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穴に向かって叫ぶ!  作者: マタゼロ
33/38

☆33話 世界でただ一つ

 


 踊りたくなる気持ちを押さえて、グシャグシャになった紙を収納に放りこみました。口もとをピクピクさせながら、今度は黒い固まりをよく見ます。


 薄くて円形の黒い金属に、黒い皮ベルトのついた腕時計のような物です。


 金属には黄緑色の丸い文字盤があり、中央に異世界文字の3の数字が描かれています。

 文字盤の回りは6本の短い細い線で6つに区切られて、数字の中心から出た時計の針のような物が一本、3の下の縦線あたりを指しています。

 3の数字の右側に丸い小窓のような物があり、元の世界の【15】の数字があります。そのすぐ下にも細長い小窓があって【ゴゴーネ・5・28】の異世界文字と数字があります。


 これは何でしょうか? 考えます。


 ――時計の魔道具なんだよね? この真ん中にある数字が鳴った鐘の数として、文字盤の色は黄緑だから、今は昼鐘、いや、中鐘か。確かに元の世界では、昼と言うには苦しい時間帯だからな。中鐘の3の音の時だよーってことだよね。

 で、この脇の小窓にある【15】ってのは、あっちの時間でわかるようにしてくれるとかあったから、15時ってことで、午後3時? 

 あっちの時計と同じように、一つの区切りが10分で、6つに区切られてるのは60分? 

 いや、元の世界の時間と同じように考えられるように、6つに区切ってあるだけで、同じとは限らないよな。


 まだ、一度見ただけではよく分かりません。6区切りになってますが、こっちとあっちで同じ時間感覚かもわからないし、どんなふうに動いたり、変わったりするのか、もう少し見る必要があるでしょう。


 ――この『ゴゴーネ』が13柱いるとかいう女神の名前で、5の月の女神名だな。『5・28』は5月28日ってことで、ひと月は28日だから、今日は5月の最後の日か。


「今日は何曜日なんだ?」


 曜日が見あたらないので、ミィの方を向いて尋ねます。


「ドビーです」

「ドビーよ」


 ミィと一緒に側にいた女の子も答えてくれました。一度聞いてしまえば、7日が4回でひと月が28日なら、曜日の順番はずっと変わりません。必要ないのでこの魔道具にはついてないのだと分かりました。


「あの、それはなあに?」


 ピクピクと耳を動かしながら、虎耳少女がすぐそばまできて、手元の魔道具を覗いてきます。


「ああ、これは時計……鐘の音をひろう魔道具だね。時間を教えてくれるやつ?」


 これを何と呼んでいいのか分からないので、首を傾げながら答えます。


「『鐘時計』? 面白い形をしているね」


 同じく首を傾げながら言った女の子の言葉に、瞬きします。


 決まりました。この魔道具は『鐘時計』です。異世界不思議翻訳が女の子の言ったことをそう訳しました。

 あちらでは砂で時を計る物が砂時計と呼ばれています。鐘で時を計る物が『鐘時計』──単純です。分かりやすくていいと思います。


「あの、よく見せてもらってもいい?」


 下から見上げるようにそう聞かれて、すぐに手に持った魔道具を女の子に差し出しました。

 小さな手の平がひろげられます。その上に神仕様の『鐘時計』を載せてあげました。


「ゆっくり見ていいよ」


 自分でも気持ち悪いほど、優しい声がでました。


 ――だって、だって、可愛いんだもん。うちのメイド、誰も可愛くないだろ。黒ネコ見ため可愛いけど、こっちの扱い最悪だろ。

 ギルドでも、喜んだのはつかの間で、ガチムチのオッサンだろ。癒される可愛い女の子には優しくしたいよね。


 大きな目が好奇心で輝いています。ピクピク動く耳、揺れるしっぽ──魔道具をひっくり返したり、色々な角度から見ている姿に癒されます。じゃれる子猫を微笑ましく見つめる気分です。


「あの、ありがとう」


 しばらく眺めて満足したらしく、女の子が頬をうっすら染めて、恥ずかしそうにお礼を言ってきます。

 まだ見ててもよかったのにと少し残念に思いながら、お礼とともに返された魔道具を受け取りました。とりあえず、収納にしまっておきます。


「丸い『鐘時計』なんて初めて見たから、ついよく見ちゃったの。よその国ではよくあるものなの?」


 女の子がまた小首を傾げて可愛い声で可愛らしく尋ねてきました。


「いえ、この世界で一つだけです。アホウ専用の『アホウ鐘時計』ですね」


 答えようと口を開いたところで、嗄れた可愛くない声が代わりに答えました。

 出たな、妖怪! とミィを見ます。見たくないけど、見ます。


「おい! 変なことは言うな! ただの『鐘時計』だろ。ちょっーと特別仕様らしいけど」


 ちゃんと訂正しないと、この子まで変なふうになってしまいます。ギルドでの、あの店での、一連のやり取りが頭をよぎります。


「えと、珍しい形だけど、『鐘時計』なのは分かったよ? 『アホウ鐘時計』なんて面白いことを言うね、オバサン(・・・・)


