死神VS錬金術師
さて、待望の戦闘シーンです!
「……さっきは肝が冷えた」
長身スーツ男が呟いた。
「全くだ、でも考えてみりゃあ〝死神〟なんて存在をあいつらは知るはずないんだし、ただの偶然だろ」
金髪ツンツン頭のアロハシャツ男が軽い調子で答える。
「さっきは散々慌ててた癖によく言えるな…」
「まあでも、さっきの金髪の女の子からは魔力の気配はしなかったし、気にしなくていいんじゃないのか?」
「……いや、そうだがな。どうも気になる」
「同じアパートなんだし、ゆっくり観察すればいいんじゃね?……ていうか、今はそれよりも重要なことがあんだろ?」
「……あぁ、先程お前が観測したという新しいシャインゲートの反応……この前のテンペストボルトを使った魔法使いが異世界に帰ったか、はたまた新しい魔法使いが現れたか……」
スーツ男は歩きながらそう言うと、ハンカチで額の汗を拭った。
「どうやら後者みたいだぜぃ。すぐ後で近くの場所で別の魔法が使われた感じがある。多分、クールブレスとリペアーかな?」
「シャインゲート、クールブレス、リペアー……なんだ魔法の属性に統一感がないな」
「基本的にマナの相性の問題があるから、1人の魔法使いにつき使える魔法は1属性っていう説明はしたけど、シャインゲートはともかく他の2つは中級魔法だしそこそこの多属性使い(マルチスキル)なら使えても不思議はないな」
「どちらにせよ厄介な相手だ。魔法反応があってからまだ時間は経っていない。すぐ近くにいるかもしれないぞ、気をつけろ」
「言われなくても!」
二人の男は互いに視線を合わせて頷き合うと、魔法反応のあった現場である、一段と人通りの少ない(というか人通りの全くない)路地裏に足を踏み入れた。
「……どうだ?魔力を感じるか?」
とスーツ男。
「……ん、うーん?いまいちはっきりとはしねぇが……?」
辺りを見回すアロハシャツ男。そして、少し離れたところに散らばっていた、金色に輝く欠片に目を向けた。スーツ男もアロハシャツ男の視線を追いかけてその欠片に気づく。欠片は夕日を浴びて
「あれは…?」
「たまげたなぁ、ありゃ黄銅の欠片だぞ!?どおりで魔力反応が乱れていたわけだな……だとするとあれは陽動で狙いは……」
アロハシャツ男が言い終わるか言い終わらないかのところで、
「メテオフォール!」
という少女の声が路地裏に響き、アロハシャツ男を目掛けていくつもの拳大の石礫が真上から高速で落下してきた。
「グラビティシールド!」
アロハシャツ男がすぐさま叫び、右手を真上に突き出すと、ちょうど掌の辺りから直径1mほどの黒っぽい膜のようなものが広がり、飛来した石礫を音もなく跳ね返した。石礫はコンクリートの路面に当たると、ゴッ!という音を立てて砕けた。
目の前で繰り広げられる命のやりとり。その様子をあっけに取られた表情で眺めるスーツ男。
「ま、魔法か!?」
「お前は下がってろ、こいつはちょっと面倒だ」
アロハシャツ男に言われてスーツ男は二三歩後ずさった。
「おい、出てこい!いるのは分かってるんだぞっ!」
アロハシャツ男が吠える。しかし反応はない。何者かが近くにいることは確かだが、魔法を使って姿を隠しているようだ。
「……っていって出てくるわけないかぁ……じゃぁこれでどうだ?」
するとアロハシャツ男の腕に入った幾何学模様の刺青が光りはじめ、なにやら光の塊のようなものが両手に集まっていく。間違いなく大技を使う体勢だ。
「……っ!?」
どこからともなく少女の息を飲むような声。そして
「シャドウランス!」
アロハシャツ男の両手から無数の闇の槍 (シャドウランス)が、スーツ男のいる部分を除いて全方位に放たれる。居場所が分からないならとりあえず一掃してやろうという力技だった。隠ぺい魔法には防御の効果はない。シャドウランスが命中したらひとたまりもないので、否が応でも一度隠ぺい魔法を解除して、なんらかの防御を行わざるを得ない状況だった。
「クレイウォール!」
たまらず少女が防御魔法を使い、アロハシャツ男の目の前に大きな土の壁が生成された。シャドウランスはほとんどその壁に吸収され、霧散する。
「……はぁ……はぁっ」
隠ぺい魔法を解除せざるを得なくなった少女が壁の裏側に姿を現した。金髪ツインテールの15歳くらいの少女。先程までの戦闘で消耗したのか息が荒い。
それもそのはず、この世界では空間にマナはほとんど存在せず、魔法を使うのは純粋に本人の魔力である体内マナを使うしかない。しかしそれにも上限があり、体内マナを使うに従って体力は消耗していく。大技は使えてあと1、2回といったところだろうか。
「……アイシクルブリザ……?」
少女は違和感を覚えて魔法を中断した。明らかに身体の調子がおかしい。魔力量的にはあと数回唱えられるだけの余裕があったはずだが、今は魔法も使っていないのに残り少ない体内マナがなにかにどんどん吸い上げられていくようだった。
「……だめっ、逃げ…」
少女はとにかく逃げることにした。しかしもう足は思うように動かない。足元を見ると、少女の足首には黒い紐のようなものがぐるぐると巻きついていた。
シャドウランスの付帯効果。防がれて霧散した闇の槍は霧となって対象を追いかけ、身体に取り付いてその魔力を奪う。空間マナが豊富な異世界では「で?」といった感じの地味な効果だが、この世界においてはこれ以上ないほど効果的だった。
あっという間に少女の意識は薄れ、眠るようにその場に倒れた。
「……ふぅ……まあ使った分は吸収できたかなぁ」
アロハシャツの男は首に手を当てながら言った。シャドウランスの魔力吸収効果もあり、まだまだ消耗はしていないようだ。この男にとってはこの程度朝飯前とでもいうのだろうか。
「……で」
アロハシャツの男は目の前に倒れている少女を見下ろしながら
「なんでこの子裸なの……?」
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