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穴に向かって叫ぶ!  作者: マタゼロ
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☆07話 部屋で優雅にお茶を……



「ふっざけんなー! おばさんとゴリラとオネエだと?!

 最後は女ですらねえ! あのメイドはねぇ! ありえねぇ! 普通に可愛いのを持ってこいや!

 国もおかしい! 国って言うのは人がいて成り立つんだよ! 山と動物ってなんだよ!

 ああ、国なんて家のおまけだと思ったさ。けど、くれるって言われたら期待しちゃうだろー! 紙おむつどうすんだよ! つかまえて、動物に穿()かせるのかよ! 嫌がられるわっ!

 おまえの基準はおかしい! ダメガミー!!」


 床の絨毯の上に開いた穴に、一気に叫んでハアハアと息を切らせます。

 

 ――うん、でもさ、もう決まっちゃったものは仕方ないよね?

 嫌だけど、ものすご~く嫌だけど、仲よくやってくしかないんじゃないかな。異世界だもん。美女率高いはずだよ。メイドはダメだったけど、ほんとダメダメだったけど、これどうすんだって位ダメだったけど、他で可愛い子に出会う事もあるよね?

 国だってさ、王様なんてわたしには荷が勝ち過ぎてたね。人がいない? いいじゃないか。気楽だよ。アハハッ、怒っても仕方ないよね。


 スーッと怒りが冷めていきます。スッキリしました。

 土下座の体勢から立ち上がると、穴は消えていきます。


 スッキリしたところで部屋を見渡しました。マタゼロの部屋は二階の一番奥の角部屋で、両面バルコニーのあるとても広い部屋でした。

 書斎や寝室があり、調度品も豪華です。書斎には本棚や立派な机や椅子がありましたが、本棚は空でした。後で漫画でも持ってきましょう。


 寝室のベッドは、マタゼロには似合わなそうなレースの天蓋付きのお姫様ベッドでした。後で布団でも持ってきましょう。


 薄いピンクの絨毯。白のお洒落なレースとピンクの花柄カーテン。

 調度品は白でまとめられ、可愛い猫脚のアンティーク風。白の皮張りのソファは、背もたれにレースが掛けられ赤とピンクのハート型クッションが置かれています。棚の上には熊やうさぎなどの可愛いぬいぐるみがたくさん。ところどころに飾られた小花。 ──夢見る乙女のような部屋です。


 ――いいじゃないですか。乙女仕様でも。こんな部屋に住みたいなんて一度も思ったことないけど、すっごく落ち着かないけど、人間は慣れる生き物だよね? まあ、最初に穴に叫んでしまったのは、この部屋の事だったけど……。


「よいしょっと」


 スタスタと歩いていき、ソファの上のクッションを床にどかして座ります。レースのテーブルクロスが敷かれた丸テーブルの上のハンドベルを手に持って鳴らしました。ピンクのリボンが付いてます。

 これを鳴らせば、不思議な事に屋敷のどこにいてもメイド達には聞こえるそうです。


 すぐにノックの音がして、メイドが現れました。


「何かご用でごぜえますか。ご主人様」


「ああ、なにか飲み物と軽食を持ってきてくれないか。飲み物は紅茶がいいかな。軽食は任せるよ」


 現れたのは純朴なメイドのリラでした。穴のおかげでマタゼロの心は凪いでいます。叫び過ぎて喉の渇いたマタゼロは飲み物を頼みます。


「かしこまりましただ。少々お待ちくだせえですだ」


 リラは一礼すると部屋を去って行きました。


 少ししてノックの音とともに現れたのは、ワゴンを押すリラと小柄なメイドのミィでした。


 テーブルのそばまで来てワゴンが止まります。ミィがワゴンの上でティーポットからカップに紅茶を注ぎ、ソーサーに載せてマタゼロの前に置きました。


「どうぞ」


 ──紅茶を注いだというのは間違いでした。カップには白湯が注がれています。ソーサーの上にはカップとティーバッグが一つ載っています。


「女神様からご主人様の世界の紅茶というものをいただきました。お好きな濃さとかの加減がわかりませんので、最初はご主人様のお好みでどうぞ。学ばせていただきます」


 ミィの言葉にポカンとしてしまいます。


 ――あんれー、異世界って紅茶ない? お茶あるでしょ? 翻訳? 異世界語翻訳のせい?


