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お姫様は異世界人  作者: 早見 羽流
導入編
6/36

お姫様、夢を見る

暴漢に襲われ、撃退したものの気を失ってしまったリュウジとお姫様。

さてさて、どうなってしまうのでしょうか。

「……ちゃん」


……なんでしょうか、何か声がします。


「……リちゃーん?」


誰かを呼んでいるような……


「アイリちゃん起きて!」


「はい、起きます!」


大声で呼ばれた私は、寝ていた体勢から勢いよく体を起こそうとして……すぐに無理だと悟りました。

理由は体内マナの枯渇です。恐らく、あの乱暴な男達にテンペストボルトを放った時に、残り少ない体内マナを全て消費してしまったのでしょう。あの時は必死で後先を考えていられませんでした。


仕方が無いので私は目だけを開けて辺りを見回します。天井に見覚えがありました。どうやら私はアキの部屋で寝台に横になっているらしいです。

そして、こちらを心配そうに覗き込んでくるアキの顔…


「ごめんなさい……私……」


私は咄嗟にアキに謝りました。私を助けるためにリュウジは酷く殴られ、人前で魔法を使ってはいけないという約束も破ってしまったからです。


「謝らないでいいの、ありがとう。リュウくんを守ってくれたそうじゃない?」


「そんな……私はただ……」


私は急激な眠気を覚え、そのまま闇に吸い込まれるように意識を失ってしまいました。

意識が途切れる寸前、またアキの心配そうな声が聞こえたような気がしましたが、私にはもう聞き取ることができませんでした。




ーーーーーーー



気がつくと、そこには生まれ育ったエルブラン公国の景色がありました。

小さい頃の私は、よく城を抜け出しては周囲の街や草原を走り回ったものでした。そんな時、いつも真っ先に私を見つけ出したのは、私の魔法の師である、シモンという優秀な魔術師でした。

彼は私を見つけると、無理に連れ戻そうとはせず、隣に座って色々な昔話をしてくれたものでした。


「姫様、世の中は姫様の思っているよりもずっと広いんです。世の中には姫様の知らない世界がまだまだたくさんあります。」


「……そうなのですか?」


「私は色々見てきましたから……姫様にも大きくなったら世の中のことをいろいろ知っていただかなくてはいけませんね。」


「知りたいです!私は…」


「でも今はまだその時ではありませんよ?」


ひとしきり話した後は、そういうような会話で締めくくり、シモンは私を導いて城へ連れて帰ってくれたのでした。

しかしそんな彼はしばらくしてどこへともなくいなくなってしまいました。

領主の父に聞いた話では、また放浪の旅に出たとか……まだまだ聞きたい話はたくさんあったのですが……

彼がいなくなる前、最後に教えてくれた魔法があの「シャインゲート」でしたが、その時の私はまだ唱えることはできませんでした。


そんなことを思い出しながら私は昔よくしたように城の裏から抜け出し、城下町へ駆け下ります。


……しかしそこには見知ったはずの石造りの城下町はどこにもなく……


ブォン!という大きな音を立てながら目の前をジドウシャが走っていきます。

周りに乱立しているのは鉄の城塞……そして遠くにはスカイツリー……


……そうですね、私の懐かしい城にはもう簡単にはもどることができないんでしたね…

シモン、あなたの言う「姫様の知らない世界」にはこのニホンという国も入っているのでしょうか……


強く拳を握りながら決意を新たにしたところで、私は唐突に夢から醒めるのを感じました。



ーーーーーーー



再び目を覚ますと、そこはやはりアキの部屋であり、私は寝台に横になっていました。

そして何故か寝台の脇にはリュウジがおり、私が強く握っていたものは……


「あぁぁぁぁぁっ!?」


「うわぁぁぁぁっ!?」


私とリュウジは同時に叫び声を上げました。


「手!手を繋ぐ時は事前に確認するようにと何度も言ったはずですが!?」


「い、いや!お姫様から握ってきたんでしょうが!」


「は!?」


いや、そうでしょう!今回ばかりは私が寝ぼけてリュウジの手を握ってしまったのでしょう!し、か、し!


「そもそもなぜあなたが私の枕元に!?さては何かよからぬ事を考えて……」


「なぜそうなる!?こちとら姉貴が留守の間心配だからってんで付き添ってただけだぞ!?」


「むぅ……今回はそういうことにしておきましょうか。」


もし、リュウジの話が真実だとすれば、暴漢から私を助けに来てくれ、さらには付き添ってくれていたリュウジに対して私は酷い疑いをかけていることになります……

というかそれよりも先にリュウジに言うことがあるではないですか!


