☆27話 防具、買わされました
「まだ、必要なお品もあるでしょうし、お支払いは後でまとめてしていただくとして、このお品は今お渡ししておきますね」
オバアサンにニコニコと笑顔で、黒い筒を差し出されました。
先に渡されたら、後で要らないとか、言いづらくなるのではないでしょうか。おっとりしているようで、実はこのオバアサンは、なかなかのやり手なのかもしれません。
黒い筒をオバアサンから受け取って手に握ります。とたんにビリッとしたものが手に走りました。
「わっ!」
『よろしくな』と変な声のようなものが聞こえた気がしました。
「どうかいたしましたか?」
ミィに不思議そうに、顔をのぞきこまれます。オバアサンさんの方をチラッと見ましたが、どうやら二人とも何も聞こえなかった様子です。
「いや、これ持ったら、何か痺れたような気がしたんだよ」
「ああ、普段重たいものを持たないから、筋肉が驚いたんですかね?それぐらいの物で困りましたね。ナメクジより下? ゾウリムシ?」
ミィの言葉を聞いて、声のことは言うのは止めました。
本当に呪われた筒だったとしても、そんな事を言ったらミィなら絶対バカにしてくるに決まっています。もう考えずに黒い筒を収納にしまいました。
「やはり収納能力もお持ちでしたわねえ。たくさん買い物をしても、身軽にすんでいいですわね」
ニコニコとオバアサンが声をかけてきます。やっぱりこのオバアサンは侮れないと感じました。たくさん品物を買わされそうです。
「次は防具ですかしら。うーん、大きな盾とかは無理そうですし、小盾もそれなりに重いですけれど」
オバアサンさんは話しながら、場所を移動します。武具の隣には盾などの防具がありました。
誰が使うんだと思うような大きな盾から、鍋の蓋くらいの物まで大きさも、素材も様々な物が並んでいます。
「手甲とか籠手でしょうかね。あまり重くないもので、よさそうなものを探してみましょうか」
オバアサンが長い手袋のような物がならんだ一角を見つめます。
「ご主人様、これなどいかがでしょうか」
ミィの声がしてそちらを見ると、大きな亀の甲羅のような物を抱えてミィが立っていました。ミィの姿がすっかり隠れるような大きな物です。
「これは背負えるように、前に丈夫な紐が付いているんですよ。大きいですけど、見ためよりもだいぶ軽いんです。ウミゾウドンガメの甲羅ですね」
弾む声で説明する、ミィの持つ甲羅を見ます。これを背負ったら亀人間でしょう。
「防具を背負ってどうする?」
「背負えるからご主人様向きなんでしょう」
低い声で聞いたのに、ミィはやれやれといったように首を振ります。
「逃げる時に最適でしょう! 逃げる背中を守れるんです。お尻を齧られずにすみますよ」
なぜ、逃げ出す前提で防具をつけなければならないのか、分かりません。背中に背負う防具がどうして置いてあるのでしょう。何か特殊な使い方をする物なのでしょうか。
「おい、最初から逃げる事を考えてどうする。戦う時に身を守る物を考えてるんだろ」
「ああ、じゃあ、前につけたらいかがでしょうか。前にかける事もできますよ。ダメだー! と思ったら素早く背中に背負うんです。便利ですね」
こんな大きな物を 前に掛けたら、身動きしづらいに違いありません。そして何より珍妙になる事は間違いありません。
「亀人間はちょっと……」
ふざけるなと怒鳴らず、柔らかく遠回しに断りました。
「そうですか」
ちょっと残念そうなミィが憎たらしいです。
「この辺はどうでしょう」
オバアサンの声がして、そちらを見ました。台に何点か長い手袋のような物が並んでいます。
「この辺が手甲で、素材としては傷のつきにくい丈夫な布や魔物の皮が使われていますよ。中に板金が入ってたり、外側に金筋が付いてる物もあります。」
オバアサンが手で示した所を見ると、布や皮で作られた、手の甲から前腕の3分の2位のところを覆う手袋のような物が置いてあります。
「この辺は籠手ですね。鉄製の物です。少し重いかもしれません」
オバアサンが手でさした方をまた見ます。金属製の指のない長手袋のように見えます。ちょっとカッコいいかもしれません。
近寄ってさっそくカッコいいと思った籠手をつけてみました。
重くて手を上げるのに苦労しました。何点か籠手を試して素早い動きは無理そうだと悟りました。
籠手は諦めて、手甲をつけてみました。板金のは重い感じですが、この位ならいけそうです。
「あっ、そうだわ! あれがあったわ」
手甲を試していると、オバアサンがパンと手を叩いて声を上げました。奥の方に行ってゴソゴソ何か探しています。
