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穴に向かって叫ぶ!  作者: マタゼロ
29/38

☆29話 いい人です。いいお店です。

 



 仕方なく外に出ます。いざとなったら、逃げる気満々です。亀の甲羅、買ってもよかったかも知れません。


「覚悟はできてんだろうな! チンケな緑男!」

「その変なアホヅラをボコボコにしてやるぜ!」

「妙なヤロウが! 当分、動けねえようにしてやらあ!」


 通りで向かいあった男達から、罵声を浴びます。何もしてないのにひどいです。


「ご主人様、お買いになった品物をためすチャンスですよ。迷宮産の品の素晴しさを見せてやるといいですよ」


「何!? 迷宮産!」

「『ぺーぺー』のくせに強気なのは、そういうわけか!」

「それを寄越しな!」


 ミィの言葉を聞いた男達が、目を輝かせて襲ってきます。これはいけないです。できれば使いたくなかった品物を使ってみます。


「『へーんしん!』」


 手を胸の前でクロスさせ、腕輪を触れ合わせて叫びます。ピカッと光が放射されました。


「『木刀!』」


 収納から取り出した筒を変化させます。まだ、人を刃物などでつつく、覚悟はないので木刀です。7種類とか言ってましたが、とりあえず分かる武器で無難な物にしました。


「ゲッ、ありゃなんだ!」

「え!? 迷宮産なのか?」

「欲しくねーぞ!」


 こちらに向かってこようとしていた、男達の動きが鈍くなります。目から貪欲な輝きが消えました。


 分かります。とてもよく分かります。この全身緑タイツは、ほんとに欲しくありませんでした。

 くれると言われても『いらねえ』と言いたくなる品だと思います。できれば使いたくなかった一品です。


「期待させやがって!」

「迷宮産まで変なのかよ!」

「とことんバカにしたヤロウだ!」


 脱力していた男達の目に、怒りの炎が燃え上がるのが見えました。また、元気になって襲いかかってきます。手に持った木刀を振ってみますがあたりません!


「おせえ! どこ狙ってんだ、生まれたてのオークか!」

「とろい! 見えてんのかよ、死にかけのゴブリンか!」

「それで動いてるつもりかあ! ビョーキのスライムか!」


 振り回した木刀を、軽く避けた男達にボコボコに殴られます。ギャアと思いましたが、平気です。いくら殴られても痛くありません。


「効いてない!?」

「平気なのか!?」

「すげえ弱いのは分かるのになぜだ!?」


 口々に叫んだ男達は、今度は剣や槍でついてきました。一人の男の手の平から、炎のようなものが発射されます。

 ギャアと思いましたが、平気です。全然効きません。さすが迷宮産です。全身緑タイツ万歳!


「ハッハッハ、君たちの攻撃などまるで効かないな! いくらでも攻撃するがいいさ!」


 腰に手をあてて、のけ反って笑いながら、すぐ後悔します。


 あんれ~、これ、攻撃されるだけじゃないか? こっちの攻撃もまるで効かなかったよ!


「顔だ! あの剥き出しの顔だ!」

「そうか! あのアホヅラを狙えば!」

「あの変な顔に集中攻撃だあ!」


 弱点を発見されてしまいました。ヤバいです。確かに顔は守られていません!


