☆05話 メイドって……。
一瞬、暗くなった意識がはっきりすると、まわりを見渡しました。
「やま?」
辺りには、木々が鬱蒼と繁っています。どう見ても山です。それも山奥のような……。
生い茂る木々や茂みの間にわずかに隙間が見えます。足元を見れば、誰かが通ったような道のようなものがあります。
――けもの道か? なんだこれ。こんなとこに家なんてあるのか?
──ありました。
茂みを掻き分けて進んだ先に、立派な屋敷と呼べるものがありました。
高い塀にぐるりと囲まれた、洋館です。
正面には鉄製の細い棒で組まれた両開きの門がありました。
天辺が矢尻のような形になった、背の高い門です。
近づくと触りもしないのに、自然に中の方へ両開きの門がギギーッと音を立てて開きました。
ゲッと思いましたが、中に入ります。門から屋敷まで、それなりに距離があるようです。サクサク歩きます。
屋敷の正面に着きました。
大きな洋館です。くすんだ緑の屋根の上に何羽も烏がとまって、カアカア鳴いています。所々濃淡のあるベージュの煉瓦の壁には蔦が這っています。全体的になんか薄暗い感じ? 年代を感じさせる建物です。
――フフッ、いい味出してるじゃないか。
玄関ポーチも上にバルコニーみたいなものがついた、四本の柱のある豪華なものです。
重厚な木の扉の前には大小の二つの人影……。近づくにつれ、嫌な予感がしてきます。
――ああ、見たくない……。
「「ご主人様ようこそいらっしゃいました」」
嗄れた声と野太い声が響きます。
片足を引き、膝を曲げて深く頭を下げるカーテシーを見せた二つの影。黒の膝下のワンピースに、フリルのついた白いエプロンと頭にはホワイトブリム──メイドのお仕着せを身にまとう何かがいます。
「本日よりお仕えさせていただきます。どうぞミィとお呼び下さいませ」
嗄れた声の小さい方がそう声をかけてきました。
――あははっ、ドワーフって、幼女のようなのかな~なんて思ってたよ。
茶の髪をアップにまとめ、天辺で二握り位の流線形の固まった髪を立てているのは、小さいおばさんでした。
――うんうん、年取った個体だって、いて当然だよ。いやだな。ピチピチの若い女の子がくるって思い込んでたよ。
「今日から、仕えさせていただくだ。オラのことはリラと呼んでくだせえですだ」
続けて野太い声が響きます。
――エヘヘッ、獣人って、猫耳の子かな~なんて思ってたよ。
がたいのいい、黒の短髪。顎からもみあげまで黒い毛を生やしているのは、鼻腔の大きなゴリラです。山奥から出てきたゴリラです。
――うんうん、いろんな種類がいて、当たり前だよ。いやだな。キャピキャピの可愛い女の子がくるって思い込んでたよ。
「あははっ、よろしくね」
ニコニコと頷いてみせました。何かのショックを受けたようでフワフワとした心地がします。
「ところでさ、国のことは聞いてる? わたしの国があるはずなんだけど……」
ああ、聞いてはいけないと思いつつ、聞かずにはいられないマタゼロ。
「この山全部がご主人様のもので、国でございます。女神様のお力が満ちたこの山は動植物に恵まれ、まさに自然の宝庫でございます。近くには河や湖もあり水資源にも恵まれ、少し行けば海も臨めます」
「へぇ~、山かあ。いいねぇ。いい国だ。ところで国民は?」
おばさんの流暢な説明に満足そうに相づちを打った後、聞いてはいけないと思いつつ、また聞かずにはいられないマタゼロ。
「人はいませんだ。でも、動物は多く住んでますだよ」
ゴリラの言葉を聞いて、後ろを振り返りました。
門と塀の向こうには鬱蒼と繁る木々。視線を上に向けます。目に映ったのは雲一つない青空……。
──国破れて山河あり……。野生の王国……。
――アハハッ、国の夢、破れちゃったよ。山だってさ! アハハッ、人住んでねぇ。動物がいっぱいだってさ!
ああ、何だか空の青さが目に沁みてきます。
「ご主人様? 屋敷の中をご案内しようと思うのですが……」
嗄れた声をかけられ、ハッとそちらを向きます。
――そうだよ。そう、まだエルフには会っていない。なぜかこの場にはいないけど、歓迎の準備でもしているのかな?
たぶん、99%ダメだろうけど、一縷の望みをエルフメイドにかけます。
「どうぞですだ」
ゴリラが扉を開けます。壊すなよと心の中だけで呟いて、屋敷の中に足を運びました。
★国破れて山河あり──「國破山河在」杜甫の律詩では、国家は崩壊してしまったが、山や河は変わらない、というような意味です。
ここでは、違う意味で使ってます。
★カーテシー ──斜め後ろに片方の足を引き、もう片方の足の膝を曲げ背すじを伸ばしてする挨拶。西洋の王族の女性とかがよくしています。ちなみにイギリスのエリザベス女王はされる側。
え? ハーレム? m(_ _)m
☆チキンカオスワールド☆
JO―73部隊の隊員達は、隊長の言葉に青ざめていた。
「どうした? 何か言いたいやつは前に出ろ!」
隊長の叫びとともに、チキンタッタは後ろに下がった。条件反射のようにザアアッと後退りした。もう、二度と同じ手には嵌まらないと固い決意をしていた。
「はい! 我々の胸筋は羽ばたくには、すでに退化していると思われます。羽根や体の大きさ、体重などを考えると、崖から飛び降りるのは、大変危険な行いだと思います」
今回はうまくかわしたと喜ぶ前に、自分だけが後ろに下がっている事に、チキンタッタは気づいた。前に出てチキンクリスプが、片羽根を上げて堂々と意見を言っている。恥ずかしさに鼻水を垂らしながら、列に戻った。
「何を言う。だからこその特別訓練なのだ。極限状態で奇跡を起こすのだ。普通の事をしていたら、飛べるものも飛べないだろうが!」
皆で思った。
──飛べないものは、飛べないんじゃね?
「この部隊に臆病者はいないはずだ! 最初に飛びたいやつは前に出ろ!」
臆病者ばかりの隊員達は、ザッと後ろに下がった。
列に戻ったばかりのチキンタッタは出遅れた。
「よく、志願した。偉いぞ、チキンタッタ隊員! よし、死ぬ気で飛び降りろ!」
慌てて回りを見渡して、また嵌められた自分を知る。
「ココッコケッココッコケー!」
悔しさに風邪が悪化した。
本当に死ぬ気で、飛び降りることになるだろう。
啜る鼻水の冷たさに、世の冷たさを知る──バイ・チキンタッタ