 マタゼロのメイドが茶葉からゴールデンルールで入れてくれた、美味しい紅茶を飲むという望みは消えました。部屋で優雅にお茶を飲む事は出来ませんでした。ここで紅茶と言えば、庶民的なティーバッグになってしまいました。


 ひもの先についた紙をつまんで持ち上げると、ティーバッグを白湯の中で上下させます。


「軽食でごぜえますだ」


 ドンとテーブルの上に皿に載った黒いボールが置かれました。


「女神様から聞いて、ご主人様の世界の『おにぎり』と言うものを作りましただ。軽食の定番と聞きましただよ。材料も女神様からいただきましただ。」


 おにぎり──こんな丸くてでかいものは見たことがありません。リラの手で固められたせいでしょう。球面を隙間なく覆っている黒い物は、海苔と言う事ですね。海苔が三帖は使われている贅沢な海苔使いです。


 ―― ──軽食……。おにぎりは軽食になるんでしょうかね? 紅茶には合わないんじゃないかな。サッカーボールになってる時点で軽食とは呼べないよね。


「これもどうぞですだ」


 ボールの脇に皿に載った細長い物がドンと置かれました。


「おにぎりには沢庵というものが付き物と聞きましただ。」


 沢庵です。丸々一本、長い沢庵が大きな皿に載せられています。

 黄味の発色のよい、美味しそうな沢庵です。スッと小さな篭に入れられたおしぼりが添えられます。手づかみで食べる事を予想した気遣いです。


 じっとおにぎりと沢庵を見ます。


「……人間用にしてくれよ」


「何かおっしゃいましただか? ご主人様」


「いや、何でもないよ」


 呟きに反応したリラに笑顔で首を振ります。人間の食べ物を説明するのは後でいいでしょう。言葉は通じているはずです。


 手元のカップを見ると、紅茶の色がずいぶんと濃くなっています。ティーバッグを沈めたまま、長く放置してしまいました。

 持ち上げてティーバッグの水分を切るようにカップの(ふち)にすべらせます。濃い液がカップの中に(したた)って、さらに濃くなってしまいました。


 仕方ありません。濃すぎてまずそうな紅茶を口に含みます。

 渋みが出過ぎています。思わず顔をしかめてしまいました。


「覚えました。ご主人様はずいぶんと濃い味がお好みなのですね。次からはそのように入れさせていただきます」


 嗄れた声がかかります。じーっとこちらを見ていたミィと目が合いました。


「あっあのさ……」


「ご主人様、そのままでお聞き下さいませ。大事な話がございます」


 そんなわけないだろ、やめてくれと慌てて否定しようとしたマタゼロの言葉は、ミィに遮られました。






 


 

「まあ、これがわたしの部屋? ステキ……お姫さまみたい」


 うっとり……。


「……な、わきゃないだろー! なめてんのかー! こんな部屋でどうすんだよー! 恥ずかしすぎるわ!」


 叫び




    ☆チキンカオスワールド☆



 兵士の命を軽くみて、鳥頭でもなければ、誰にでも分かる無謀な事をさせた上官達は降格・更迭された。空撃部隊養成案を出した上層部は一新された。


 今、一機の白い鶏型モビルスーツを前に、二羽の鶏が対峙していた。


 新しい上層部は、モビルスーツ開発に力を入れた。飛べる鶏が誕生したとして、『鶏が飛べたからって、どうしようもないだろ 』という事が分かっていたのである。


 睨み合う二羽はまだ若い鶏である。トサカもまだ小さく、黄色い羽根が残っていてもおかしくない幼さだ。

 だが、二羽とも過酷な訓練を乗り越えてこの場に居る。


 重力負荷訓練──回転木馬の厳しい訓練を乗り越えたのだ。体重のあるトサカの立派な者達は全て脱落した。

 若者しか生き残れない回転木馬は『中年殺し』と呼ばれるようになった。


「全力で戦おう、チキンアフロ」


 三分の角刈りにしている鶏が、目の前にいる鶏に声をかける。


「ああ、勝った方が最新機体のパイロットだ。チキンハゲタ」


 頷いた鶏はアフロヘアーである。本名、チキンナゲット・バーベキューと言う。双子のマスタードとの差異を出すため、アフロヘアーにしている。今では『チキンアフロ』が通り名だ。


 角刈りの鶏も、名門の出で本名は違うが、どうでもいい。『角刈りくん』とか呼びたくなるが、どうでもいい。『なに味だ?』とか聞きたくなるが、どうでもいい。


「いくぞ、アフロ!」

「こい! このハゲ! タアー!」


 『こい!』と叫びながら、チキンアフロはいきなりの飛び蹴りをかます。


 どちらが勝つか、見え見えな戦いの幕が切って落とされた。



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