 顔に飛んできた炎を腕でかばって受けます。飛び散った炎が手に当たりました。


「アッチチ!」


 剥き出しの手もカバーされてません。とっても熱かった手が、顔に攻撃を受けるのはダメだと教えてくれました。


「やっぱりだ!」

「いけー!」

「やれー!」


 男達の剣や槍の攻撃が顔をめがけて繰り出されます。炎の攻撃も顔限定です。

腕で顔を覆うのが辛いです。仕方ないので後ろを向きました。


「何だと!?」

「まさかの後ろ向き!?」

「クソ、弱点が見えない!」


 頭でも、背中でも、お尻でも『どーぞ、どーぞ』と思ってひと息ついていると、男達が走って別れました。三方を囲んできます。


 ギャアと思いました。この男達、思っていたより知恵がありそうです。


「さあ、どっちでも向きな!」

「どこを向いても可愛がってやるぜ!」

「そのツラがボコボコになるのも時間の問題だな!」


 どうしようと混乱していると、サッとミィが前に飛び込んできました。


「ご主人様はマダマダのダメダメのご様子。仕方ありません。わたしがお相手しましょう」


 そう言ったミィが片足立ちになると、ポンポンと軽くジャンプを始めました。

 両腕を広げて、手の平を開きます。


「『緊縛紐』」


 ミィの手の平から紐のような物が湧き出すように何本も出て、あっという間に男達をグルグル巻きにしていきます。


「ぎゃ、何だこりゃあ!」

「ひえ、これは、まさか!」

「ぐへ、『コマ回し』!?」


 男達が目を見張って、自分達の体に巻き付いた紐を見ています。男達だけでなく、こちらもびっくりです。


「『回転』」


「「「ギャアー!」」」


 ミィが手の平を勢いよく上に向けると、男達の体に巻き付いた紐が、シュルリとミィの手の平に戻っていきます。

 紐がほどけていく勢いで、男達の体がクルクルと回りました。


 ポンポンと弾んでいたミィが、クイッと爪先立ちになります。また両腕を広げるとクルクルと回転し始めました。頭のてっぺんでまとめられた髪が、まるでコマの芯のようです。


 回転したミィの体が移動して、回ってる男達の体に次々とぶつかっていきます。コマの勝負のような光景ですが、なぜかミィがぶつかった男達の体は、空中高く舞い上がり、遠くへ飛んでいきました。


 回転を止めたミィが、男達が飛んでいった三方を順番に見ます。


「サヨナラ」「サヨナラ」「サヨナラ」


 そう呟いて、一礼していきます。上品なカーテシーです。


 ギャアと思いました。あのギルド本部で耳にした回りの呟きが耳によみがえります。『回転蹴り』とか『コマ回し』とか『サヨナラ』とか……。みんなの怯えたような態度も分かりました。

 飛んでいく男達の謎も解けました。男達はお空へ蹴り飛ばされたのでしょう。

 あのまま、お空に旅立つ事になったかも知れません。

 あんな奴らでしたが、無事に着地できることをちょっこと祈りました。


 ミィ、やはり普通のオバサンではありませんでした。妖怪のようです。今でも逆らえない感じなのに、益々逆らえない感じになってしまいました。


「あら、片付きましたの?」


 呆然としていると、おっとりした声がかかりました。お店の開いた扉の側にオバアサンがたっていました。


「ええ、お帰りいただきました」


 ミィが前に出てきて、すましてオバアサンに報告します。


 そうだね。土に()()()()かもしれないね。無事じゃない事は確かだよ。


 遠い目になります。


「フフッ、ありがとうございました」


 おっとり笑うオバアサンからも、ちょっと危ないものを感じます。


「オバアサン、ありがとう」

「「「ありがとう」」」


 ちょっと引いていると、笑うオバアサンの後ろから、さっきの若者達が現れました。


 男がお礼を言うと、他の三人の女の子達もお礼を言って頭を下げました。


「無理はしない事が肝心ですよ。命を大切にしなさいね。あなた達が立派な冒険者になる事を期待してますからね。またお店にもいらっしゃい」


「はい、ありがとうございました」


 ニコニコと言うオバアサンに、男がもう一度お礼を言って、若者達はそろって頭を下げると去っていきました。


 オバアサンやミィと三人で若者達の後ろ姿を見送るような形になります。


「……あれはダメですね。最後にお礼しか言わないのは、貰った気でいるからでしょうね。もっと育ったら、もめて解散しそうなパーティーですね。これでは採算が合わないでしょう」


 若者達が離れるとミィがそんな事を言います。


「そうですね。でも、いいんですよ。装備が揃えられなかったり、粗悪品のせいで若い命が失われるのが、嫌で始めた事ですもの。出世払いでセットを持っていった全員が、『すごい』人になれるわけじゃないのは分かってますよ」


 そこまで言って、オバアサンは嬉しそうに笑みを深くしました。


「フフッ、でも、ご存知でしょう。ちゃんと払いに来てくれる子もいるんですよ。そういう子はね、みんな余計にお金を払っていってくれるんです。

 全員が払うわけじゃないのが分かってるんでしょうね。また、自分の時のように初心者を助けてやってくれという意味もあると思って、ありがたく受け取ってますよ」


 笑顔を浮かべるオバアサンに感動しました。いい人です。いいお店です。


「それに昔、間違って仕入れた、どうしようかと思っていた珍品を、高く買ってくれるようなとっても奇特な方も来てくれましたしね」


「お金を持ったアホウでしたね」


オバアサンの言葉にミィが頷いています。何だか話しの流れがよく分かりません。急速に感動していた気持ちが冷めました。




 このオバアサン、いい(・・)人です。いい(・・)お店です。




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