お姫様、タピる
お待たせしました。
今回は流行を取り入れたタピオカ回です。
バトルは暫くお待ちください。
「……次でとりあえず最後か…」
リュウジが呟きました。
あれから教会や寺院などの宗教関連施設(この世界でもそのような施設が沢山あったことに驚きです)を片っ端から訪問してきた私たち。
しかし、どの施設にも質や量に違いはあれどマナは存在していたのですが、いざ私が入ろうとすると、見えない結界に阻まれてしまいました。
あるところはやんわりと押しのけられ、あるところはバチンっと音を立てて弾き飛ばされるなど、施設によって対応の差はありましたが……
その度にリュウジやアキは大声で笑い出すので、私は不貞腐れてなんども帰ろうとしました。しかしその度に2人に宥められて渋々探索を続行する……ということを何度か繰り返し、今に至っています。
「次のところはここからちょっと離れたところにある古いジンジャみたいだな……しかも、しばらく前から管理する人が居なくなったせいで、恨みを持ったキツネの化け物がでる……らしい」
ジンジャというものは私の世界にはありませんでしたが、話を聞く限り、寺院や修道院とは異なり、祈りを捧げたり修行をするというよりも、神や怪異を祀るための施設のようでした。
「キツネですか……」
「うん、祟られないように気をつけないとな」
あまり気のすすまなそうなリュウジ
「ってことは、ケモ耳の女の子がプンプン怒ってたりするのかな!?怒られたいー!かわいー!もふもふ!」
一方のアキは目を輝かせて興奮した様子です。理由はいまいち不明ですが……
「でも、キツネであれば、接し方さえ間違えなければ人間に危害を加えることはないはずですが…」
私は首を傾げながら言います。
私の世界にもキツネの怪異はいますが、どれも基本的に人間に友好的で、食べ物や宝物を差し出すと喜んで力を貸してくれたりします。シノビたちもよくキツネの怪異と交流し、信仰の対象にもなっていたとか……
「まあ、お姫様の世界とは勝手が違うのかもな……俺らの世界なんてそういう化け物にすら出会うことはほとんどないんだし」
「……そうなのですか」
どうやらこの世界では、人間と肩を並べて生きているような生物が居ないようです。たまに街中を歩いている庶民が、狼を小型化したような生物や、獅子を小型化したような生物 (イヌやネコというらしいです)を連れていることがありますが、紐で繋がれていたりして、上下関係は明白なようです。
人々に害をなすドラゴンやトロール、キメラなどの生物から、ユニコーンやペガサス、グリフォンなどの幻獣、さらにはエルフやフェアリー、オークなどの亜人種に至るまで、この世界には存在しないと、アキが残念そうに語ってくれていました。
それはなんというか…嬉しいのか寂しいのか……
私がそんなことを考えながら歩いていると、道端に人集りができているのを目撃しました。
「……あれは?」
「あー、あれはタピオカだな」
私の城下町にも時折あのように人集りができていることがありました。大抵『闘龍』という、飛べないように品種改良された小型のドラゴンや、蜥蜴などを闘わせて賭け事をするという遊びで、庶民には大人気だったのですが、この世界ではドラゴンではなくタピオカという生物を闘わせているのでしょうか……?
「タピオカとはどのような生物なのですか?」
「……?」
私の問いに、リュウジとアキは顔を見合わせて一瞬「は?」みたいな顔をしてから、同時に笑い始めました。…なにかおかしなことを質問してしまったのでしょうか?
「……ひ、ひいっ……アイリちゃん最高すぎる!…あのね、タピオカっていうのは食べ物なの!」
「……えっ?」
「食べ物っていうか嗜好品に近いな。ほら、お姫様の世界にも酒ってあったでしょ?雰囲気としてはあんな感じだけど、アルコールは入ってなくて、若者に人気なのがタピオカ」
「あー…」
私は酒を飲んだことがないので、何となくわかるようなわからないような……しかし、たしかによく見てみると、人集りはとある店を中心に形成されていて、人々は何やら飲み物を購入して飲んでいるらしいです。しかも『闘龍』とは異なり、「やっちまえ!」「そこだ、いけっ!」のような野次が飛ぶこともありませんでした。
「せっかくなので飲んでみたいですタピオカ!」
私が言うと、リュウジは「言うと思った」とうんざりした表情で言って
「言っとくけどあれ相当待ってるぞ……?15分から30分くらいはかかるかも……」
「そんなに待てるわけないでしょう!……ほら庶民たち、道を開けてください!」
私はが人集りを押しのけようとすると
「あ、こらダメだって!」
「しまった、お姫様はお姫様だったんだった!」
と、リュウジとアキに力ずくで引き止められました。買ったらすぐに立ち去るつもりなのに、なぜいけないのでしょうか…
「あーもうわかった!並んどいてあげるからアイリちゃんとリュウちゃんは先行ってて!後で追いかけるから……」
「悪いな姉貴」
「……すみません」
この時初めて自分がとんでもないわがままを言っていたのだということに気づき、私は急に申し訳なくなってきました。……これは無事に公国に帰れたら、2人を国賓待遇でお迎えしなくては……
「……ってことだから、先に行こうか」
と促すリュウジについて、私はジンジャに向けて歩き出しました。
読んでいただき、ありがとうございます。
読んでいただけるだけで作者としてはほんとにありがたいんだという初心を思い出す今日この頃です。




