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穴に向かって叫ぶ!  作者: マタゼロ
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☆34話 鐘の音を聞きました

 


「まあ、これはあまり人に見せないようにした方がいいでしょう。いいお品ですから、もう少し警戒した方がいいですね」


 不気味笑いを浮かべたミィが、動けないでいるこちらの手から、鐘時計をとって女の子に返します。


「うん、お父さんにも見せないようにって言われてるの。でも、世界で一つだっていう、鐘時計を見せてもらったし、お客さんなら大丈夫だって思ったし、見せたくなっちゃったの」


 ミィから鐘時計を受け取った女の子が、恥ずかしそうにそう言いながら、元のように鐘時計を首にかけて服の中にしまいます。


「まあ、この顔には警戒しにくいですかね? 変な顔で変な格好の変な人なんですけどね」


 ミィの呆れたような声でハッとします。


「あ、いい物を見せてくれてありがとう」


 ミィの不気味笑いに萎縮していましたが、慌ててお礼を言いました。見せてくれたおかげで、こちらの世界の鐘時計がどんな物か分かりました。


「ううん、こっちも珍しい物を見せてもらったから……えーと、あそこの板で階段をふさげるようになってます」


 ブンブンと首を振った後、女の子は階段の手すりに立てられた四角い木の板を指差します。接客モードになったようです。


「寝る時とかは閉めて下さい。一応止め金で板を止められるけど、部屋から出る時は、貴重品は置かないようにしてください」


 女の子の言葉に、『ん?』と思います。出てから止めても、意味がないような気がします。


「鍵はないと思った方がいい、お部屋ですね。さすがやっすいお部屋です」


 ミィが頷いています。


「えと、このお部屋はまだ、あまりお金のない『ぺーぺー』の人とかが泊まれるようにって、お父さんが改造したサービス部屋なの。昨日までふさがってた、けっこう人気のあるお部屋?」


 説明しながら、女の子は最後は首を傾げます。


 もう一度ぐるりと部屋を見てみました。けっこう広いし、清潔そうです。値段も安いし、寝る時にちゃんと板ででも閉められるなら、留守の時に鍵がなくても、貴重品は持って出れば問題ありません。


「そうだね。人気のある部屋だと思うな」


「うん!」


 女の子が嬉しそうに元気よく頷きます。笑顔で女の子と見つめ合います。


「何か不思議なことが起きている気がしますが、わたしはそろそろお屋敷の方に戻ろうと思います」


 女の子との間にグイッと身をのり出してきたミィが、ほのぼのとした雰囲気を壊しました。


「あ、わたしも戻らなくちゃ。何かご用事がありましたら、1階にいるので気楽に声をかけてください」


 ミィの言葉にハッとしたように女の子が表情を引き締めて、そう言ってきます。


「では、失礼します。明日の朝お迎えにあがりますので」


「あ、ああ」


 ミィがきれいな礼をして、階段を降りていきます。


「じゃあ、失礼します。うちの料理は美味しいから、楽しみにしててね」


「ああ」


 ちょこんとお辞儀して、女の子も部屋から去りました。


 去り際の挨拶への返事は、簡単なものになってしまいました。


 ――だってね。寂しいでしょ。でも、もうちょっとそばにいてよ、とか言えないでしょ。


 声に寂しい気持ちがでないように、何だかおざなりな返事になってしまいました。


 異世界に一人でいることが寂しく感じるのは、色々見て回ったせいかもしれません。本当に違う世界にいるんだと実感したせいだと思います。異世界にたった一人で、放り出されたような心細さです。


 ――まあ、昨日は色んなことがひどくて、そんなことを思ってる暇がなかった?


 一人になった部屋で、小さな丸テーブルに近づくと腰かけます。収納から貰った鐘時計を取り出して、もう一度よく見ました。

 針は上の方に移動して、6つ目の区切りに入っています。


 ――これ、ベルトがついてるし、腕時計なんだよな? でも外せない防具ついちゃってるよな


 左腕のリストバンドのような防具を見ると、急に緩んだ感じになった防具が、場所をあけるように、手首からスッと移動しました。腕時計分の隙間ができました。


 目を見開いて防具を見ます。タラリと額から汗がにじむような、不気味さを感じます。ミィの笑いとはまた違う不気味さです。


 ――いや、待て! ここは異世界だ。元の世界の常識で考えてはいけないんだ。


 メイド達の顔、ジュリアスくん、クロディーネちゃん、最後に女神様の顔が頭の中をよぎります。


 ――変なのいっぱいいるんだ。魔法なんかもある。変なことは普通なんだ。驚くな!


 気が楽になりました。


 さっそく、空いた手首の隙間に鐘時計をつけてみます。いい感じです。違和感はありません。


 腕を持ち上げて、振ったり、手首を返して色んな角度から見てみます。さすが神仕様、軽くてつけてるのを忘れそうなつけ心地です。


 しばらく、腕につけた時計を見た後、腕を降ろして、これからどうしようかと考えます。勧められた夕食までには、まだ時間があります。

 夕食は楽しみですが、たくさん串焼きを食べたので、食べられる時間になってすぐ行っても、お腹が空いていないような気がします。


 ――そう言えば、明日は迷宮に行くんだよな。迷宮のこととか、調べた方がいいんじゃないか?


