お姫様、魔法の授業をする
さて、第二部ですよ。
よほどのことがなければこのペースで更新していこうと思います。
異世界にやってきて早速カップラーメンの味を知ってしまったお姫様が次にどうするのか、ご期待ください。
「……でさ、アイリちゃん」
私がカップメンを食べ終えるのを待ってからアキが口を開きました。
「はい?」
「その、アイリちゃんはどうするつもり?これから…」
「もちろん、私を待っているはずの皆さんのところに戻りたいのですが……」
私は目を閉じ、空中に手をかざしてみます。
この空間には異常に『空間マナ』が少ないと感じていました。
魔法の使えない庶民の方にはなかなか理解できないでしょうが、魔法というものは魔法を唱える空間にある『空間マナ』と私たちの体内に蓄えられている『体内マナ』から魔力を引き出すことによって使用できます。
また、それぞれのマナには、火、水、地、風、光、闇の六属性があります。
魔法の威力や性能、効果や属性などによって使用するマナの種類や量が異なっており、私がここに来る時に使用した『シャインゲート』は最上級の光属性魔法ですので、それはもう大量の光属性マナを使用します。
たまたま城の私の自室には光属性マナが大量にありましたが、それ以外の場所では唱えることはできないでしょう。
先ほどのお湯は、呪文名を唱えずとも発動できる下級魔法な上にマナの消費も少ないので、『空間マナ』を使わずとも私の『体内マナ』だけで発動することができたのです。
ここまでを、魔法というものを存知ないと思われるアキとリュウジに丁寧に説明してあげました。
それでも、理解するのには時間がかかるかと思いきや
「なるほどねぇ……」
と分かったような素振りで頷く二人。
「つまり、シャインゲートはここでは使えないのね?」
「はい……それと私の体内マナもシャインゲートと先ほどのお湯でもう枯渇寸前なんです…」
「あーあ……無理してお湯ださなくてもすぐ沸いたのに…」
呆れ顔のリュウジ。
「体内マナは休めば回復するのね?」
「そうですね……時間はかかりますけど…」
「どれくらい?」
「はい、1ヶ月もすれば全回復しますが……私の体内マナだけではシャインゲートを唱えることはとてもできないんです……」
自分の無力さに情けなくなってきて私は顔を伏せました。
すると
「よし分かった!」
とアキが手を叩きます。
「アイリちゃん。1ヶ月、私たちの世界で生活して、マナを回復させながら、空間マナの多い場所を探そう!それしかないよ!」
「そうだな……」
「えっ……あの、お二人ともどうしてそこまで…」
「決まってんじゃん…」
と、得意顔のアキ
「この世界に慣れてないお姫様を放ったらかしになんてできないでしょ?それに、アイリちゃんがリュウちゃんの部屋に来たのは何かの縁だしね。」
「姉貴の縁じゃなくて俺の縁だけどな!」
「お二人とも……」
「た、だ、し!」
アキが人差し指を立てながら続けます。
「条件が3つくらいあるよ。」
「条件……?」
「一つ、この世界で生活するからにはこの世界のルールに従ってもらいます。詳しくは私とかリュウジが教えるからね?」
「……はい」
郷に入っては郷に従えということですね。
「二つ目、人前では魔法はできるだけ使わないこと。マナ節約の意味もあるけど、この世界には魔法を使える人はほとんどいない。その代わりに危ない兵器がたくさんあるんだよ。魔法が使える人間はどこかの組織に利用されたり、魔女狩りに遭ったりするかもしれないし、できるだけバレないようにね?」
「はい」
「そんな、考えすぎだろ姉貴」
とリュウジが口を挟みます。
「うーん、そうだといいんだけど用心するに越した事はないじゃん。アイリちゃんが目を付けられると私達だってどうなるかわからないんだよ?」
「それはそうだがなぁ…」
「大丈夫です。人前では魔法は使いません。」
私はきっぱり言いました。こんなに親切にしてくれる人に迷惑をかけるわけにはいきません。
「ありがとうアイリちゃん!あと最後に、できたらアイリちゃんがいた異世界のこととか魔法のこととか私たちにいろいろ教えてほしいな……」
「そんなことでよければ、いくらでも…」
「ほんとっ!?ありがとう!!」
「やったな!」
手を叩いて喜ぶアキとリュウジ
「これで俺たちも魔法が使えたりするのかな……すげぇな」
「あの……大変申し上げにくいのですが……」
「なあに?」
「お二人は魔法を使えない……と思います…」
「「なんで!?」」
とても驚いた様子の二人。
「ごめんなさい、実はこっそりお二人の体内マナの量を見たのですが……」
この世界の空間同様に、ほぼゼロでした。私たちの国では庶民であれ、多少の体内マナを所持しているものです。魔法を唱える時、マナの制御は体内マナでしか行えないのでとても重要なのですが、何故かは分かりませんがこの二人には体内マナがほとんどなく、空間マナに頼って魔法を使おうとしてもこれではマナを制御することすらできずに暴発してしまうでしょう……
そもそもこの空間にはマナがほとんどないので暴発の心配もないのですが。
「そん……な……」
がっくりと項垂れる二人。
それを見て私は慌てて言いました。
「あ、あの!家事とかでしたら、私やったことあるので何でもできるのでどうか見捨てないでください!」
「……ただの偉いお姫様じゃないのね、すごいわね。」
項垂れたままのアキ。
「でもごめんね。多分その家事のスキルは私たちの世界じゃ役に立たないと思うわ……」
「そんな……」
今度は私が呆然とする番でした。
質問攻めとカップメンで完全に忘れていましたが考えてみると、この部屋にある小物もほとんど見たことも無いものです。
黒い大きなすべすべした板のようなもの、首を振りながら延々と風を吐き出す足のついた白い円いもの、そして頭上の光属性魔法も使えない空間のはずなのに煌々と光っているもの!
この世界では私の知識やマナが少ないため魔法も姫としての権力に至るまで何もかもがろくに通用しない……そんな世界で私は数少ない助力をしてくれる人にすら必要とされていないようです!
「うぁぁぁぁっ!」
私は叫びながら走りました。恐らく出口があるであろう、先ほどアキが入ってきた方向に向けて走ります。今はとにかくこの空間から外に出たい。そう感じました。後ろから、ちょっと!?という慌てた声がしましたが構わず目の前の扉を開けようとします。扉は鉄の扉でしたが幸いノブのようなものがあったので回して体重をかけるようにして開けました。すると……
「……あぁ」
なんてことでしょう!まず鼻をつくような臭い。そして乱立している大きな四角い鉄の城、私がいたのは城の一つのバルコニーのような場所でしたが、下を見ると眼下を馬に引かれるでもなく大きな音を立てながら猛スピードで走っていく不格好な馬車……そして
はるか遠方に見える光り輝く巨大な塔……
「なんですかこれは……こんな世界で……一人で生きていけるわけないですよ……」
私はその場に座り込みます。涙が自然と溢れてきました。私の生まれた王国に帰りたい……あの景色が見たいと心のそこから思いました。そして、私はいつしか気を失ってしまったようでした……。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
まあこんな感じになってしまいました。
今まで車も電車もビルも無かった異世界にいた人がいきなり都会にやってきたらどうなるかな?やっぱり最初はショック受けるだろうなと思いながら書きました。(もちろんこれで終わりではないです)
魔法の設定ですが、感想でご指摘いただいた部分を踏まえながら設定させていただきましたが、異世界に転移した理由については物語の核心に迫る部分でもありますので後ほど明らかになるという感じで……
とりあえず、この後お姫様がどうなっていくのか乞うご期待です。