死神と錬金術師
ちょっと更新ペースを上げようと思う今日この頃です
少女が目を覚ますと、そこは見たこともないような場所だった。そもそも異世界からやってきた少女にとっては、この世界で見るもの全てが新鮮で、とても興味をそそられるものだったのだが…
少女は辺りを見渡して状況を確認する。頭が割れるように痛い。マナ切れの症状だった。マナ切れを起こしてからだいぶ時間が経っているはずだが、未だに治っていない。
この世界では、空間マナの欠乏からか体内マナの回復が極端に遅いのだった。
あたりは真新しい事務所のような場所で、応接セットのソファのような場所で少女は寝かされていた。といっても少女には事務所も応接セットもよく分からなかったので、ただソファに寝かされているなとしか思わなかった。
「お目覚めかい、お嬢さん!」
そう背後から声をかけたのは、先程少女と死闘をしていたアロハシャツ男だった。
「なぁっ!?」
飛び上がって驚いた少女は勢いあまってドンッ!という音を立ててソファから転げ落ちた。
「驚きすぎだろ……大丈夫、大人しくしてれば何もしねぇから」
アロハシャツ男は呆れた様子で言うと、手に持ったカップにコーヒーを淹れ、応接セットのテーブルの上に置いた。
「まあ飲めよ。変なものは入ってないから」
「……」
警戒しているのか、カップを睨んだままの少女に、まあいいけどよと言うと、アロハシャツ男は少女の目の前の席に座った。
「お嬢さんにはいろいろ聞きたいことあるんだけど、協力してくれる?」
「……嫌だと言ったら?」
「ご想像にお任せするぜ」
少女は、はぁ……とため息をつくと
「まあ、私負けたわけだし、従うのは別にいいんだけど、その前に自分から自己紹介するのが礼儀ではなくて?」
「こりゃあ悪かったな。オレはアレックス・ハワードっていうんだ。この国で魔法使いをやっている」
「嘘はよくないわよ。この世界で魔法使いなんてやるのは無理。空間マナがほとんどないんだから。〝ただの〟魔法使いなわけがない。他に何かあるはずよ」
「ほう、鋭いなお嬢さん。嫌いじゃないぜ」
感心した様子のアロハシャツ男改めアレックス。
当ててみろよ、と身を乗り出して挑発的に言う。
その様子に少しムキになった少女は努めて不敵な笑みを浮かべようとしながら
「そうね、私があなたに感じたマナはとても禍々しいものだった。だから真っ先にあなたを狙ったし、最初から出し惜しみしないで全力で倒しにいったわ。恐らく闇属性のマナ、他の生物から生命力を吸収することによって増殖するという特性を使ってるわね?」
「うーん、近いがちょっと違うな。まあいいわ、そのうち機会があったら教えてやる」
アレックスはそれ以上自分について話す気は無いようだった。そして少女もこれ以上詳しく聞く気はないようだ。
「……私の名前はレーネ・エルブラン。エルブラン公国最強の錬金術師よ。マナがちゃんとある場所だったら、あんたなんかに遅れをとったりはしないわ」
「あー、そうかよ。で、その最強の錬金術師さんは何をしに異世界に来たんだ?」
「お姉ちゃんのマナの気配を追いかけてきたの。多分この世界に迷い込んでるはずだから」
「はぁ!?」
驚くアレックス。
「驚きすぎよ」
お返しとばかりに言う少女改めレーネ。
「いや、まさかとは思ってたけどそういうパターンか…」
「なに1人で納得してんのよ。お姉ちゃんのこと知ってるならさっさと教えなさいよ。連れて帰るだけだし迷惑かけないから」
「知ってるというかなんというか、オレらもそのお姉ちゃんに用があるのさ」
「はぁ……?」
よく分からないといった様子のレーネ
「そのお姉ちゃん。一目見たら分かるよな?」
「当たり前でしょ?」
するとアレックスは何か気づいたように手をパンッと叩いた。
「ていうかさ、マナが追えるならお姉ちゃんの居場所も楽勝に分かるでしょ?」
「…マナを追えるのはあんたもでしょうが。でも分からないんでしょ?そういうことよ。お姉ちゃんは何らかの手段でマナを隠してる。理由はわからないけど」
「……隠してるかぁ」
アレックスは考えるような仕草をしてしばらく硬直していた。
「その手があったか……」




