お姫様、地下鉄に乗る
いよいよデートシーンです。
文明の利器をお姫様視点で固有名詞を出来るだけ使わずに書くのは正直大変です(笑)
……さて、困りました。
私はリュウジに連れられ石造りの砦の狭い階段を降り、外に出てみたのですが……
「なんですかあれは!?」
私は目の前の石造りの道を凄まじいスピードで走っていく鉄の馬車を見て声を上げました。その馬車には車輪があるのですが肝心の馬がいません。
「あぁ、あれはジドウシャっていってな…」
「けほっ、けほっ!臭いです!」
「確かに、排気ガスは臭いな。俺は慣れてるけど。」
「それで、そのジドウシャというものはどのような魔法で動いているのですか?」
「えーっと、ジドウシャは魔法では動いていない。なんというか……科学技術の結晶だな。」
「科学技術……この世界では魔法の代わりにその技術によって豊かさがもたらされているのですね。」
科学技術というものによって作られたこの世界の便利な道具は私の世界では見たこともないものばかりで、しかもそれらは驚く程に実用的でした。
科学技術……もしかしたら魔法よりも優れたものなのかも知れません。
「どこか行ってみたいところある?……といっても外は初めてだろうから、俺が適当に案内しようか?」
道の端に寄って歩いていたリュウジが振り返って言います。
「あっ、それでしたら……」
「……?」
「あの、部屋の前から見えた大きな塔に行ってみたいです!」
「スカイツリー!?」
スカイツリーがどのようなものか分からないですが、恐らくあの大きな光り輝く塔のことなのでしょう。
「はい!多分!」
あの塔がいったい何のためにあるのか、下から見るとどれほど大きいのか、私はとても気になっていました。
「しかしなぁ……ここからスカイツリーまでは割と距離あるぞ?デンシャかバスに乗らないと…」
「でしたら馬車で…」
「馬車はない!」
「でしたらジドウシャで…」
「俺は運転出来ない!免許ないし」
「あぅ……で、そのデンシャかバスというものはどこから乗るのですか?」
「行くこと前提なのかよ……まあいいけど、えっとデンシャは駅、バスはバス停で乗るんだ。」
リュウジはめんどくさそうに答えます。なにか気に障るようなことを言ったしまったでしょうか……
「こっち。ついてきて。」
リュウジは自然に私の手をとると、手を引いて歩き始めました。
「あ、あの……」
「なんだよ……」
「手……男の人に引かれるの初めてで……その……」
私の国では婚約者以外の男性が姫の手を引いて歩くなんてことはまずありません。そういう意味で言ったつもりだったのですが、私はしどろもどろになってしまい
「あっ、ごめんっ」
リュウジは慌てて手を離しました。
「はぐれないでついてこいよ…」
照れ隠しなのか少し足早に歩くリュウジ。私も少し離れてついていきます。
ジドウシャや他の通行人などを避けながらしばらく歩くと
「ここだ。」
と言いながら地面に空いた穴に降りていく階段を指差しました。
「……これはなんの穴でしょう…」
「チカテツだ。これでスカイツリーまで行く。」
「チカテツ…?」
「地下を走ってる鉄道…デンシャだからチカテツだ。」
「地下鉄ですか!」
そもそもデンシャというものがどんなものなのか分かりませんが、デンシャは地下にも地上にも走っているものらしいです。
話しながらもリュウジはどんどん階段を降りていきます。私も遅れまいとついていきました。
すると、どうでしょう!目の前に突然広い空間が出現しました。
「これは……」
「ちょっと待ってて、今キップを買ってくるから。」
キップというものが何なのか気になりましたが、待っていろと言われたので私はその場で目の前の空間を観察します。
どうやら柵に囲まれた空間があり、そこに人々が出入りしているようです。
人々は手に持った何かを柵にかざすと柵が開いて出入りができるようでした。
「なるほど……これも科学技術ですか…」
「……と、お待たせ。」
リュウジが戻ってきて私に紙きれのようなものを手渡してきます。これがキップというものでしょうか。
「いい、俺のマネしてついてきて。」
「はい!」
するとリュウジは、柵のとある部分にキップを入れると、柵はピヨピヨと音を立てて開きました。
私もマネをしてキップを入れると、柵はやはりピヨピヨと音を立てて開きます。なんだか楽しいです。
私が柵を通り抜けると
「ダメじゃん。出てきたキップを受け取らないと出れなくなるよ?」
「あっ……」
リュウジが私のキップを受け取ってまた手渡してくれました。
「すみませんありがとうございます。」
「じゃあ行こっか。」
と言いながらリュウジは柵の中に設置された階段を降りていき、私も後に続きます。
すると……
ガタンゴトン!
という物凄い音が聞こえてきて私は驚きました。
「なんですか、敵襲!?」
「違うって、地下鉄の音だよ。ほら、あれ」
リュウジに指さされた方を見ると。開けた空間を凄いスピードで移動していく鉄の戦車が……
「なんですかあれは!?」
「だから、地下鉄だって……」
その地下鉄は徐々にスピードを落とすと、完全に停止しました。そして驚いたことに側面に設置されていたドアが自動的に開いて、中に乗れるようです。まあ地下鉄に乗るためにここに来たので、乗れないと困るわけですが、なんというか、予想の上を行く大きさと威圧感でした。
「ほら、乗るぞ。」
「……こ、怖いです…」
「怖くないから、早く!」
リュウジにまた手を引かれて地下鉄に乗りました。中はとても広く、ベンチや手すりが設置されています。
「……なんというか……この世界に来てから驚くことばかりです。」
「仕方ないな。外国人もニホンに来たら驚く人多いって言うしな。」
リュウジはそう言いながら笑いました。とにかく今は、彼に従っていればこの異世界のことは何とかなるような気がしてきました。
読んでいただいた方、ありがとうございました!
まだまだデートは続きます。
お気づきの方いらっしゃるかもしれませんが、お姫様、初めての単語は表記がわからないのでカタカナで表記しますが、漢字が分かればちゃんと漢字で表記します。成長してるんですよ!
皆さんもお姫様の成長を一緒に見守っていただければと思います。
それではまた!