お姫様、日本食を食べる
久しぶりの更新です。
短くてごめんなさい。
時間が出来たらまた書きます。
「なんなんですかこれは!」
私は興奮して叫びました。
「いや、だから飯だけど…」
とリュウジ。
「なんなんですか!!」
「アイリちゃん落ち着いて?」
アキが宥めるように言ってきます。しかし……
これが落ち着いていられますか!
リュウジの作ってくれた料理は、白米に焼き魚に味噌スープというシンプルなものでしたが、私にとってこれは特別な料理でした。
そう、それは昔、私がまだ小さかった頃に城で出される料理を好き嫌いして食べなかった時に乳母がよく作ってくれた料理でした。なんでも、乳母の生まれ育った地域の料理だとか…
その味は素朴でとても美味しかったのを覚えています。その時に箸の使い方も習ったのですが、乳母が高齢になり、城から離れてからは食べることができませんでした。
まさかこんなところで再会することになるなんて…
「……もう、食べられないかと思ってました……」
涙ぐみながら呟きます。
「やっぱり、食べたことあったんだな……ワショク…」
「箸が使えるんだから、不思議でもないよ。」
リュウジとアキは顔を見合わせながら口々に言います。
「ワショクというんですか!?この料理は…」
乳母からは個々の料理の名称は聞いていましたが、料理のカテゴリーの名前は聞いたことありませんでした。
「あぁ、ニホンの伝統料理だ。まあお姫様の世界でどのような扱いされてたのかわからないけど。」
「まあまあ、遠慮しないでどんどん食べてね!」
「作ったの姉貴じゃなくて俺だけどな!」
「リュウジさんありがとうございます!いただきます!」
私は急いで箸を手に取り、料理を口に運びました。
これは…
「これです……この味です…!」
なんということでしょう!昔、乳母が食べさせてくれた料理と同じ味がしました。
不意に目の前が霞みます。あれ…
「なんだよ、泣いてるのかお姫様…」
「すごい、すごいよ!リュウちゃんが異世界の美少女の胃袋を掴んだよ!」
「なんの変哲もない普通のワショクだぞこれ……まあ確かにお姫様のためにわざわざ材料買ってきはしたけどさ……」
「ぐすっ……わざわざ……ありがとうございます…!」
なんという……なんという優しい方々でしょう……そんな彼らに私は迷惑ばかりかけて……
「そんなの気にしないでいいんだってーこっちも下心があってやってるんだからさー」
アキはそう言いながら私の手を握ってきます。
温かい…
今までは早く元の世界に帰りたいと思っていましたが、もう少し、この世界にいるのもいいかなと思ってしまいました。
ーーーーーーー
日本の夏はとにかく暑い、陽のあたる場所に数分もいれば、どんなに暑さに強い人間でもたちまち汗をかいてしまう。
それは陽のあたらないこの都会の路地裏でも同じことだった。むしろ、路地裏のそこらじゅうに設置されているエアコンの室外機の吐き出す熱気のせいで、余計蒸し暑く感じる。
そんな路地裏に、2人の男がいた。
「……ここで間違いないんだろうな?」
男のうちの1人が、辺りを見回しながらもう1人に尋ねる。2メートルもあろうかという長身を、こんな暑い季節だというのに全身真っ黒のスーツで身を包んでいる。目元には黒いサングラスをつけており、表情を読むことは難しい。
「あぁ、間違いないぜ。ビンビン感じるわ。」
と、答えた男。この男は先程の男とは対照的に、金髪のツンツン頭にアロハシャツに短パン、サンダルというラフな出で立ちだ。身長はさほど高くない。この男も銀色に光るサングラスをかけているが、サングラス越しにもニヤニヤした表情が読み取れた。
ふと、長身のスーツ男がなにかに気づいたようにその大きな体を屈めて地面を眺める。
どうやらアスファルトの地面についた焦げ目に注目しているようだ。
「……これは自然についたものではないな。」
「アスファルトをなんて、タバコポイ捨てしても焦げねぇわ。まぁ、十中八九〝魔法〟だろうね。どれどれ、見せてみ。」
金髪の男も腰を屈めて焦げ目を見る。するとすぐに
「へぇ、こりゃあたまげた。こいつぁ炎系じゃないぜ。雷系、それもわりと強力なやつだな。」
「……雷か。」
「そうそう。……そうだな見たところ、テンペストボルトとかそのあたりか?」
「……落雷とかの可能性はないか?」
「そうだな。こんな狭い所に雷が落ちることなんてないだろうな。それにここ、マナの匂いがプンプンするのよ。間違いないって。」
金髪の男の返答を聞いて、スーツの男はしばし思慮するような仕草をしていたが、さすがに暑いのか、懐から白いハンカチを取り出して額を拭うと
「最近頻発している魔法の反応との関係性を調べるぞ。相手がこの世界でも問題なく魔法が使えるのだとしたら厄介だ。早めに始末しておきたい。」
「気をつけろよ、この前に反応があったシャインゲートにしろ、このテンペストボルトにしろ、相手は強力な光属性魔法を使う魔法使いだぞ?」
「いざとなったらお前をあてにしている。いつでも魔法が使えるようにしておいてくれ。」
スーツの男の言葉に、金髪の男はやれやれといった具合に肩を竦めると
「お仕事かぁ、わかったよ。光属性相手なら得意だし。でも最終手段にしてくれよ?こっちも無制約に魔法が使えるわけじゃないんでね。」
「……あぁ、わかってる。」
スーツの男はそう言うと、金髪の男を伴ってその場をあとにした。