表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お姫様は異世界人  作者: 早見 羽流
ー幕間②ー
22/36

親衛隊長は異世界人

何かを気づいてもらえる回になれば

少年は生まれた時から貴族だった。

両親に大切に育てられ、庶民を無意識に蔑んでいた。

幼い頃から神童と呼ばれ、特に優秀だった少年は、その能力の高さと傲慢な性格ゆえに周囲から孤立することも多かった。


少年は周りの嫌がらせから自分の身を守るために剣術を習った。優秀な少年は剣術の才能もあったらしく、すぐに周りの誰よりも強くなった。


そんなある日、少年がいつもように貴族の通う学校へ馬車の送迎で向かっていると、とある路地である少女の後ろ姿を見た。普段ならそのまま通り過ぎてしまうところだったが、少女の着ていた服に異様に豪華な装飾が施されているのを見た少年は気になって、御者に馬車を先回りさせて、馬車から降りて少女を待った。


少女はすぐに現れた。鮮やかな金髪が風になびいてフワッと広がる。後ろを気にしながら走ってきたので、少年の目の前で道のくぼみに足をとられて盛大にバランスを崩した。


「うぁっ!?」


「おっと……」


少年は持ち前の反射神経と腕力で少女を支えると


「大丈夫ですか…?」


と声をかけた。服装からしてかなり身分の高そうな少女だ。もしかしたら自分よりも上かもしれない。仲良くしておくと後で利用できそうだ。

そんなことを考えていると少女が顔を上げてほほ笑みかけてくる。


「ありがとうございます!助かりました!」


「……って姫様!?」


その顔を見て少年は驚いた。城の式典などでよく見かける現エルブラン元首の娘、アイリ・エルブランその人だったのである。


「……あら、あなたは……?そうだわ、アドラー家の……」


「クリストファー・アドラーです」


クリストファーと名乗った少年は片膝をつき、うやうやしく頭を垂れながら挨拶した。


「ええ、大変将来が有望な若者だとうかがってますよ!」


「恐縮です…」


クリストファーは式典にちょこっとしか顔を出さない自分がアイリ姫に覚えられていたことに、さらに驚いたようだ。


「……で、姫様はどちらへ?もしかして迷われたのでは?城まで送りましょうか?」


アイリ姫を助けたとなれば、クリストファーの評判も上がる。上手くいけば元首から褒美も頂けるかもしれない。計算高いクリストファーにはそんな算段があった。


「いいえ、クリストファー。いえ、クリスと呼びますね。……クリス、私は自分の意思で城を抜け出してきたのです」


「な、なんですと!?」


クリストファー、いや、クリスは呆然と天を仰いだ。

アイリ姫が生来お転婆なのは聞いていたが、勝手に城を抜け出して、庶民の暮らす薄汚くて危ない城下町に遊びに来ていたなんて……衛兵は何をやっていたんだ!…いや、そういう問題ではなく…


「なので見逃してくださらない…?」


「い、いけません!城下町は姫様には野蛮で危険です!もしなにかあったら……」


もしここで見逃してアイリ姫の身に何かあったら、クリスも責任を負わねばならない。最悪の場合、公国から追放も有り得る。


「あら、野蛮ではありませんよ?とても活気のあって良い街です」


「なりません姫様!」


クリスをかわして先へ行こうとするアイリ姫を、クリスは必死に遮った。


「行かせてください、怒りますよ!」


「姫様……」


「クリスの名前も聞いてしまったのですから、あとでカールに報告しますよ?クリスに乱暴されましたって」


執政官のカール・コロは、先代の元首の頃から仕えている重臣で、とてもクリスが逆らえる相手ではない。おまけに内政をとりしきるカールは、貴族の人事権をも握っていたので、悪い印象を抱かせれば出世の道は絶たれてしまう。

今まで大した苦労をしなくても生きてこれたクリスは、ただ今人生で1番困っていた。


クリスはその優秀な頭脳をフル回転させて、どの選択肢が一番自分への評価が下がるリスクが低いかを計算した。しかしどのシュミレーションも意味がなかった。なぜなら、突然アイリ姫が腰に手を当てると得意げな表情でこんなことを言い出したからである。


