必殺?花火大作戦!
はい、タイトルネタバレです。
「……さま……さまっ!」
私を呼ぶ声でしょうか、誰かが必死に呼びかける声がします。
……そう言えば私は、兵士から逃げて……捕まって……あっ!
「っ!?」
私は半ば強引に目を覚ましました。本当はもう少し寝ていたかったのですが、事態が事態なので仕方ありません。そして周囲の状況を確認します。わりと広い空間です。石造りと思しきその空間は酷く殺風景で不安をかきたてます。私はどうやら縄のようなもので手足を縛られて太い柱に括り付けられているようでした。隣を見ると、同じようにカスミが縛られており、周りには10人ほどの兵士が見張りをしていました。
「アイリ姫様、気づかれましたか!心配したんすよ?」
さっきから、私に呼びかけていたのはカスミのようでした。
「この状況であなたに心配されてもどうしようもないじゃないですか…」
私は率直な意見を述べます。
「いやぁ大丈夫っすよ!すぐに助けが来ますから!」
「誰が助けに来るんですか!?兵士ですよ!?武装してるんです!リュウジさんやアキさんを危険に巻き込めません!むしろ来ないでくださいお願いします!」
「だぁぁれかぁぁぁたすけてぇぇぇっっ!!」
カスミが叫ぶと、兵士の1人が「うるせぇ黙ってろ!」と縛られているカスミを素手で殴り飛ばしました。……自業自得とはいえ、とても痛そうです。
「姫様ぁ……」
「……なんですか?」
突然声色を変えてきたカスミに警戒しながら返事をすると
「この前はマイズナー帝国軍を足止め出来ずに申し訳ありませんでした。そして今回も姫様をお守りすることができなくて……結果、姫様にこんな惨めな想いを……」
「いえ、惨めではありません!」
「は?もしかして姫様はこういうふうに縛られるのが大好きな…」
「違いますけど!?」
カスミの思考が危険な方向に進もうとしていたので私は慌てて訂正しました。
「……でも、こうやって異世界でリュウジさんやアキさんたちと出会って、カップメンやワショクを食べて、スカイツリーに登って、タピオカを飲んで、ゲームをして……とても貴重な体験ができました。だからカスミにも感謝ですよ?」
「……なるほど、つまり姫様はこういうふうに縛られるのが…」
「そこから離れませんか!?」
せっかくいいことを言っているのにこれでは台無しではありませんか!
少しは空気を読んでもらいたいものです!
「ふふっ、でもわかる気がします。アイリ姫様は小さい頃から新しいことに挑戦するのが大好きでした。そのおかげでだいぶ手を焼いたんすよ?」
「あら、そうでしたか?」
とぼけておきます。カスミには小さい頃から姉のように接してもらって本当にお世話になったのですが、なんてことないことをたまにとんでもない事態に発展させてしまうので、私も手を焼いていたのでした。
「姫様も本当に大きくなられましたよね!自分も鼻が高いです!」
「そ・れ・は!この状況で言う言葉ではありませんよ!」
縛られていなければカスミの頭を思い切り叩いて「なんでやねん!」と叫んでいたことでしょう。それにしてもこの世界で学んだツッコミというものはほんとに役に立ちます。
「うるさいぞお前ら!?」
パシーン!パシーン!と兵士が持っていた剣の腹で私とカスミの尻を叩きました。
とても痛いです。……けど
「いい音がしましたね!?」
「だめっすよ!姫様はドMなのでこういうのは基本的に効かないっす!」
「だから違いますけど!?」
なおも黙る気配のない私たちに痺れを切らしたのか、兵士のうちの一人が剣を抜くと、カスミの前で掲げました。
「こいつは別に生かしておく必要ないんだから、殺せば静かになるよなぁ……?」
すると別の兵士が窘めます。
「ダメだぞ、ベン隊長の許可をいただいてからだ。勝手に人質を殺したら後でどんな仕打ちが待っているか……」
その時、「ハーッハッハッハ!」という高笑いとともに私たちの視界に新たな兵士が入ってきました。しかも、その兵士の鎧には光り輝く棒のようなもの(確かアキによるとペンライトというらしいです)がゴテゴテと取り付けられ、薄暗い空間の中で一際輝きを放っています。
「見たまえこの輝きを!まさにこのベン・ブレイザーに相応しい輝きだとは思わんかね!?」
「はっ!まさにその通りでございます隊長!」
得意げに胸を張るベンに対して、兵士たちは真面目な様子で応える。
「お前らもそう思うよな?」
ベンと名乗った兵士は、こともあろうに私たちにも意見を求めてきました。
「ええ……すごく……いいかと」
「ふふふっ……とても……ププッ……かっこいいっす」
私がなんとか笑いを堪えながら言ったのに、なぜカスミは普通に笑っているのでしょう!?
「馬鹿にするなよ。俺がこれを手に入れるまでどれほどの苦難があったと思ってるんだ!?」
ベンはペンライトを指さしながら言います。いや、わかりませんけど、何故そこまで自慢したがるのでしょうか?マイズナー帝国の方々は派手好きなのでしょうか?
