お姫様、絡まれる
久しぶりの更新です!
異世界から転移してきたお姫様、どうやらトラブルに巻き込まれるようです。
疲れる……
俺、佐倉隆二は隣ではしゃぐお姫様に目をやると、ふぅ…と軽く息をついた。
「み、見てくださいあの白い丸いものを!あれはなんでしょう!」
「あー……あれは東京ドーム…」
「あっ、あの遠くの方に見える白い三角のものは!?」
「……それはサンプラザ…」
地下鉄を降りてからというもの、スカイツリーの展望台に来た今までこの調子でお姫様は騒ぎ続け、俺を質問攻めにした。
まあある程度は覚悟していたのだが、お姫様がとりあえず目に付いて気になったものを俺に質問し、時折その用途まで尋ねてくるのでものすごく精神力を消耗する。
さらに、エレベーターの中など所構わず騒ぐので、注意するのも一苦労だ。
幸い、一度注意すれば渋々ながらも静かになってくれたので、その点は良かったのだが……
「なぁ……そろそろ行かないか?」
俺は目を皿のようにして展望台から下界を見下ろすお姫様に声をかけた。展望台に来た時は高いところからの景色を怖がると思ったのだが、何故だかお姫様はその様子は見せない。
「まだ……もうちょっと……」
……二度寝する学生かよ。
「あーそうかい、じゃあ俺はちょっくら展望台を辺を一周してくるから。」
お姫様が集中してるうちに質問攻めから逃れようと、一旦側を離れる。
お姫様が迷子になってしまう危険もあったが、お姫様はエレベーターの乗り方わからないだろうし、あの調子ではしばらく集中してるだろうからはぐれてもすぐ見つかるだろう。
「はーい……」
案の定引き止める声ではなく生返事が聞こえたので、俺はブラブラとそのあたりを一周して戻って来る。……すると
「隆二さん!!」
「はいっ!!」
お姫様に大声で呼ばれて俺は反射的に返事をした。一瞬、周りの視線が集まるが、すぐに何事も無かったかのように離れていく。恥ずかしいのでやめて欲しい。
「どこに行っていたのですか!」
「いや、だからそのへんを……」
「私、聞いてませんよ!」
お姫様が聞いてないのは分かってたけどさ……半分確信犯だったわけだし……
「……ごめん、……で、その子誰?」
そう、お姫様は小さい幼稚園児くらいの男の子の手を握っていたのだ。男の子は水色のTシャツに半ズボン、キャップを被り、キャラクターもの印刷されたバッグを背負っている。家族でスカイツリーに訪れたのだろう。まさか拉致……いやまさかね……
「迷子になってしまったみたいで……」
「えぇ……」
異世界の迷子を助けるなんて……なんて良いお姫様なのだろう。
「……あのおにいさんだれ?」
男の子がお姫様に話しかける。俺は正直子供の相手は苦手なのでここはお姫様に任せておくか……
「あの方は私のご主人様です。」
やっぱ任せておけなかったぁぁぁ!!!
「こ、こら!なんてこと言ってるの!違うからね?違うよボク?」
慌てて男の子に釈明する。このままお姫様の天然によって誤解を産みかねないことを次々と男の子に吹き込まれては困る。
「おひめさまなのに、ごしゅじんさまがいるの……?」
男の子はあくまでもお姫様の話を信じるつもりらしい。確かにお姫様は話し方から何から何まで嘘をつくようには見えないし、実際嘘はついていないのだけど……だ、け、ど!
