☆32話 一瞬、目の前が暗くなりました
〈修正報告〉
・02話04話は大幅修正しました。マタゼロの名前由来など、主人公らしく……なったかどうかは分かりませんが、セリフなどを変えました。
・ギルドカードランク白金カードは『めちゃすごい』→『ちょうすごい』に変えました。お店で買い物していたら、なぜかスーパーとひらめき、『ちょう』に変えたくなりました。
・独白のような部分には、前に〈――〉を入れることにしました。
・他にチョコチョコ細かい修正、加筆はしていますが、話の流れには支障はないと思います。
「ご主人様、ここでございます」
先導していたミィが立ち止まって、ピシッと通り沿いにたっている建物を指差しました。二階建ての石と木で出来た建物です。壁は白い石、屋根や扉などは飴色の木です。
大きな一枚扉は外側に開かれていて、中の様子が窺えます。四角い木製テーブルが何台かあり、何人かが食事をとっているのが、見えました。
扉の上部には『マールハイイッコ』の看板があり、名前の脇に丸が一つ描いてありますが、どうやら、食堂も兼ねた宿屋のようです。
初めての異世界宿屋、食堂──ミィの案内じゃなければ、もっと希望に満ちていたのに……と思いながら扉に向かいます。
外側に開いた扉には『本日のおすすめ・コッコケタのミルクシチュー、オーク肉団子とサラダのセット・パン、飲み物つき──600ゼニア』と書いてある紙が貼ってありました。
チラッと紙を読んで、まともな食べ物を出すところらしいと少し安心します。
オーク肉団子はちょっとあやしい気がしますが、まあ、異世界の定番でしょう。
建物の中に入ると奥にカウンターのような物が見えました。
――ああ、やっぱり……。
カウンターにいる人物を見て、目の前が一瞬暗くなり、目がしらが熱を持ちます。うるうると目が潤みそうになりながら、カウンターに近づきました。
「いらっしゃいませ。宿泊かしら?」
高い作り声でそう尋ねられて『ギャア』と叫びたくなりました。
「はい、こちらのご主人様がお泊まりになられます。やっすい部屋をお願いします」
叫ぶ一歩手前で口を開けていると、ミィが脇から代わりに答えます。安い部屋がいいと思ってたのがわかったようです。
「あら、やっすい部屋ね? 二名様用のお安い部屋は空いていたかしら」
「いえ、一人用でお願いします。泊まるのはこちらのご主人様だけです」
ミィの言葉を聞いて驚きます。
「え? 泊まらないの?」
視線を下げて、脇に立つミィに聞きます。二人一緒の部屋は嫌ですが、一人部屋を二つ取って、てっきり一緒に泊まるものと思っていました。
「はい。お屋敷の方に戻ります。明日は迷宮に行かれるんですよね? 下準備をして、明日の朝、こちらにお迎えにあがります」
「そ、そうか」
お願い、一人にしないで! と言いたくなるのを堪えます。あんなに信用ならないと思っていたのに、一人にされるとなると心細く感じるなんて不思議です。
余計なことをするミィと離れられて、ここは喜ぶべきなのに、寂しいなんて複雑です。
――こんなものを心の支えに? あり得ないだろ。大丈夫か、自分。おかしいぞ~! 心を強く、強くするんだ!
「え~と、お一人様用のお安い部屋ね? ちょうどいいお部屋が空いてるけど、お食事はつける?」
虎耳のヤロウにそう高い声をかけられて、ヘラヘラの心が悲鳴を上げます。まったく強くなる気がしません!
――きっと変なのいると覚悟はしていたけど、うちのメイドとは違う、迫力のある顔でこのしゃべり方──若いのか? これ、看板娘?