戻ってきた時には、手に黒い金属製の腕輪のような物を2つ持っていました。
「これも昔手に入れた、迷宮産のお品なんですけど、防具としては素晴らしいんですけど、少々特殊で好まれる方がいないんですよね」
オバアサンの言葉に嫌な予感がします。
「どうぞ一度お試しになってくださいな」
ニコニコとオバアサンが腕輪を差し出してきます。
断ろうと口を開いたところで、素早く腕輪を手に取ったミィに、カチャ、カチャと両腕に嵌められてしまいました。
真っ黒で何の装飾もない、普通のリストバンド位の幅のシンプルな腕輪です。
「この位の物なら、身につけていてもご負担はないご様子。持った感じも鉄製の物よりかなり軽いと思いました。さすが迷宮産。鉄ではなく、何か特殊な金属ですね」
ミィが感心したように頷いています。
「それで、これは防具としてどう使うんでしょう? 結界か何か?」
「結界なら、ここに残っていませんわねえ。二つの腕輪を触れ合わせて『へーんしん!』と叫んでいただければ分かります」
ミィとオバアサンの会話を聞いて、ゲッと思いました。『へんしん』とか聞こえたのは、翻訳の不具合でしょうか。とーっても嫌な予感がします。
「……だそうです、ご主人様。とりあえず、一度お試しになられてはいかがでしょう」
「ええ、お試しになられて、嫌なら無理にお勧めしませんわ」
勧めてくる二人の顔を見ます。ニコニコ笑うオバアサンの言葉に、試してみる決意をします。そう、嫌なら買わなくていいのです!
胸の前で両腕を交差させ、腕輪を触れ合わせると、大きな声で叫びました。
「へーんしん!」
とたんにピカッと腕輪から光が放射されました。全身が光っているような気がします。
「素晴らしいです、ご主人様! 大変お似合いです!」
光が収まるとミィが勢いこんで、褒め称えてきます。オバアサンさんはニコニコしたまま何も言いません。
下を向いて自分の体を確かめます。腕輪は無くなり、腕の部分は密着した緑色の袖のようになっています。
体を緑色の布が張り付くように覆っています。変な感じがして、頭の方に手をやると、頭も何かに覆われているようです。ツルンと丸く頭を覆われています。
「何じゃこりゃあー!」
叫んでから、すぐ分かりました。
これは、これは─全身タイツです!
体に密着したこの感じ……頭まで覆われた全身タイツです。
「あの、あの、これはどうやったら元に戻れるのかな!?」
「『かいじょー!』とお叫びください」
焦って聞くと、すぐにオバアサンから返事がありました。
「『かいじょー!』」
即、叫びます。今度は光らず腕に腕輪が戻りました。
「これは、これは、ちょっと、いらないかな~と思います」
「そうですか。物理攻撃だけでなく、魔法攻撃も防ぎ、全身を守ってくれて、持ち歩くには邪魔にならないという、とーってもいいお品なんですけど、防御形態にいささか難がありますからね。仕方ありませんわね」
オバアサンさんは諦めたようにそう言いました。これは何人にも断られ、売れなかった品に違いありません。
「え? お買いにならないんですか? お似合いでしたよ。まるでご主人様のために、生まれた品物かと思いました。」
戯言を言うミィを無視して、腕輪を外し……外し……外れません!
「あの~、これ、どうやって外すんですかね?」
嫌な気持ちになりながら、オバアサンに聞いてみます。
「あ、そこの止め金を、外せばいいんですよ」
「あの~、どこに止め金が?」
「え? すぐ分かりますでしょ」
恐る恐る聞くと、オバアサンが腕に嵌まった腕輪を見ます。とたんに大きく目を見開きました。
「あら、あら、あら、止め金が消えてますわね。継ぎ目がなくなってるわ」
嵌まった腕輪に手で確かめるように触って、こちらの腕を動かして色んな角度から確認してきます。
「買われることになりましたね。よかったですね。やはりそれは、ご主人様のためのお品でした」
にこやかにミィが声をかけてきます。
「あら、ありがとうございます。迷宮産のお品ですから、100万ゼニアになります」
ミィの言葉の後に、すかさずオバアサンが頭を下げて、金額を言ってきます。
全然欲しくないこんな品物に、1白金貨……。
外れない品物がおかしい気がしますが、何か嵌められた気がとってもしますが、乗り気なミィが側にいてはこちらの苦情は通らないでしょう。
とってもお高い、まるでいらない、変な全身緑タイツ防具、買わされました。
前回投稿の22話は少し修正しました。
本日は4話投稿します。更新が遅くてすみません。他の話が一段落ついたので、こちらにもう少し力を入れて、話を進めていこうと思っています。お読みくださり、ありがとうございます。




