☆03話 穴に向かって叫ぶのです!①
ハッと意識を取り戻すとそこは、真っ白な部屋でした。
「ここは……?」
「目覚めましたか? ここは例のあそこです」
マタゼロの疑問に、とってもお高いプラチナ製の鈴を鳴らしたような美しい声が答えます。
声のした方を見ると、そこには長くゆるやかな金の髪を、腰元まで伸ばした女性がいました。
マタゼロは女性の回りを駆け足でグルリとまわります。全身チェックです。ここがどこで、どうなってるのかよく分からないのに、美女にはすぐ食いつくマタゼロは元気です。
長く伸ばした、純度100%か?! と思わせる黄金に輝く髪。
葡萄色の目。ふっくらぷるぷるのさくらんぼの唇。顔の造形はこの世のものとは思えない、天上の美しさです。
肢体が透けて見える、肝心なところが見えそうで見えない神仕様の、得体の知れない素材で出来た白っぽい手触りのよさそうな薄いローブ。
胸元にはメロンが二つなっています。
キュっとくびれた腰は洋梨。
形よく、アップした尻は桃です。
1人果樹園──マタゼロは女性の前に跪きます。この方がどなたなのか予想がつきました。
「女神さま!」
メロンに向かって拝みます。
「わたしは死んだのですか? ここは天国?」
「死んでません。用事があって呼んだのです」
ニッコリと微笑む女神様。
死んでなくて、白い空間? ああ、転移か。召喚されているのか?
「わたしは勇者になるのですか?」
「違います。いろんな意味で無理です」
「ではなぜ……」
召喚された訳ではないらしい。
「あなたには穴に向かって叫んでほしいのです。」
穴に向かって叫ぶ? 女神様の言われる事は、マタゼロにはよく分かりません。
「……どういう事でしょうか?」
「あなたには、ユニークスキル『秘密の穴』を授けます。穴をあけてその中に日常のあんなことやそんなことや、せせこましい不満などを叫んでストレスを発散してほしいのです。」
説明をされましたが、まだよく分かりません。
「わたしには管理している世界があります。剣と魔法のあのレベルの文明の世界です。」
「あのレベルですね。分かります」
女神様の管理している世界──マタゼロから見たら定番の異世界の事でしょう。
「何百年かに一度、その世界にたまった悪念やらなにやらを浄化しているのですが、その方法というのが、世界にたまった悪しき物を一つの固まりにして、それをある存在に変えているのです。」
「ある存在?」
「魔王です」
女神様の一言にマタゼロは衝撃を受けます。嫌な予感がします。
「わっわたしに魔王になれと?!」
「違います。あなたはアホウにはなれても、魔王にはなれません。」
マタゼロの驚愕の叫びは、女神様にキッパリと否定されました。
「あなたには魔王の核となる固まりを作ってほしいだけです。穴の中に叫んだあなたの不平不満、鼻で嗤うようなちっちぇ考えで吐き出された言葉が、穴の底で固まり、魔王の核となるのです」
魔王の核を作る? 女神様の言う事はわかるような、わからないような、やっぱりよくわからないけど、言葉の上っ面だけ拾って分かったような気になって反応します。
「魔王を造るお手伝いはちょっと……。いくら異世界でもそんな人様に迷惑かけるような事はできません」
殊勝な事を言ってみましたが、これから送られるかもしれない世界に魔王は嫌です。いらないです。
「大丈夫です。魔王は勇者がサクッと退治する予定です。まあ、幾つか国が滅んだり、多少人々に被害は出るかも知れませんが、魔王を造った方が良いのです。世界に溜まった悪しきものを放置すれば、人心が乱れて争いが起こり、自然は荒廃し、動植物に悪影響が出ます。世界が滅びます。少々、魔物が元気になって暴れまくるかも知れませんが、魔王を造った方が良いのです。勇者が倒せば、浄化完了。簡単です。楽ができます」
――んっ? この女神様何かダメな事を口走ったぞ。──これがダメガミ?
そんな事を言われたら益々嫌です。
「あー、なぜ、わたしなのでしょうか? 別の人にお願いします」
毅然とした態度をとる勇気のないマタゼロは遠回しに断ります。
「あなたのそのせせこましさ、アホさが実によいのです。あなたの叫びで核が作られれば、アホで余り強くない魔王が出来るはずです。別の人ではダメです。魔王が強くなりすぎます。賢くて強い魔王を倒すのは面倒なのです。何人か勇者を送りこまないとダメですし……。今回はあなたを見つけられて本当に良かったです」
ニッコリと微笑む女神様の目は、マタゼロを逃がす気はないと語っています。でもでもやっぱりマタゼロは……!
