☆08話 なんか抜け作
「女神様に3日分のご主人様の食料はいただいておりますが、その後のご相談でございます」
発言を止められて口をパクパクさせていましたが、ミィの言葉を聞いて目を瞬かせます。
「食料? その後?」
「はい。まだご主人様から食費などをいただいておりません。このお屋敷の維持費、ご主人様の食費、その他もろもろを含めたある程度の金銭を入れていただきたいのでございます」
――お金!? お金なんて貰ってないよ!? スキルは一杯貰ったけど、お金なんて考えてなかったよ。
愕然とします。
――お金必要? 必要だよ。当たり前だよね。生きていくにはお金がかかるもんなんだよ。
スキルとか貰って、それでいい気になってたよ。ティーバックのような女神様の尻にくい込むヒモにでもなる気でいたのか? 肝心の異世界のお金を考えてないなんて、なんか抜け作?
どうする? お金を稼がないといけないよね。どうやって稼ぐか。スキルは貰ってるし、元の世界とは行き来できるし、何とかなるか?
「ご主人様?」
考え込んでいると、ミィの声がかかります。
「あー、あのさ、今は手元にお金ないんだよね。これから稼ごうと思ってるんだけど、どうやって稼ごうかな~なんて思案中?」
「分かりました。女神様からも言われておりますので、これから稼ごうというご主人様にこの世界の説明をさせていただきます」
パンパンとミィが手を叩くと、いつの間にか大きな紙を持ったリラが、こちらに見えるようにそれを掲げました。
「この山周辺の地図でございます。世界地図もございますが、今はこれでようございましょう。ご覧下さい。この山は三国に囲まれております」
ミィの言葉に従って地図を見ます。中心の歪な丸がこの山のようです。考えていたより、ずっと大きな山のようです。
地図上部の右端に『4』のようなマーク、東西南北が漢字で書いてあるマタゼロに親切な地図です。
「北が海、西に『ウエーストネ王国』南に『サウスカヨ神聖帝国』東に『イーストダンベ共和国』がございます。お分かりですか?」
「ああ、分かりやすい地図だね」
地図の中心の山の部分には『オリンボウズ神山(マタゼロアホウ王国・アホがいる)』と書かれていました。
女神の悪意が如実に表れた分かりやすい地図です。
「これらの国にはいくつか迷宮がございます。『サウスカヨ神聖帝国』などは東西南北に大型迷宮があり、ご主人様のようなアホウには全く関係ありませんが、帝都には『勇者の搭』と呼ばれる勇者選定に使われる迷宮もございます」
「迷宮? ダンジョンだよね。それが?」
今は悪意に反応したらダメでしょう。話が進まなくなります。スルーです。
「この世界には『冒険者ギルド』というものがございます。そこに登録して冒険者になっては如何でしょう? 迷宮に潜ってそこの素材を売ってもよし、神山の資源を採取して売ってもよし──アホウでも手っ取り早くお金を稼げるのではないかと思うのですが」
「冒険者ギルド!」
そうです。異世界の定番、冒険者ギルドです。これはチャンスです。悪意はスルーです。
可愛い女の子とのハーレムパーティーが作れるかも知れません。素晴らしい考えです。お金が稼げて、キャッキャウフフッ──砂浜で可愛い女の子と追いかけっこできるかも……。
**
「キャッキャ♡つかまえてごらんなさ~い。」
砂浜を走る可愛いピチピチの女の子。大きく揺れる胸元。汗にひかる張りのある太ももが、マタゼロを誘うように躍動感を持って動きます。
「ハアハア、つかまえた!」
「ああん、もう。こんな汗まみれの女の子を、息を切らせながらつかまえるなんて、ヘ・ン・タ・イね♡」
「マニアだからね。汗はご褒美さ」
「ウフフ♡」
汗で輝く女の子の笑顔。マタゼロも汗を滴らせながら、笑顔を浮かべます。二つの影はやがて一つに……。足元の砂は大量に滴った汗を吸い込んで黒く変わっていきます。
──汗臭さ爆発です。
**
――ちっが~う! 違う! そうじゃない。なんでそうなった?!
