☆28話 売り主になっていました
武具、防具はお高い迷宮産の物になりました。
スキルがあるから、いらないような気もしますが、何かの時のために回復薬も何種類か、買っておきました。
魔石ランプ、野外で料理が出来る魔石コンロ、包丁や鍋などの料理セット、塩や胡椒などの調味料、テントのような物などの細々とした物の他に、チュニックのような上着、足首までのズボンぽいものなどこちらの世界の衣服も何点か買いました。
欲しいと思っていた室内履きも買えました。お金を入れられる小銭入れも買いました。
このお店は雑貨なども扱っていて、とりあえず必要だと思うような物は揃える事ができました。
迷宮産のものは少々問題がありましたが、それ以外は親切だし、色々な物が揃えられて、便利な店でした。
教えてくれたオッサンに、ちょこっと感謝します。でも、この位ではサークレットのマイナス感は埋まりません。
「えーと、全部で301万2550ゼニアですけど、たくさん買っていただきましたし、300万ゼニアちょうどでいいですわ。これからもぜひご贔屓にしてくださいな」
ニコニコとオバアサンは満面の笑顔です。長年抱えていた不良在庫が、いい値段で売れたのです。きっと嬉しくてたまらないはずです。
「あ、それはありがとう。はい、じゃあ300万ゼニア、白金貨3枚」
オマケして貰った事にはお礼を言って、収納から袋を取り出すと、中から白金貨を3枚、オバアサンに手渡しました。あっという間に少なくなっていくお金に寂しさを感じます。
オバアサンは確認すると、受け取ったお金を前掛けのポケットにしまいました。
「はい、ありがとうございます」
「よ、バーサン。金を払いに来たぜ」
オバアサンがお金をしまったところで、近くで男の声がしました。
「あら、あなたは」
オバアサンが驚いたような声を上げて、瞬きします。
近づいてくる男は、薄手の白い鎧のような物を着こんだ冒険者だと分かる男でした。
どうやら知り合いらしいので、オバアサンの前からどいて男に場所を譲ります。
男は胸元にかかったペンダントの板を持ち上げて見せます。それは銀色のギルドカードでした。
銀色なんて羨ましいです。近くに立っていても、男には認識されていないようでした。チラともこちらを見ません。
「ほら、銀製カードだ。俺は『すごい』男になったぜ。約束通り、支払いにきた」
男はそう言った後、腰につけた皮袋から2枚の白金貨を取り出しました。
「あら、あら、立派になって」
「約束は1白金貨だったが、今までの礼に倍の2白金貨を払おう。もう、この店の物は俺には合わなくなったが、ほんとにありがたかったよ。色々ありがとな。元気でいてくれ、バーサン。じゃあな」
お金をオバアサンに渡して、男はそれだけ言うとすぐに踵を返します。
「確かにいただいたわ、ありがとう。あなたも元気で頑張るんですよ」
オバアサンが男の後ろ姿に向かって、そう声をかけると、男は振り向かないまま、応えるようにヒラヒラ手を振って店を出ていきました。
一体何だったんでしょうか。聞こうかなと思ったら、店内をうろついていた他の客の何人かが近寄ってきました。
「あの、オバアサン、出世払いがきくセットがあるって聞いたんですけど……」
若い男一人と女の子三人のグループです。まだ、13、4歳位に見えます。先程の男とのやり取りを聞いて、寄ってきたのでしょう。
男はまだ可愛い感じで、子どものように見えます。今はパッと見、少女の四人組のように見えなくもないですが、もう少し大きくなったら、いい男になりそうです。一緒にいる女の子達も可愛い子ばかりです。
この歳でハーレムパーティーとは、なんとうらやましいことでしょう!とっても妬ましいです。
「ええ、ありますよ。冒険者になったばかりの人向けなのよ。こちらよ」
きっと今まで聞きたくても聞けなくて、店内をうろついていたのでしょう。初々しいグループです。
遠慮がちに聞いてきた若い男に、ニコニコと微笑んで答えると、オバアサンが歩き始めます。
後をついていくグループの後についていきます。もう、支払いも済んで帰っていい人ですが、ついていきます。何も関係ない人ですが、ついていきます。
「この辺が、出世払い初心者セットよ。値札が付いてるでしょ。『すごい』人になったら、その10倍の金額をいただきます。
出世払いが利くのは初回限定よ。後でのお買い物は、きちんとその場でお支払いしてもらいますよ」