 女の子がクスクスと鈴を転がしたような、高い可愛い声で笑います。ミィの目が大きく見開かれるのが、目に映りました。


「そっか、世界で一つだけの物を見せてもらったなんて、すごいなあ」


 笑い終わった女の子が目をキラキラさせます。


 すごいです。『アホウ鐘時計』にはなりませんでした。無邪気な女の子はミィの悪意を弾きました。

 悪意のない、事実そのままの『オバサン』呼び──ミィの驚く顔を見させてもらいました。


「あのね、これも世界で一つだけだと思うの。お父さんが迷宮の宝箱から、見つけた物で作ってくれた『鐘時計』なんだよ」


 女の子はそう言って、胸元から細長い板がついたペンダントを取り出すと、外してこちらに差し出してきました。

 外から見えないように中にしまってあったようです。受け取るとひんやりとした金属の感触がしました。


 ギルドカードより小さい、赤くて金のように輝く細長い板です。なんだか陽炎のような物がユラユラとまとわりついているような気がします。

 短い方に鎖を通す金具がついていて、細い白金の鎖がついていました。


 長い方の線にそって、上下に数字があります。

 片方は小さな青い石で1から8までの数字が出来ています。もう片方は小さな緑の石で、逆向きで逆の順番で数字が並んでいます。


 中央付近にある、両端に小粒の赤い石がついている時計の針のような物は、青い数字の3と4の間、緑の数字の5と6の間あたりにあります。

 文字盤は黄緑です。キラキラとした透明な石で作られた、花のような模様がある文字盤です。

 先ほど見た、もらった『鐘時計』のことを考えると、この場合は青い数字を見るのでしょう。8までいったら、上下逆向きに見るのだと思います。


「これは文字盤の色が変わるの?」


「うん、普通変わるよね? 女神様が定められた文字盤の色になるのはあたり前だと思ってたけど……お客さんのところは違うの?」


 質問したら、訝しげに見られてしまいました。


「これはみごとなお品ですね。『ヒヒイロカネ』にサファイア、エメラルド、ルビー、ダイヤが贅沢に使われていて、とても精巧な作りです。これも世界に一つのお品と言えるでしょう」


 どう答えようかと思ったとたんに、手元を覗いてきたミィが感心したように声をかけてきました。


「そう、そうだよね!さすがドワーフのオバサンだね。これが『ヒヒイロカネ』だってわかったんだあ」


 女の子が嬉しそうに声をあげます。ミィの眉がピクリと動きます。


「お父さんがね、迷宮で手に入れた『ヒヒイロカネ』で作ってくれたの。

 頼んだドワーフの時計職人さんは若い人だったんだけど、安いお金でも、とっても丁寧に作ってくれてね。こんなにいい物になったの。

 これも一つだけの物だよね! オバサンすごい! 見る目のあるオバサンだよね! オバサンの中のオバサンだよ!」


 女の子はパンパンと手を叩いてはしゃいでいます。褒められてとても嬉しかったのが伝わってきます。

 ミィの口もとが細かく痙攣しています。言葉にできない何かが伝わってきます。


 世の中には、本当にオバサンでも、『オバサン』と呼ばれて気にしないタイプと、気にするタイプがいることをマタゼロは知っています。ミィの様子を見るとミィは後者でしょう。


――さっきは庇ってくれたのかな。うっかりな質問したから、ごまかしてくれたんだよね?


 ミィにまずい質問をフォローされたような気がします。ここは今までのことは一旦おいて、ミィにフォローのお返しをするべきでしょう。


「ミィ、『オバサンの中のオバサン』は褒め言葉だ。オバサンの頂点だ。世界でただ一人のオバサンだ」

 ニッコリ笑顔でミィに声をかけます。


「ほほう、面白いことをおっしゃる」


 ミィが不気味笑いを浮かべてこちらを見ます。ゾクゾクと寒気のようなものが背すじに走りました。



 ──フォロー、しない方がよかったかもしれません。




★ヒヒイロカネ──緋色で金のように輝く。陽炎のようなものがたつ(?)、錆びない。加工するとすごく固くなる。日本古代には本当にあったような記述があるような……。よく、ファンタジーで出てくる金属。

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