「お部屋代は3500ゼニア、夕食と朝食を付けると4500ゼニアになるわ。どうします?」
虎耳ヤロウの顔に目をやられ、高い作り声に耳をやられ、心が萎えます。
ショボショボ~、グワングワン~、シオシオ~。
──変な音の攻撃にあっている気分です。よろめきそうです。
「あのね、お食事はつけた方がお得だと思う」
脱力していると、ミィがいるのとは逆側から可愛い声がしました。
見ると、桃色のワンピースに白いエプロンをした小さな女の子が、こちらを見上げていました。
まだ、10歳前後のような子どもです。
「うちのお母さんが作る料理は美味しいのよ。量もあるし、別のところで食べるよりいいと思う」
頭の虎耳がピクピクと動きます。しっぽが、左右に振られています。パッチリとした丸い大きな目に、期待をこめたように見つめられて、すぐに頷きました。
「食事つきでお願いします」
虎耳ヤロウに元気よく言います。
ちょっと、思っていたのとは違いますが、この子が看板娘だとすぐに思いました。
これは可愛いです。癒されます。うちのメイドとは違う、見た目の可愛らしい獣人の少女です。
エプロン姿──この位の歳で家のお手伝いをしているなんて、なんて偉いのでしょうか。
可愛い女の子に癒されて、萎れた心が復活しました。
――よかった~。よかったよ。変な作り声の虎耳ヤロウが看板娘じゃなくて……。色っぽくなくていいよ。期待してたのとは違うけど、変なのじゃなくて、ちゃんと可愛らしい女の子がいたよ~。
「はい。お食事つきね。先にお代をいただいてもいいしら?」
虎耳ヤロウに言われて、収納から袋を取り出すとお金を渡しました。
一瞬、目をすがめてこちらを見ましたが、すぐに迫力ある顔が綻びます。
「はい、ありがとうございます。確かにお代はいただいたわ」
笑顔らしきものを浮かべてお金を受け取った虎耳ヤロウは、そう言っただけで名前も聞いてこないし、部屋の鍵も渡してきません。
不思議に思っていると、虎耳ヤロウは女の子の方を見ました。
「ラトミ、お客さんをお部屋に案内してくれる?」
「はい、お父さん」
虎耳ヤロウに声をかけられた女の子が頷きます。
女の子の返事に耳を疑いました。
――この高い作り声の虎耳ヤロウが″お父さん″……。子どもがいるってことは、こんな顔でこんなしゃべり方で結婚できたのか? 同じ虎獣人は虎獣人だけど、この顔でこんな可愛い子ができたのか? 奥さんて、もしかして美人?
「じゃあ、案内します。ついてきてください」
虎耳少女に可愛く見上げられて、嫉妬まじりにグルグルと考えるのを一旦止めます。
目が合うと女の子は先に立って歩き始めました。
「あの戸から、中庭に出られます。庭に井戸やお風呂小屋があるので、使いたい場合はあそこから庭に出てください。庭に出ればすぐわかるし、いつでも使えるようになってます」
階段に近づくと、階段脇の奥の壁にある戸を女の子が指差します。頷いてみせると女の子は階段を昇りました。
階段を上がると細長い廊下が見えました。廊下沿いに部屋の扉が並んでいましたが、女の子はすべて通りすぎると奥にある狭い傾斜のある階段を昇ります。
女の子の後について昇ると、すぐに開けた空間が目に入りました。10畳くらいの部屋です。
「ここです」
階段を昇りきって部屋の床に立つと、女の子がそう声をかけてきました。回りをぐるりと見渡します。
ベッドに棚、クローゼットのような物もあります。小さな丸テーブルと椅子が一脚置いてあります。
傾斜のある天井──三角形の壁にガラス窓がついています。
すぐに屋根裏部屋だと分かりました。
「天井が斜めになってるから、低いところで頭をぶつけないように注意してくださいね」
女の子がニコッと笑って、言葉をかけてきます。
「夕食は中鐘の5の音から8の音までに、朝食は朝鐘の1の音から6の音までに一階の食堂で食べてください」