ここはまともに可愛い女の子と戯れるシーンを妄想するところだろ?! 憎い! 自分が憎い! この体質はどうしようもないのか?!
「ご主人様?」
ひとりツッコミをしながら身悶えていると、ミィの訝しげな声がかかります。ハッとします。
「コホンッ、冒険者ギルドいいね。登録して稼ごうと思う」
咳払いして、おかしな様子を見せたことをごまかします。
「それでは、登録は『ウエーストネ王国』をお勧めします。初心者用の迷宮が三つあり、あそこのギルドは初心者に親切です。貿易港があり、雑多な国の人々が出入りするせいでしょうか。ご主人様の様に身元証明できない不審者のアホウでも、あまり考えずに簡単にギルドカードを発行してくれるお気楽な国民性で、活気もあるいい国でございます。」
「うん、『ウエーストネ王国』でいいよ。そこのギルドに行こう」
悪意はスルーです。気にしたら負けです。
「では、明日、このわたしめが『ウエーストネ王国』のギルドまでご案内させていただきます。実はわたしは、そこの国の出身なのでございます」
「へえ、そうなんだ」
あまり気にしてなかった事を付け加えられて、気のない返事をしてしまいます。
「どのくらい稼げばいいのか、目安を立て易くなるように、次はこの世界の貨幣についてご説明いたします。」
ミィの言葉と同時にリラが掲げていた地図を、サッとどこかにしまいます。無限収納でも持っているのでしょうか。
首を捻っているとリラが大きな両手の平を揃えて、目の前に差し出してきました。
〈なんか抜け作〉
「どうぞ」
前に置かれたソーサーにはカップとティーバックが載っています。冷や汗が流れます。とっさにティーバックを掴んで叫びます。
「スキル発動!『てんてん』!!」
無事に紅茶が飲めました。
「ご主人様はずいぶんと濃い味がお好みなんですね。」
「マニアだからね」
紅茶を滴らせたティーバックを手に持って頷きます。
──ちっが~う! 違う! 恐ろしい事になってましたね。見切り発車恐いですね。ちょっと、(このままでもいいかな)なんて思ってしまいましたが、もうおかしい話がさらにおかしくなってしまうので、『てんてん』つけました。
『てんてん』大事。抜けると大変。まるで別物になってしまいます。 ((( ;゜Д゜)))
また、やらかすかも知れませんが、なるべく気を付けたいと思います。
☆チキンカオスワールド☆
決着はあっという間についた。
先制攻撃の足の蹴りが決まって、吹き飛ばされた鶏は、空中遊泳した後、地面に落ちて動かなくなった。
待機していた、丸い頭の青い猫型救護ロボットが、動かない鶏に駆けつける。
「……ノビタ?……」
クンクン匂いを嗅いで、完全に意識がないのが分かると、サッと白い旗を上げて振った。そのとたん、側で観戦していた鶏達から、『コケコッコー!』と歓声が上がった。
「決まったな」
「乗り手は『アフロ』だ」
「卑怯者の謗りを恐れない、いい蹴りだった」
「なぜ負けた……なぜだ……」
回りの喧噪の中、一羽の鶏が呆然と呟いた。ハゲタの兄である。弟の勝利をまったく疑っていなかった。
「ボウズだからさ」
何も関係のない赤い鶏がサッと近づき、そう言い残してトットッと逃げていく。
普通の鶏より、三倍は速い逃げ足だった。
充分離れたところで、赤い鶏は立ち止まり、首を傾げた。あの言葉を聞いた時、どうしても、ああ言いたくなったのだ。
言ってから、何かが違うと感じた。伝言ゲームのように本当の言葉とは違っているような違和感がある。
走れば誰よりも速く走れる。この特別な速さは何だろう。以前の自分は……と考えて赤い鶏は首を振った。何かを思い出しても、どうせ忘れるのだ。何か目元が隠れて、頭に被れる兜みたいなのほしーな、とモヤモヤと思った。