「引き受けてくれたら、サービスしちゃいましょう。あなたの世界とわたしの世界を自由に行き来できるというのは?」
女神様の目がキラッと光ります。
「……行き来できる系ですか」
むずっときましたが、それだけです。
「それにスキル取り放題! 好きなスキルを好きなだけあげましょう」
女神様の目がキラキラと輝きます。
「スッ好きなスキル取り放題?!」
むずむずっときました。
「広い土地と家と──国もあげちゃおうかなあ」
女神様の目がギラギラと熱を帯びます。
「温泉つきの家ですか?!」
むずむずが爆発しました。温泉つきの家なら凄すぎます。別荘です。
あっ、国はどうでもいいです。家のおまけみたいなものです。
国を貰えても家がないんじゃ話になりませんからね。国を背負った浮浪者のマタゼロ王なんて笑い者です。
「もちろんです。温泉だけじゃありません。家に可愛いメイドを三人つけましょう」
女神様の目から得体の知れない光線が放射されます。
「エッエルフと獣人とドワーフのメイドですか?!」
マタゼロを直撃します。熱がマタゼロを焼いていきます。
「受けます。喜んでやります!」
マタゼロは弱い人間です。温泉とメイドに食いつきました。お風呂に入って楽ができる。なんと単純な人間なのでしょうか。
「ほほほ、絶対引き受けてくれると信じていましたよ」
女神様の体から神々しい光が溢れ出します。なんと眩しいのでしょう。跪いたまま、マタゼロはもう一度、メロンに手を合わせます。
「では、さっそくユニークスキルを授けます。立ち上がって、これからわたしがするポーズと呪文をマネするのです」
マタゼロは女神様の言葉に従い、立ち上がりました。
女神様は足を広げ、手の平の指を揃えて、腰元に引き寄せます。
左右の腰元に、指先が下方に向けられた手の平が垂直に添えられます。
「アナホーリ!!」
美しい大きな声が響くと同時に、腰に添えられた手の平が勢いよく股間に向けて振り下ろされます。三角形の頂点を目指して下ろされた左右の手の指先がふれ合います。股間に指先がピシッと伸びたきれいな逆三角形の頂角ができました。叫びとともに曲げられた膝も、いい味を出しています。
「さあ、マネするのです」
この場合、突っ込みはいらないでしょう。いや、むしろ禁忌に触れる危険があります。神聖なスキル伝授の場面です。真剣に取り組まなければなりません。
「アナホーリ!」
股間の前で指先が触れ合うと、足元にマンホール位の暗い影ができました。
「中を覗き、穴に向かって叫ぶのです!」
女神様の言葉通りに、足元の穴のようなものを覗きこみます。穴のふちの手前で土下座するような格好になりました。
えー、一般的には、スキルとは『通常、教養や訓練を通して獲得した能力のこと。日本語では、技能と呼ばれることもある』(ウィキペディアから)
スキル→後天的に獲得可能な「技能や能力」のこと、らしいですが、ゲームや異世界ものの小説ではちょっと違いますよね?
そう、特殊能力や技能のことかなと、作者は勝手に思っています。神から授かったら、すごいものになるのかなー、とか。
この小説では『スキル』という言葉は特殊能力・技能他、けっこう何でもありな感じで使われています。違和感を持たれる方も、いらっしゃるかもしれませんが、この作品では『スキル』と言ったら、『(女神様からもらった)不思議能力』と考えていただければと思います。
☆チキンカオスワールド☆
チキンJO―73部隊──隊長1羽、隊員10羽からなる小隊である。
朝の訓示の時間──隊長からの言葉を隊員10羽は横並び一列になって聞いていた。
「そう言うわけで、この度、我が隊に魔王軍に対抗するための、特別訓練が課せられることになった」
特別訓練と聞いて、10羽はゴクリと喉を鳴らした。今の訓練だけでも厳しいのに、これ以上何をさせる気なのかと全員の顔に不安が浮かぶ。
「質問があるやつは前に出ろ」
隊長の言葉にザッと9羽が一斉に一歩下がる。残された1羽は左右を見て、嵌められた悔しさに顔を歪めながら、片羽根を上げた。
「はい! チキンカツ隊長、訓練とはどういったものでしょうか」
みんなが聞きたかったことを、元気よく聞く。悔しくて堪らないが聞く。
「チキンタッタ隊員、いい質問だ」
隊長は感心したように頷いているが、特別訓練と言っただけで、具体的な内容は語られていない。質問は当然である。
「説明しよう。ズバリ飛行訓練だ。魔王軍に対抗するための、空撃部隊になるのだ」
10羽は思った。
──無理じゃね?
「どうした、そんな顔をして。何か言いたいやつは前に出ろ」
チキンタッタは慌てて二歩下がった。
他の9羽はザッと三歩下がった。
左右を見てチキンタッタの目は驚愕に見開かれる。くちばしもポカンと開いた。こんな使い古された手に、2度も嵌まった自分が信じられなかった。
「なんだ、続けて質問か?」
隊長に声をかけられて、仕方なく片羽根を上げた。
「はい! 我々は鶏です。飛ぶのは無理だと思われます」
みんなの言いたかったことを言う。悔しさに声と羽根を震わせながら言う。
「コケーコッココ、コケ、チキンタッタ隊員、だからこその訓練だろうが」
豪快に隊長は笑って、チキンタッタの顔をジロリと見た。
「飛べない鶏は、ただの鶏だ!」
チキンカツ隊長は大きな声でそう言い切った。
10羽は思った。
──あたり前じゃね?




