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お姫様は異世界人  作者: 早見 羽流
動乱編
34/36

お姫様、コスプレをする

「……なんだありゃ?」


死神(グリムリーパー)〟のアレックス・ハワードは思わず呟いた。

昨日、処分対象(ターゲット)であったお姫様ことアイリ・エルブランにまんまと逃げられてしまった彼だが(異世界のシノビがあんな技を使ってくるとは考えていなかったためだ)、歴戦の彼は焦ってはいなかった。どこへ逃げようと一度覚えた特徴を彼は忘れない。必ず捜し出して始末する自信があった。


案の定、昨日戸村の住んでいるアパートに戻って例の姉弟の部屋を確認したが既にもぬけの殻だった。恐らく別の場所に移動したのだろう。しかし朝になってそれらしき集団が同じアパートから出てくるのを目撃して、彼は驚愕した。


しかも、それぞれ派手な衣装を身にまとった7人組だったのである。

どうやらコスプレをしているようだ。


「なるほど、考えたな」


アパートから出ていく一団を上から眺めるアレックスの隣で戸村も呟いた。


「あれなら、ターゲットの金髪が目立たないし、そもそもここからでは誰がターゲットなのか分からない。異世界から来たやつなら始末してもいいが、間違えて一般市民に危害を加えてしまったら、問題になるな…」


「そう、それが1番の問題なわけよ」


死神(グリムリーパー)〟は、異能力者や怪異に対抗するために国が秘密裏に結成した組織であり、一般市民に対して危害を加えることは許されていなかった。

だがそれはあくまで目撃者がいた場合のみ。人気のないところで襲ってしまえば、誰に襲われたかなんて分からない。


というわけで2人はターゲットが人気のないところに行くまで尾行することにした。

人気のないところであればアレックスの魔法も使うことができる。昨日兵士からマナをたんまりと搾り取ったお陰で、アレックスの使える魔法の総量も格段に増えていた。


しかし彼らはなかなか表通りから離れない。向こうも警戒しているのだろう。おまけに、人の多い駅に入って地下鉄に乗ってしまった。まあもちろんあんな派手な集団が地下鉄に乗ろうとするのだから、他の乗客は戸惑っており、2人にとっても人混みに紛れて見失う心配がなかったので、僥倖というものだが…


「分かったぞ、あれは異世界バケーションというアニメのコスプレだ」


地下鉄に乗りながらスマホを操作していた戸村が言った。


「なるほど?」


「で、その異世界バケーションのイベントがこの先であるようだ」


「コスプレしてイベントに参加して、どうするつもりなんだよ…」


「それは私にもわからん」


戸村ら肩を竦めた。


「……せめてあの中でターゲットがどれなのかだけでもわからないのか…?」


「それが……」


7人のコスプレ集団は、男2人女5人の編成だが、そもそもコスプレなので髪色も自由に変えられるし、もしかしたら性別も違うかもしれない。顔を思い出そうにも、金髪だけがインパクト大きかったのであまり覚えていなかった。1度覚えた特徴は忘れないが、覚えていない特徴はどう足掻いても思い出せない。この2人は意外とポンコツなのであった。


「うーん……」


アレックスは唸った。


「せめて何のコスプレかは分かるな?」


「ちょっと待ってろ」


戸村が再びスマホを操作する。


「『異世界バケーション』の主人公と、ヒロインのヒカリ、フウ、アカリ、あとフブキ、それと新キャラのミズキと、ヤミだな」


「なるほどわからん」


そういうことにはめっぽう疎いアレックスだった。


「でも、ターゲットが扮するとしたら背格好とか特徴とかが似ているヒカリっぽいな」


「じゃあヒカリのコスプレをしてるやつを中心的にマークすればいいだけだな?」


「恐らくな」


そんなことを話しているうちにターゲットたちが地下鉄を降りたので、2人は少し離れて着いていく。するとどういうことだろう。周りから続々と似たような格好の人々が集まってきた。


「会場が近いから他の参加者も目立つな」


「というかまずいぞ……これじゃあますますターゲットが狙いずらくなるし、特徴で判別しようにも同じコスプレのやつが多いから1度見失ったら探すのが大変だ」


「多少強引だが、会場に着く前に手を打つか…?」


2人は考え込んだ。しかし、考えている間にもどんどん人は増え、ターゲットを人混みで見失ってしまった。


「あーあ……どうすんだよこれ……諦めるか?」


「いや、恐らく会場内ではあの7人は別行動をするはずだ。同人誌即売会だからな。確保したいものがあるなら色んな列にバラけて並ぶはず。そこを狙うぞ」


「それ、誰の情報だよ…」


「私のだ」


「信用できるのかよそれ!?」


アレックスは不満を顕にしたが、他に手はないし、ここまで来てただ帰るのも癪だ。とりあえず戸村の判断を信じてみることにする。

会場に到着した2人、しかしすぐに異変に気づいた。

会場の一点に人だかりができている。

なにやらコスプレイヤーを囲んで撮影している人達がいるようだ。


「……あいつらじゃん」


なんと、人だかりはターゲットとその一団を囲んでいたようだ。

これは探す手間が省けたと勇んで近づこうとした2人。しかし、あるミスを犯していた。

というか家を出る時から既にミスを犯していたのだが、今まで気づかなかった。


そう、2人はいつも通りのスーツとアロハシャツ姿で会場にやってきてしまったのである。

普段は特に浮くことはない服装だったのだが、コスプレイヤーとカメラマンだらけの会場で、2人の姿は明らかに浮いていた。


まずいことが起こった。具体的には、ターゲットたちが接近する2人に気づいて逃げ出してしまったのである。しかも3人、2人、2人の3グループに分かれて……


恐らく逃げる段取りもついていたのだろう。侮れないやつらである。……というか単に2人がアホなだけだが……


「くそっ!どれを追えばいい!?」


「お前はヒカリのコスプレをしてるやつを追え!私は適当に追いかけるから」


「適当に!?」


アレックスは素っ頓狂な声を上げたが、さすがは秘密組織〝死神(グリムリーパー)〟である。すぐに反応してターゲットを追いかけた。

戸村のほうはというと、3人で逃げているグループが一番怪しい(確率的に)ということで、そのグループを追いかけた。


壮絶な鬼ごっこが始まったのだった……


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