胸ぐらを掴んだ。
「なんでだよ!!聞きたいって言えよ!!おれの秘密の花園だぞ!!聞いてくれよ!!?」
「気色悪いこと言ってんじゃねぇ!!……はぁ、なんだよ」
「そんな言い方じゃダメだ」
「なんだと」
「おれは今から秘密を話すんだぞ!!もっとちゃんとした頼み方で頼め!!いや、頼んでください!!」
「キャ、キャラがブレブレだなお前……。わーったよ。お前のとっておきの秘密を俺に教えてくれよ」
拓はニヤっと笑い。俺の方向を向きながらバックで歩く。片手で顔を覆い、言う。
「ふっ、お前がそこまで言うなら教えてやろう。そこまで言うのならなぁ!」
うぜぇ。
拓は俺の肩に腕を回した。拓は秘密を話す時はいつもこうするのだ。
「実はだな、今年から《大ノ宮神社》で夏祭りが行われるらしい」
「ほんとうか?」
これは驚いた。大ノ宮神社といえば中学時代に拓と一休みをしていた神社だ。大ノ宮市を代表するような大きな神社だと言うのに、イベントの開催は一切ない味気のない神社ではあったのだが……。
「あぁ確かな情報だ。しかも打ち上げ花火付きだぜ?……これでどういうことが分かるよな?付き合え、エータロー」
「……?俺とお前で行って何になる?」
「違ぇよ。ナンパだよ。ナ・ン・パ!」
「ナンパぁ!?」
素っ頓狂な声が出た。
拓は俺の反応が良かったことに拍車がかかったのか、興奮した声で続ける。
「そうだ。大ノ宮神社の夏祭りは今年が最初の第一回だ。市内に夏祭りの開催が広まれば、興味本位でやってくる奴がいる。つまり普通の祭りより人が集まるんだよ!……この好機を逃がすわけにはいかねぇ……高二の夏で童貞卒業。おれは目指すぜ」
夏祭り……か……。
そういや去年は綾小路と別の夏祭りに行ったなぁ。
ナンパには興味ないが、夏祭りとなればやはり心は踊るものだ。浴衣姿の女の子って普段の五割増で可愛いし。
春咲さんはどんな浴衣着るんだろうな……。
って、何考えてんだ俺!!
俺は頭をブンブンと振った。拓に向かって言う。
「俺も興味があるから行ってもいいけど、ナンパは気が乗らねぇなぁ。」
「えー。じゃあなんの為に行くんだよー。」
なぜ夏祭り=ナンパする場所みたいになってんだ。
俺達は商店街のアーケード下を抜け、歩道橋に差し掛かる。夕日が俺たちを照らし、気持ちの良い初夏の風が俺達を包んだ。
夕日が段々と沈もうとしていく様を見て、ふと呟く。
「拓よ」
「どうした?」
「俺は……やっぱり変わったか?」
拓は『なんだ、その話か』と呟き、俺を横目で見ながら言った。
「お前自身はどう思うんだよ」
分からない。
人はそんな簡単に変われるものではない。長きに渡り築き上げた性格や客観的な印象なんてものは、変えようと思っても変えられないのだ。
だが、仮に変わる為の『きっかけ』があったとしたら?
この四ヶ月……色々なことがあった。
綾小路に振られて、春咲さんと出会った。
彼女達と言葉を交わし、互いの知らない部分を知った。それを変わる為の『きっかけ』として捉えることが出来るのなら、俺はもしかしたら……
「……俺は変わったよ。多分。」
そう拓に返した。拓はニヤリといつもの不敵な笑みを浮かべ。俺の肩に手を回す。
「そうだ。お前は変わった。……そんで、春咲さんを変えた。」
「?」
「まだ付き合い短いし、お前程春咲さんと話してないからよくわかんねーけど、あの子最初に比べて、よく笑うようになったと思わねぇか?」
拓は肩を組みながら夕焼けに視線をずらす。そして続けた。
「なんかさ。お前らって二人で一人っ感じがすんだよな。お互いに足りない部分を補って、どちらかがつまづいたんなら手を伸ばす。依存って言い方は悪いかもしんねーけど、もっとなんて言うか、柔らかいものっつーか……あぁ!!よく分かんねぇ!!」
拓は頭を抱えて激しく頭を揺らした。俺はそれを見て笑う。
まぁ、分からないならそれでいい。
そうか、俺は変われてたのか。自分では分からないものだ。
そして、春咲さんといる時の気持ちも、俺には分からない。
拓や菜月みたいな感情でも、綾小路の様な恋愛感情でもない。
けれど、居心地は悪くない。
いつか、綾小路への未練を捨てきれて
春咲さんと向き合う事が出来たのなら
何かが分かるのかもしれない。
そんな日が来ることを、俺はささやかに願っていよう。
はい!これで第一章、一学期編完結ですね。
次回からは栄太郎と春咲さんの、怒涛と波乱の夏休み編に突入します!