「そんなに心配ならクリス、あなたも私と一緒に町に行きましょう!」


「…えぇ!?」


思わず素で驚きの声をあげるクリス。


「なにを驚いているのですか?行きますよ?」


「お、お待ちください!」


歩き出したアイリ姫の手を掴んで慌てて引き止めるクリス、しかしまずいと思ってすぐに離した……が


「……いけませんそれは」


「……申し訳ありません」


エルブラン公国では、未婚の女性が好きでもない男性と手を繋ぐのはタブーとされてきたのだった。…もうこうなってしまっては大人しくアイリ姫に従うしかあるまい。

クリスは馬車の御者に屋敷に戻るように伝えると、アイリ姫を追いかけて城下町に向かったのだった。


「一応私も学校があるのですが……」


やっとアイリ姫に追いついたクリスはとりあえずそんな苦言を呈してみる。このお姫様、町へ行くのがよほど楽しみなのか、やたらと早足で歩く。追いつくのにも一苦労だった。


「学校なんかよりもこっちのほうが数倍ためになると思いますよ?」


そもそもアイリ姫は専門の家庭教師のようなものがついているので学校には行っていない。行っていないのになぜ学校よりもためになると言えるのか、クリスは不思議に思った。


「庶民など、薄汚くて野蛮な者どもです。奴らから学ぶことなどありません」


クリスはキッパリと言った。するとアイリ姫は少し寂しそうな表情をしてから


「……あなたもやはりそう言うのですね……」


と小声で言う。声に失望の色を感じ取ったクリスは慌てて弁明した。


「え、いや、別に本心で言ったつもりでは……そ、そうですね、会ってみなければ分からないかもしれません!ええ!そうですとも!」


そんなクリスの様子を見て、アイリ姫は少し表情を和らげて、くすっと笑った。


「さあ、もう少しで着きますよ?」


2人は貴族の屋敷や協会、大きな商館などが並ぶエリアから少し離れた繁華街にたどり着いた。目の前には大きな門があり、昼間は基本的に開いている。しかし、余程のことがない限り向こうの人間はこちらには入ってこないし、逆も然り。見えない壁があるかのようだった。


「気をつけてください姫様。ここから先は…」


「わかっています!」


ちょっとキレ気味のアイリ姫にクリスはもう黙るしかなかった。しかし、何かあったら同伴していたクリスの責任になるので、なんとしてもアイリ姫は守らなければならない。

もし暴徒に襲われるなんてことがあったら……


「アイリ姫様だ!」


「姫様だ、姫様がお見えになったぞ!」


「また抜け出してこられたのですか!?」


予想に反して、アイリ姫が庶民の町を歩き始めると、通行人から歓声のようなものが上がり、またたく間にアイリ姫を迎える温かい輪が形成された。


「ええ、ちょっと…」


照れくさい様子のアイリ姫。しかし隣にひかえてるクリスは、いつ誰がアイリ姫に襲い掛かるかわかったものでは無いので、気が気ではなかった。


「姫様!新作ができたのでお試しください!」


輪の中から、アイリやクリスと同年代くらいの少女が現れて、アイリ姫になにか丸いものを差し出した。パンのようだ。アイリ姫はありがとうと微笑むと、こともあろうにそのパンを受け取ろうとした。


「いけません!」


咄嗟にクリスは少女の手を払い除けた。パンに毒でも仕込まれていたら大変だ。

払われた少女の手からパンが道端に転げ落ちた。


「「あっ……」」


アイリ姫と少女の笑顔が一瞬で凍りついた。クリスはしまったと思った。また余計なことをしてしまったか……しかしアイリ姫を危険に晒す訳にはいかない。

「……う、うぅ、ごめんなさい……私…」


「大丈夫ですよ?」


泣き出しそうな少女にアイリ姫は優しく声をかけると、クリスが止める間もなくなんと道端に転がったパンを拾い上げて、手でホコリを払うとそのまま1口かじった。

おぉ……というどよめきが群衆から上がった。クリスも呆気に取られてその様子を眺めていた。


「とても美味しいです!今度城に仕入れさせましょう!」


アイリ姫が満足気な表情で言うと、わぁぁぁっ!と群衆から歓声が上がった。少女も小さくガッツポーズをして喜んでいた。


「……なんなんだこれは…」


クリスは突然のアイリ姫劇場にただただ唖然とするしかなかった。















スッキリしない終わり方だと思いますが、まだこの話は次話も続きます。

良き統治者とは、庶民の目線に立って物事が考えられる人だと思ってます。

アイリ姫は小さい頃から庶民と交流しながらそういう考え方を持ったんだと、だから異世界に転移しても上手くやっていけてるんだと思います。

そんな回でした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