コクコクと頷いて、四人の若者は案内された品物の方に行って、色々見始めました。オバアサンはその様子を微笑ましく見ています。
「分からない事や、説明してほしい物があったら、遠慮せずに言いなさいね」
優しい声で品物を見ている若者達に声をかけます。
「おい、バーサン、俺達も見せて貰おうかな」
「初回限定だとか言ってたよな。オレらも初めての客だぜ」
「タダで持っていっていいんだろ? 出世払いだもんな」
店内をうろついていた別の客が、また寄って来ました。今度はさっきの若者達より年上の、あまりガラのよくない若い男達です。
「あら、あら、あなた達は……」
オバアサンはガラの悪い男達を確かめるように、顔を動かして上から下まで見ました。
「あなた達は『それなり』の人達ね」
オバアサンの言葉に男達をよく見てみます。
全然可愛いくない、まったく見る価値のない男達ですが、よく見ます。男達は三人とも、手首に鉄製カードが付いたブレスレットをしていました。
「ごめんなさいね。このセットはまだ稼ぎのない『ぺーぺー』の人達用なのよ。もう、『それなり』になった方にはお売りできませんわ」
「おい、差別はいけねえな!」
「オレらも困ってんだよ。優しくしな」
「出世払いするから、よこせ」
「まったく、出世の見込みのない方達には、特にお売りできませんわねえ」
騒ぐ男達を見て、オバアサンは頬に手を当てて困ったように言いました。
口調はおっとりしていましたが、口にした内容は、男達に正面からケンカを売っています。すごいです。
「あ!? 何だと、ババア! ケガしてえのか!」
「ケンカ売ってんのか! バカにしやがって!」
「何でもいいから寄越しな! このクソババア!」
ガラの悪い男達が、さらにガラが悪くなりました。
オバアサンは初心者セットじゃなく、ケンカを売りました。男達は買いました。
「そんなふうだから、『それなり』止まりなんですよ。鉄製カードになっても稼げなくて、初心者向けの物をタダで持っていこうなんて、情けないですわねえ」
「「「何だと!!」」」
ため息まじりに言ったオバアサンの言葉に男達がいきり立ちます。追加の大売り出しです。特売です。
一人の男がオバアサンに向かって、拳を振りあげます。まさかとギョッとするのと同時に、目の前を黒い影が横切りました。バシッと叩くような高い音が響きます。
「ガアッ!」
「ご年輩の女性に手をあげるとは、クズですね」
床に拳を抱えて男が転がります。オバアサンの前に、すっかり存在を忘れていたミィが悠然と立っていました。
急に飛んできた黒い固まりが、男の拳を弾いたらしいのは分かりましたが、どうやったのかは、さっぱり分かりません。
「あなた方のようなクズは許しません! おもてに出なさい。成敗してやります!」
そう叫んだミィがサッとこちらを手で示します。
「と、こちらのご主人様が言っております」
「イテテ、てめえの命令か!」
「何だ、おまえは『ぺーぺー』のくせにケンカ売ってんのか!」
「妙な格好しやがって! 木製カードを額に貼り付けたふざけたヤロウが! 俺達を相手にするってか!?」
男達に怒鳴られて目を見開きます。
え!? 何もしてなかったよね? え、わたしが相手? どうしてさ、やったのはそこのオバサンだよ!?
「クズ! バカ! カス! お前らのようなゴミ虫は、俺様がケチョンケチョンにしてくれよう、ワッハッハ」
低い声音を作ったミィが、腰に手を当てて偉そうにそう言った後、またこちらを手で示します。
「と、ご主人様が申しております」
「何だと~!てめえ!」
「分かった、おもてに出な!」
「ボロカスにしてやらあ!」
カンカンに怒って逆上した男達が、店の外に向かいます。
「さあ、ご主人様も外へ行きませんと」
ミィが何でもないように促してきます。
「あらまあ、すみませんわね。じゃあ、よろしくお願いしますわね」
ニッコリ笑顔のオバアサンに頭を下げられます。
あんれ~!? わたしが相手なるの? いつ決まったのさ。何もしてないよ。立ってただけだよ? やったのも、言ったのもそこのオバサンでしょ! あの男達もおかしいよ!
いくら心の中で叫んでも、このまま相手になる流れです。
オバアサンの売ったケンカを買った男達に、さらにケンカを売ったようです。
なぜか売り主になっていました。