「リュウジさん、助けていただいてありがとうございました。お怪我は大丈夫なんですか?」


「……あぁ、お姫様のお陰で大したことは無いよ。」


リュウジは照れくさそうな素振りをしながら言います。あまり面と向かって感謝されることには慣れていないようですね。


「それよりもお姫様のほうが心配だ。昨日からずっと死んだように眠っててさ…」


「魔力切れです…」


私はリュウジに、魔法の使用によって体内マナが枯渇し、昏睡状態になっていた旨を説明しました。


「なるほどな……もう大丈夫なのか?」


「辛うじては……しかし魔法はもう全く使えません。空間マナの少ないこの世界では、体内マナの回復も遅いみたいで……。私はどの程度寝てましたか?」


「うーん……といっても20時間くらいかな。」


「そんなにもかかってしまいましたか…」


普段なら魔法の練習のしすぎで体内マナを枯渇させても、ものの数十分で日常生活を送れる程度には

回復するのですが…


「しかしなぁ……歩き回らないことには空間マナの多い場所も探せないだろ?俺や姉貴も明日から学校始まるからしばらくは昼間は付き添ってあげられないし……」


リュウジが困ったような声で言った時、突然玄関の扉が開き


「ハッハッハッ!それなら心配するな若者よ!」


と言いながらアキが入ってきました。


「なんだ姉貴か、びっくりさせんなよ。」


「話は聞かせてもらったよ。手は打ってあるから。」


リュウジを押し退けてアキは私が横になっている寝台の隣に陣取りました。


「聞いてたのかよ……どの辺から?」


「リュウちゃんがよからぬ事を考えてるあたりから?」


「考えてねえし!ていうかほぼ最初からじゃん!」


「リュウジさんはやはりよからぬ事を考えていたのですね…」


「いねえわ!アホか!」


「……アホ」


そういえば、アホとは頭の悪い人のことを指す言葉だったような気がします。私はリュウジの言う通りアホなのでしょうか…


「あー、あれは馬鹿弟の冗談だから泣かないでアイリちゃん…」


私の心情を察したのか、アキが慌てた様子で慰めてくれました。リュウジも


「……なんかすまん。つい姉貴のノリでな…」


と謝ってくれました。


「実はあまり気にしてませんけど、それでアキさん。手を打ってあるとは?」


「あぁそうそう、アイリちゃん!一緒に学校に行こう!」


「学校……ですか?」


学校というものは私達の世界にもありました。主に貴族や裕福な商人達の子息等が読み書きそろばん、魔法の基礎などを学ぶ場です。

私は姫なのでシモンを始めとした専属の講師がついていましたが、お友達がたくさんできるという噂の学校というものにも一度行ってみたいと思っていました。

また、この世界の学校は私達の世界の学校とどう違うのかにも興味があります。


「行きたいです!」


「学校いうても、身分証明書も持ってないお姫様に通わせるのは流石に無理だろ…」


苦言を呈するリュウジ。しかしアキは人差し指と中指を立てながら


「お母さんに事情を説明てお願いしたら、1ヶ月だけ体験入学扱いで入れてくれることになったよ!」


「マジか!おふくろが!」


「まあ、私立校の理事長であるお母さんに頼めばいけるかなって…」


「いや、でもおふくろの力はもう借りないんじゃなかったのかよ……」


「今回だけは特別!……代償は大きかったけどね……」


「なんだよそれ……」


……つまりアキが親御さんに頼んで特別に許してもらったと、そういうことでしょうか……


「……ありがとうございます。」


私はゆっくり起き上がると、アキに頭を下げました。


「ううん、いいんだって。これで空間マナが多い場所も探しやすくなるしさ。」


「それより二人とも、お腹空いてるだろ?さっきから誰かさんのお腹がずっと鳴ってるんだけど……」


「……そういうことは言うもんじゃありませんよ……」


私は真っ赤になって顔を伏せました。20時間も何も口にしていないのですから仕方ありません!


「ごめんごめん、今度はちゃんとした料理作ってあるから今持ってくるね。」


「おっ、久しぶりのリュウくんの料理じゃん!」


「姉貴の分はねぇぞ?」


「えっ?」


「うそうそ冗談。じゃあみんなで飯にしますかね!」


リュウジはそう言うと、そそくさと厨房に向かったようでした。




読んでいただき、ありがとうございました。

就活関連で時間が無くて更新に時間がかかりごめんなさい。

また続けて書いていこうと思います。

さて、次はいよいよ学校ですよ!お楽しみに(?)

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