☆30話 よ~く選んで食べます
オバアサンさんにお別れの挨拶をして、お店を後にしました。
「ギルドの登録も終わり、装備なども揃えられましたが、これから、どうなさいますか。ご主人様」
隣を歩くミィに聞かれて、少し考えます。
異世界の食べ物、食べてみたいよね。定番の宿屋も泊まってみたいし、迷宮探索とかもしたいよな。
「えーと、こっちの食べ物を食べたり、こっちの宿屋とかに泊まってみたいんだけど。こっちに泊まって明日は迷宮とか、行ってみたいかな~、なんて、ハハ」
「分かりました。ではそのように、いたしましょう」
アッサリ許可というか、肯定されてポカンとします。何か言われるかと覚悟していたのにひょうし抜けです。
いえ、まだ油断してはいけません。ワナかもしれません。
「ほ、ほんとにいいのかな? 後で何か言わないか?」
「なぜ、わたしに確認を? ご主人様のご意向に従うのがメイドでございます」
殊勝な事を言っていますが、今までが今までです。ご意向に従っていたと言えるのでしょうか。
「では、王城通りのお店で何かご主人様の食べたい物を召し上がっていただいた後、宿を取りましょう。
そして明日は迷宮探索ですね。講習を受けられるのでしたら、銅級中型迷宮がよろしいでしょう。『ドンドロドン迷宮』と『デンデロデン迷宮』がありますが、『デンデロデン迷宮』の方が空いていると思います。
まあ、どちらの迷宮にするかはご主人様にお任せいたします」
ミィがまともな事を言っています。
「あのさ、明日雨とか雪が降っても迷宮探索とかはできるのかな?」
「雨や雪? 明日は晴れると思いますよ。雪は今の季節はありえませんね。まあ、多少天候が悪くても迷宮探索には支障はございません」
どうやら、急に天候がくずれても、迷宮探索は大丈夫なようです。
こちらの世界に来てから、そんなに経っていないのに、まともな態度をとられると不安になるなんて、いい関係が築けているようです。
ミィと王城通りに向かいます。冒険者ギルド本部の在った通りです。あの通りには色々食べ物屋がありました。
見覚えのある通りに出ました。はじめにきた時は、匂いだけで我慢した串焼きっぽい物を買いに走ります。
確かあの辺のあそこに~! おおう、あの店だあ!
走り方に力が入ります。
「急に走って、大丈夫でございますか、ご主人様」
こちらは全力で走っているのに、脇をミィが涼しい顔で歩いています。ただの早歩きのように見えるのが悔しいです。
いくら何でも、そこまで遅いわけがありません。変なのはあちらです。ミィの妖怪力と言うべきでしょう。
目的の店につきました。建物の壁にある大きな窓のようなところから、串焼きをオヤジが売っています。
細長いコンロのような物があって、そこで串焼きを焼ながら売っているようです。これは焼き鳥屋のようなものではないでしょうか。いい匂いが漂っています。並んでいる客の後ろに並びます。
客がはけて、近づくにつれて匂いも強くなってきます。これは肉です。焼肉の匂いです。お腹が匂いに刺激され、キュウと鳴りました。肉が焼けるジュウジュウという音も聞こえてきます。
順番がきました!
「へい、らっしゃい! 何本だい?」
一瞬、オヤジはこちらの格好を見て、目を見張りましたが、すぐに何でもないように元気よく聞いてきます。答えようと口を開こうとしたところで、ミィが脇から顔を出しました。
「2本お願いします」
驚きません。そんな事だと思いました。ずうずうしいミィ──明日は晴れでしょう。
「お、まいどー。ちっと待っててくれい」
オヤジが軽い口調で言って、ハケのような物で焼いている肉の表面にタレのような物を塗っていきます。大きな一枚肉が串に刺さっています。こ、これは贅沢なステーキ串です。両面にタレを塗るとオヤジがこちらを見てきます。
「2本で700ゼニアだよ」
サッと袋を取り出し、中から1銀貨を取り出して渡します。すぐにお釣りが返ってきたので、袋にしまって、また、収納にしまいます。
「ん? ……まいどー。ほいよ」
オヤジは不思議そうにお金をしまう様子を見た後、2本の串焼を差し出してきました。ミィと1本づつ受け取ります。
店の脇の方に、座れるベンチのような物があり、食べ終わった人が立ち上がって退くところでした。ミィと二人でベンチに座ります。
串焼きの大きな肉には食べやすいように、横に切れ目が入っています。肉とタレの焦げ目もいい感じです。焼きたてで、とっても美味しそうです。
「ありがとうございます、ご主人様。いただきます」
「いやいや。うん、美味しそうだ。いただきま~す。ガハッ」
大きく口を開けて、てっぺんから食らいついてのけ反りました。
熱! 熱いです~!