「そうだぞ!ベン隊長がどれほどの武勲を上げて手に入れたものか!お前たちには分からないだろう!」
周りの兵士も同調して言います。武勲とか関係ないと思うのですが……
とその時、
「はー?ばっかじゃないの!?そんなのそこら辺のスーパーマーケットで売ってるわよ!」
「誰だ!?」
突然頭上から響いた声に、兵士たちは浮き足立ちました。……この声は……
「まったく、助けに来るのが遅いっすよー」
「あっさり捕まってるあんたには言われたくないんだけど、まあいいわ。雑魚どもよーく聞きなさい!今すぐお姉ちゃんを置いてここから退去すること!じゃないと痛い目を見ることになるわよ?」
この声は、妹のレーネでした!レーネも私を追いかけてこの世界にやって来ていたのでしょうか。しかも先程のやり取りからしてカスミもそれを知っていたようです。あれほど余裕の態度だったのも納得といえば納得です。私をドM呼ばわりしたのも、時間稼ぎのつもりだと考えれば……許せ……ませんけど!
レーネは何やら筒状のものをたくさん抱えて広間に突き出した鉄骨の上に座っていました。
しかも、誰がコーディネートしたのか、この世界の衣装に身を包んでいます。とても似合っています。
「ふざけんな小娘が!貴様になにができる!?この世界では魔法はいつも通り使えないぞ?」
ベンがレーネに向かって叫び返しました。
「……そう?甘いわね。あんたたちが相手にしようとしてるのは、エルブラン公国最強の錬金術師、レーネ・エルブランなのよ!」
レーネは片手で何かの装置をカチカチ操作しました。するとなんと、その装置から小さな炎が出たではありませんか!
「そ、そんな炎でいったい何が……」
ベンは最後まで言うことができませんでした、なぜなら、レーネが炎を手に持った筒状の物から伸びている紐につけると、紐はどんどん燃えて筒に到達し……
ヒューーッ!!
という大きな音を立てて筒から炎の塊がベンを目掛けて発射されたのです!
そして、
パンッ!!
というまた大きな音を立ててベンの近くで爆発しました!
「うわっ!魔法だ!炎属性魔法だ!誰か!誰か防御陣を!」
「無理です!この世界では防御陣は組めません!魔法なので!」
「あっ、そうだったー!!」
ベンの叫びで一斉に兵士たちは逃げ惑い始めました。そんなことはお構いなく「死ねモブキャラども!」などと叫びながら兵士たちに容赦なく炎の塊を撃ちこんでいくレーネ。
そして、逃げ出した兵士たちも、後から現れた男性2人組 (リュウジたちが〝死神〟と呼んでいた2人組です。なぜここにいるのかは謎ですが、どうやら私たちを助けるのに協力してくれているようでした。)に殴り倒されて気絶してしまいました。
どさくさに紛れて私は手や足の辺りをくすぐったい感覚に襲われました。
慌てて背後を振り向くと、リュウジが私の縛られている縄を解いてくれており、私が見ていることに気づくと「しーっ!」と人差し指を立てました。
「今のうちに逃げるぞ…」
「でもカスミは……?」
隣を見ると既にカスミは縄から解かれてじーっとこちらを眺めていました。
「自分がどうしたんすか?」
「はやくないですか!?」
「いやこいつ、俺が来た時にはすでに自分で縄解いてたんだよ……」
さすがシノビです……
見ると、兵士のほとんどは、男性2人組によって倒されうちの一人(金髪のほう)が闇魔法で兵士たちからマナを吸い上げているようでした。
「クックック……漲る、漲るぞぉ……」
「さっさと行くっすよ!」
縄を解かれた私は、カスミに手を引かれてこの場を後にしようとしました。
「ちょっと待てやコラァ!」
案の定、金髪の男性は私を逃がしたくはないようで、私たちに向けて闇の槍を放ってきました。それに反応したカスミが何やら小さな玉のようなものを前方に投げました。
すると、ガシャン!という音を立てて大きな鉄の壁のようなものが生成され、闇の槍を防ぎます。シノビはこのようなマナの塊を常に携帯していて、咄嗟に投げて魔法を発動すると聞いたことがあります。確かにこれなら、この世界でもある程度魔法を使うことが出来るでしょう。もちろん弾数に制限はありますが…
カスミの魔法が闇魔法を防いでいる間に私たちは走って建物を出ると、一目散に逃げました。途中で、別ルートで脱出してきたと思しきレーネと合流しました。
「ね、私のハナビ大作戦、大成功だったでしょ!すごいでしょ!」
「はいはい、すごいすごい。でもその話は安全なところまで逃げてからな?」
とリュウジ。
レーネもそれ以上は何も言わず、私たちは人通りの多い場所まで逃げる事が出来たのでした。
読んでいただいた方ありがとうございます。
注意ですが、レーネちゃんの真似をして花火を人に向けてはいけません。危ないので。
あとお姫様はドMではありません。カスミちゃんが適当に言っているだけなので。