続けて言われた言葉に目を見張ります。この世界の時間の言い方をよく分かっていませんでした。
そう言えば、鐘の音をひろう魔道具があるとか何とか、ミィが言っていた気がします。
目の前が暗く陰りました。
「ご主人様」
一瞬だったので、暗くなったのは気のせいかと思っていると、ここまでついてきていたミィが、近寄ってきました。
「これをどうぞ」
ミィが黒い固まりと紙を一枚差し出してきます。
「なんだ?」
受け取ってよく見ると、紙には文字が書かれています。
【はーい、女神です。元気でやってるようですね。
この世界の時間でお悩みのあなたへ
1日は24鐘──1回から8回までの鐘が鳴る時間帯が3つある。
・朝鐘──あちらの世界でいう午前5時から正午まで。
(朝鐘1の音は、あちらの午前5時のこと、6の音は午前10時のこと。
正午から次の鐘が鳴るまでの間は、朝鐘の時間帯になる。昼鐘夜鐘、夜鐘朝鐘の間も同様に前の時間帯)
・昼鐘──午後1時から午後8時まで。
(昼鐘は一般的には中鐘と呼ばれることが多い。中鐘5の音は午後5時のこと。8の音は午後8時のこと)
・夜鐘──午後9時から午前4時まで。
朝、昼、夜と鳴る鐘の音は違います。どの時間帯も鳴るのは8回までです。
一桁越えたら、数えるのが大変です。24回も鳴ったら、8回でもあやしいのに、絶対、数え間違える人が出ます。鳴りすぎてうるさいです。
それ以前に、誰が24回までボウッと鐘の音を数えると思いますか? 鳴らす方も聞く方も苦労します。今の8回まででも微妙です。
そんなわけで、この世界には鐘の音をひろって『今、○回鳴ったよー!』と分かる魔道具があります。
あなたには、元の世界の時間だったら何時かと分かる特別仕様の魔道具を渡します。
文字盤の色が変わるので、朝、昼、夜の区別をつけてください。
朝鐘──薄紅
昼鐘(中鐘)──黄緑
夜鐘──灰色
中央数字が鳴った鐘の音の数。
右側の丸の中の数字が、あちらの世界の時間ならこの時間かなという数字。
右側下の長四角は月の女神名、月、日。
あなたに直接干渉する気はないので、あなたの可愛いメイドに連絡しました。
『時間? どうしよう』と悩んでいたあなたに手をさしのべ、アホにも分かるような説明を書く、とても親切な女神ですよね? いくらでも感謝してください。
あなたを見守る綺麗で優しい女神より】
一瞬、目の前が暗くなったのは気のせいではなかったようです。
可愛いメイドとは、異世界の女神様の独自基準ですね。冗談かもしれません。
どう見ても可愛くないミィに、女神様は連絡したのでしょう。
手の中でグシャリと読んだ紙が音をたてます。
――アホにも分かる? 親切?
──何だか床を鳴らして、バタバタと激しい動きのタップダンスを踊りたくなりました。
更新が遅くてすみません。今日は三話、投稿します。
小説の書き方ルールがあると知った時は、知らなくて『ギャア』と思いましたが、何だかラノベ、ネット小説はけっこう自由に書いてもよさそうなのが分かりました。
でも、!、?のスペース入れ、「」前スペース削除は手をつけたので、少しづつでも直して統一しようと思います。
それと、長編になってくると、やはりいい加減設定では苦しくなりますね。もう少ししっかりした設定が必要になってきました。
まあ、魔法、スキル、女神の世界なら、矛盾がでても、最後は力わざで押しきれそうですが……。(ハッ、すでにそんな感じになってる!?)
長編になってくると、合う合わないが大きくなってきますよね。最後まで読めるような話がかければいいんですが、ダメな場合は無理しないでください。楽しく読める話を読んでください。(読み専でしたからねー。楽しく読める、大切です)
ゆっくり更新ですみませんが、完結までがんばります。