噛み千切った熱くてでかい固まりを、どうしていいか分かりません。吐き出すなんてもったいない事はできません!
身悶えて苦しみます。しばらく口の中の肉の熱さに耐える時間が続きました。
やっとそれなりの温度になった肉を飲み込むと、こちらを見るミィと目が合いました。
「なんと、お約束な……」
ポツリと呟いたミィの顔は、呆れ返っていました。
口の中をヤケドして、せっかくの串焼きの味が分からなくなったので、さっそく、あのお店で買った回復薬を試してみました。下級回復薬です。下級でも2000ゼニアもします。
すごい贅沢品ですが、味がわからない状態はいけません。何を食べても味がしないなどと、せっかく異世界のちゃんとした食べ物を食べられるのに、悲しすぎます。この場合はお金より味を優先させるべきでしょう。
スキルを使えばタダですが、あれは光って、こんな通りで使うと目立つので、仕方なく涙をのんで回復薬を使いました。回復薬は水に近く、ほのかな甘味と何か柑橘類の香りがわずかにします。飲みやすいように工夫してあるのでしょう。
小びんの回復薬をゴクゴクと飲み終わると、ミィと目が合いました。
「なんと、アホウな……」
ポツリと呟いたミィの目には、蔑みがありました。
確かにがっついて、ちょっぴり愚かだったかも知れませんが、人間は失敗から学ぶのです。ステーキ串は、何か醤油とは違う甘辛タレで、肉によくあった味付けでした。美味しくいただきました。
その後、買い漁った串焼きシリーズではもう、失敗しませんでした。焼きたてをフウフウと吹いてから、少しづつ口に入れる──がっつきません!
頭では分かっていても、懲りないとついついやってしまうということはあります。しっかり懲りました!
豚肉のような肉に辛い味噌が付いたようなもの、鶏肉のような肉に甘ダレのついたもの、ラムのような肉に塩胡椒と何かの香辛料が振ってあるものなど、何種類か目についた物を食べて、一番感動したのは、カレー味の焼鳥のような物でした!
細長い皿のような容器に入った焼鳥みたいな物に、カレーのような物がかかっていたのです──いや、あれはカレーでした。この世界にはカレーがあります。
串焼きを食べて分かりました。味噌、醤油などにすごく近い物があります。女神様には尋ねませんでしたが、この世界、他に日本人がいた可能性がものすごく高いです。
もしかしたら、今現在、他にもいるかも知れません。
あ、でも全然会いたいとは思いません。ギルドガードを額に立てて、全身緑タイツになる者が同郷人に会う? ありえませんね。
串焼きはだいたいの物は食べたので、次は粉物シリーズに挑戦して、異世界の食堂にも行ってみたいと思います。
どんな物があるか、とても楽しみです。この世界にしかない物とか、期待してしまいます。
「おー! すげーな、高級食材ばかりじゃないか」
大きな声がして、賑やかな人達が通りを歩いてきます。ガラガラと台車を引いています。
「ああ、今日は幻の食材と呼ばれる『〈ピーッ〉』や『〈ピーッ〉』や『〈ピーッ〉』が取れたんだ! ものすごく幸運だった」
嬉しそうにさけんだ男の声がよく聞き取れませんでした。
どうやら台車を引いてるのは、冒険者のパーティーのようです。
この通りには冒険者ギルドがあります。とった獲物を売りに行くのでしょう。
脇を通り過ぎる時に、ついつい台車の上に目を向けてしまいました。
ギャアと思いました。なぜ、よく聞き取れなかったのか、謎が解けたような気がします。高級食材とか言われたあれらのものを、潜在意識が翻訳したくなかったのでしょう。
異世界デカ虫シリーズ……恐ろしいです。異世界ならではの物には、とてもヤバい物がありそうです。
うっかり食べてしまわないように、よ~く注意して選んで、食べようと思いました。




