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穴に向かって叫ぶ!  作者: マタゼロ
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☆06話 メイドが、出揃いました



 屋敷の中に踏み込みむと、足元の感触がフワッとしたものに変わります。


 広い玄関ホールには、精緻な模様が織り込まれた絨毯が敷き詰められていました。


 落ち着いた赤い系統で、黒や白や緑などの糸も使った見事な模様の絨毯です。


 ペルシャ? ベルギー? 値段の張る絨毯など、使った事のないマタゼロにはよく分かりません。なんか、高級絨毯で有名な、その辺の国で作られたようなお高そうな絨毯だなあという位の感想です。


 高い天井は大きめの格子でお洒落な感じに区切られていて、中央にはドーンとガラス(?)製のシャンデリアがぶら下がっています。


 真下にいって見上げてみれば、ガラスの棒が何層にも連なったゾクゾクするような豪華なシャンデリアでした。


 槍の穂先のように見える、ぶら下がったガラスの棒も刺さった時の事を考えるといい迫力が出ています。

 

 これが落ちてきて下敷きになれば確実に死ねる、なかなかの逸品でしょう。


 ホールの右手奥には、吹き抜けの天井の下、二階の壁沿いから緩やかな曲線を描いて降りてくる階段の登り口がありました。

 広い階段の中央には、赤い絨毯が敷かれていて雛人形が飾りたくなります。


 ――すごいよ。すごい屋敷なんだけどさ、なんか空気が重い?


「ご主人様。一階をご案内します」


 首を捻ったところで、嗄れた声がかかります。

 背後に着いてきている、メイドと認めたくない物の方を向きました。


「あのドアが遊戯室や応接室、客間に続くドアで、あそこのドアは厨房や食堂に、あちらのドアは浴場やトイレやテラスに出る廊下に続いています。そこのドアからは中庭に出られます。何か他にご質問はございますか?」


 ―― 一階の案内、終了?!