「お姫様だってことバラしてるし……」
男の子に対してお姫様はなおも何かを言おうとしたその時
「こうくーん!」
という女の声が聞こえて、ベビーカーを押しながらこちらに走ってくる女の人が……恐らくこの男の子の母親だろうか。
「おかあさーん!」
男の子も母親に気づいて駆け寄る。
「よかった……無事で……」
「あのね、おひめさまにたすけられたの!」
「お姫様……?」
……まずい。
俺は咄嗟にお姫様の手を握ると無理やり引っ張って走り、親子の視界から外れた。お姫様が何か慌てたような声で言っていたが知ったことか。
ようやく少し離れたところにたどり着くと、お姫様は顔を赤くしながら俺に抗議してきた。
「ですからいきなり手を引くのは……!」
「あー、ごめん、緊急事態だった。」
元はといえばお姫様が男の子にいろいろ吹き込んだせいだろ……
俺は口に出さなかったが、お姫様はなにか察したようで、少しばつの悪そうな顔で俯いた。
「……さっ、帰るか。」
俯いたお姫様の肩をポンと叩きながら声をかける。
「……そうですね。」
こうしてお姫様の第1回異世界探検は終わりを迎える……はずだった。
ーーーーーーー
「……はぁ」
私は前を歩くリュウジの背中を眺めながらため息をつきました。スカイツリーというものからリュウジとアキのアパートへ帰宅するためにもう一度地下鉄に乗って、地下鉄の駅からアパートへ歩いているのだが、どうやらリュウジを怒らせてしまったようです。
さすがに私もはしゃぎすぎたと反省しました。迷子の子どもに自分の身分を明かしたことも不用心だったと思っています。
……なんとかリュウジの機嫌を直さないと……
しかし何をすればリュウジが喜んでくれるのか、私にはわかりません。
私が思案しながら歩いていると、突然横から腕を掴まれ、人気のない路地裏に引き込まれました。
「……っ!?」
咄嗟にリュウジに助けを求めようと開けた口を大きな手で塞がれます。リュウジは私がいなくなったことに気づかずにそのまま歩いていったようでした。
「……騒ぐな。」
耳元で低い声で囁かれ、私は抵抗するのをやめました。気づくと背後から抱きかかえられるように身動きが封じられています。これでは暴れても逃げることはできないでしょう。口も塞がれているので魔法も使えません。
口は塞がれていますが幸い目は見えるので、周りを見渡すと、路地裏には私を拘束している人物の他に二人の男がいました。
二人とも黒い服を着て手をズボンのポケットに突っ込んでいます。そのうちの一人が口を開きました。
「いやー手荒な真似をしてすまなかったねー。かわいいお嬢さん。もしよかったら俺らと遊ばない?」
「……む、むぐぐ…」
乱暴なことをする男性と遊ぶのは嫌なのですが、当然口が塞がれているので断ろうにも断れません。
声をかけてきた男はその様子を見て満足げに頷くと
「うんうん、遊びたいってさー!……まぁ断っても連れていくんだけどねー。」
連れていく……?どこにでしょうか……。雰囲気からして恐ろしいのですが……
怖いです……リュウジ……アキ…
声を出そうにも、やはりうめき声しか出ませんでした。
その時
「悪いな、その子は俺の連れでな。」
という聞き慣れた声が路地裏の入り口の方から……
この声は…
私は声のする方へ視線をやります。男達も同じ方向を向きました。
そこにはやはり、リュウジが立っていました。
リュウジは私の方を見ると
「ごめん、気づくの遅くなって。」
「……誰だテメェ!」
と男の一人が声を上げます。
「だからその子の連れだって。」
「なんだ?お姫様を助けるヒーローのつもりか?」
「わりとその通りなんだけど、まあいいや、その子を離せよ。」
「ワケわかんねぇこと言ってんじゃねえぞ。殺すぞコラァ!」
そう叫びながら男がリュウジに殴りかかります。リュウジはその攻撃をかわすと男の腕を取り、そのまま足を払います。
男は綺麗に地面に倒されました。
「……まぁ、喧嘩はちょっとした自信があるんだけど…」
「っ……調子乗ってんじゃねえぞ!」
するとすぐに背後からもう一人の男がリュウジを羽交い締めにします。
「……くっ!」
なんとか振りほどこうとするリュウジでしたが、最初に倒された男もすぐに起き上がり、羽交い締めにされたリュウジの腹を殴ります。
「……ぐはっ!」
「この野郎、生意気な!」
何度も何度も殴ります。
「おいおい、どうしたヒーローさんよぉ!?」
「げほっ……げほっ……」
……リュウジっ!
「っ!!」
私は少し押さえる力が弱くなっていた口を塞ぐ手に思いきり噛みつきました。
「いってぇ!?」
私を拘束していた男は慌てて手を離すと、私を殴り飛ばします。
「うぐぅ……!」
目の前で星が爆ぜます。私は地面に倒れましたが、口が塞がれていないのであればこちらのものです。
「……雷撃よ、敵を穿て!テンペストボルト!」
私は倒れたまま、得意の光属性魔法を唱えました。
私の手から放たれた稲妻は、正確に三人の敵に直撃し……
「「「ぐぁぁぁぁぁぁっ!?」」」
と叫び声を上げて三人は気絶してしまいました。
そして……
「……あれ?」
起き上がって確認すると、一人の男が羽交い締めにしていたリュウジも巻き添えで気絶しているようでした…
そもそもリュウジは何度も殴られ、怪我を負っているようです。
「……ごめんなさい、私のために……」
私は気絶したリュウジに縋り付くと涙を流して泣きました。
機嫌を直してもらおうと考えていたのでこんなことでは……
読んでいただいてありがとうございます!
久しぶりでしたがいかがだったでしょうか?
たまーにラブコメを書くのも楽しいですね(笑)