 そうです。迷宮に行くことになっているのに、何も調べていませんでした。ミィもこちらに任せるような事を言っていたし、調べてから行くのはお約束でしょう。


 ――調べるとすると、冒険者ギルド? それとも図書館みたいなところがあるのか?


 うーんと首を傾げると、突然〈カーン〉と金属を叩いたような音が聞こえました。澄んだ高い音です。ギョッとしてあたりを見渡します。

 音が消えかかったところでまた〈カーン〉と聞こえます。どうやら外から聞こえるようで、三角の壁の窓に近寄ると、両開きの窓を外へ開け放ちました。

 2度目に鳴った音が、あたり一帯に響いて、小さくなって消えていくところでまた、〈カーン〉と高い音がしました。


 分かりました。これが鐘の音です。開け放した窓から、通りの様子が見えました。


 服から四角い板みたいな物を出して、見ている人がいます。立ち止まって、音を聞いているような人もいますが、ほとんどの人が慣れた様子で気にしないで歩いています。

 人々の様子で、この世界ではあたり前のことだと見当がつきました。


 また、〈カーン〉と鳴りました。4つ目の音が鳴り響いて、消えたところで腕につけた時計を見ます。針は真上で、文字盤の数字は4になっていました。丸小窓の数字は16に変わっています。


 中鐘4の音、午後4時と時計の見方に確信が持てました。


 ――あんれー? 今まで鐘の音なんて聞こえてなかったぞ


 あの山奥にいる時は、聞こえてなかったとしても納得できます。でも、今日はこの国で過ごしています。

 こんなふうに聞こえるものなら、今まで聞こえていなかったのが不思議です。急に聞こえるようになった鐘の音に首を傾げます。


 ――異世界不思議聴覚? 女神様からの手紙読んだから? 鐘時計つけたから? 


 いくつか、考えてはみましたが、深く考えるのはやめます。まともな答えが返ってくるか不安ですが、後でミィに聞いてみようと思いました。

 今考えても答えが分かるはずもありません。


 急に聞こえるようになった鐘の音を、怪訝に思いながらも、今必要だと思える迷宮の情報を得ることに考えを移します。


 ――今は、明日の迷宮のことを考えるべきだよな。どこで分かるんだ?


 少し考えて、やっぱり冒険者ギルドに行くことにしました。まだ、格好は変えてませんが構わないでしょう。もう、一度戻って恥はかいてます。迷宮の情報を知るためなら、一度の恥も二度の恥もおんなじです。

 『違うだろ!』という幻のツッコミは聞こえません。


 そうと決まればさっそく行動です。

 階段を降りました。







 冒険者ギルドの扉を開けて、中に入ります。

 宿屋を出る時に、カウンターの虎耳ヤロウと目が合ったので、『ちょっと、冒険者ギルドに行ってくるね~』と声をかけて、気持ち悪い返事をきく前に急ぎ足で宿屋は出ました。


 今日、三度目の冒険者ギルドでまた注目を浴びます。中の人達が入れ替わってるのでしょう。また、何か言ってる人達がいますが、二度目の時にスルースキルを手に入れています。相手にしません!


 奥の受付カウンターの方を見ると、どの窓口も人が並んでいます。


 最初に話した女の子のところ──サトリンちゃんですね。──は、5人並んでいます。お胸目当てのヤロウどもでしょう。

 他の窓口も人がいますが、今度は銀髪エルフのスレンダー美女の窓口にサッと並びました。


 前は3人……本物のエルフ美女とお話ししたいです。可愛い女性声を聞いて、うちのメイドがみせる悪夢から覚めたい気分です。


 ソワソワしながら並んでいると、ポンと肩を叩かれました。


「また、来たのか? 依頼を受けるのか?」


 振り向くと、ガチムチのオッサンでした。


「いや、迷宮の情報がほしくて……」


「講習を受けるのか?」


 オッサンの問いに頷きます。


「そうか、なら資料室まで案内してやろう」


 ガシッと肩を掴まれました。『ギャア』と思います。


「い、いや、受付の……」


「遠慮するな」


 『女の子に聞きたい』と言う前に、列から引きずり出されました。


 入り口から左側の階段の上は、食堂らしいですが、オッサンに右側の階段まで連れて来られました。


「この上に資料室があるんだ」


「そう……」


 またオッサンに、可愛い女性と話す機会を奪われました。


 親切でしているつもりのオッサンには、分からないこのやるせなさ、ガッカリ感……。親切心だと思うと苦情は言えません。言いたいけど、言えません。


 『よけいな親切はいらねー!美女と話させろ!』と、おのれの下心を堂々と叫ぶわけにはいきません。


 そう、自分の人間性を貶めるであろう本音を言ってはいけない。

──そのくらいの常識はありました。



 

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