 ビシッ、ビシッとホールから見えるドアを指差したおばさんは、一歩も動いていません。


「……おいっ」


「あっ、ご主人様。応接室に案内しますだよ。怒られちまうだ。着いて来てくだせえですだ」


 おばさんに何か言おうとしたマタゼロの言葉は、ゴリラに遮られました。腹にゴリラの手が回り、引きずられます。

 後ろ向きでゴリラの腕を支点に、くの字に曲がった体では歩く事ができません。床の上を引きずられた踵が小刻みに跳ねていきます。〈あのドア〉が開けられ、中に入りました。


 ――あんれ~、着いて来いとか言ってたよね? 自分で歩くのかと思っちゃったよ。親切? これ親切? ……ハハッ、でもちょっと、お腹と踵が痛いかなあ。


 背後から早足で着いて来ているおばさんは、マタゼロと目が合っても、ほうれい線の深まった笑いを口元に浮かべるだけです。


 ──ぐっと老けて不気味です。


 廊下を引きずられ、ドアを開ける音とともに中に放り込まれました。


「連れて来ただよ。これがご主人様だべ」


 室内に放り込まれたマタゼロは、床の絨毯の上をうまく前転し、立ち上がることができました。命の危機でした。


「あなたがこのあたしのご主人様?」


 大理石らしい白い光沢を見せる、背の低い長方形のテーブル。

 それを囲む皮張りの豪奢なソファが四脚。

 ちょうどマタゼロの正面になるソファの一つに、長い銀の髪のメイドのお仕着せを着た美しい女性が座っていました。


「貧相ね。でもいいわ。女神様に言われたし、仕えてあげるわ」


 ソファの背もたれに両腕を広げて掛け、脚を組んだとても偉そうな女性の耳は尖っています。エルフです。とても美しいエルフ女性です。


 ――うんうん、巷で言われてる種族特性が、顕著に出てるタイプもいるよね。いやだな。チヤホヤしてくれる綺麗な子が来るって思い込んでたよ。


「あたしはキャサリン。特別にキャシーと呼ぶことを許してあ・げ・る」


 エルフ女性が立ち上がり、口の前に立てた人指し指を、言葉尻に合わせて左中右とポンポンポンと小刻みに三回振ります。


 スレンダーな肢体。ハスキーな声。首もとにはチョーカー。かなり高い背丈に気づいてしまいました。……ま・さ・か


 ──キレイなオネエ(・・・)さんです。


 ――ひどい、ひどいです。99%期待してなかったけれども、これは酷いと思わずにはいられないマタゼロです。


「可愛いメイドが三人って、言ってたのに……」


 思わず愚痴りたくなります。その言葉を聞いた三人が反応します。


「あっ、わたしは女神様に小さくて可愛いとスカウトされました」


 おばさんが胸を張って言います。


「オラは純朴な心根が可愛いって女神様に言っていただけただ」


 ゴリラが両手を頬に当てて顔を赤らめます。


「あたしは乙女であろうとする仕草が可愛いって、女神様に認めていただけたの」


 オネエさんが嬉しそうに身を(よじ)らせます。


「…………」


 うんうん、言葉に対するイメージって人各々(ひとそれぞれ)だよね。やだなあ。体型、心、態度だってさ。あるある、顔ばかりじゃないよね。マタゼロの可愛いってなんかずれてたのかな?


 ――ちがう!ちっが~う!なんか違う!


「……悪いんだけどさ。わたしの部屋に案内してくれる? とても独りになりたい気分なんだ……」




 穴──マタゼロは今、穴を必要としていました。






 あれ? 某有名作品の登場人物にうちのメイドが似ていると? ドワーフの中年越えたおばさんですが? 血の繋がりは一切ない、まああくぅわぁな、他人ですが、まあ、双子のようだねとか難癖つけられたら、名前は変えます。その場合はミミかハナにしようと思います。ん? ユゥでもいいか。うん、ユゥがいいね。



    ☆カオスチキンワールド☆



「コケッ、ズゥ、コッコケ、ズゥ」


 切り立った崖の端に一羽立ち尽くし、チキンタッタは、咳き込み鼻を啜っていた。悔しさに涙がにじむ。


「いいか、飛び降りる時は、『ジョナサン』と叫べ! JO―73部隊の勇気を示せ! 速く、高く飛び、『ジョナサン』と叫んで、はるか高みを目指すのだ!」


 チキンタッタは、崖下を覗き、ふらつく自分を感じた。ゾクゾクして、寒気がした。熱が上がったようだと思った。


「コケッコッ、はい! チキンカツ隊長!」


 バッとチキンタッタは片羽根を上げた。


「なんだね。チキンタッタ隊員」


「自分は体調が悪化したようです。コッコッ、ここは成功率を上げるためにも、コケッコ、全員で飛び降りることを提案いたします。コッコケッ」


「ん? ふむ」


 咳き込むチキンタッタを見て、隊長は考える素振りを見せた。

 一羽だけでは、逝かないとチキンタッタは決意していた。嵌めたやつらも道連れだ。


「よし、そうしよう!」


 隊長は頷いた。



──10羽は崖の端に並んで立っていた。皆でブルブルと震えていた。


「どうした!? ビビるな! それでも栄えあるチキン部隊かあ! さっさと飛べー!」


 後で偉そうに怒鳴る隊長を、振り返って全員で見る。隊員達の心が一つになった。


──死なば、もろとも!


「な、なに!?」


 皆でワーッと隊長を取り囲んで抱えると、一斉に飛び降りた。


 11羽は揃って叫んだ。


「ナムサン!!!」



──軍の空撃部隊養成案は、取り下げられた。特別訓練を課せられたJO―73部隊は、解散・消滅した。



 崖から頭から落ちていった『身投(37)げでオジャ(OJ)ン』部隊は伝説になった。



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