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穴に向かって叫ぶ!  作者: マタゼロ
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☆26話 武器、買うことになりました

 


 ボードにある依頼や壁に貼ってある紙を確認した後、オッサンに貰った紙にある地図を見ながら、勧められた店の前まで来ました。


 ミィは店の場所を知っていたようですが、あまり頼りすぎるのもいけないでしょう。というか、危険です。


 『ペペドウナ』と建物に異世界文字の看板がついている店を見つけました。

 石造りの二階建ての建物で、大きな両開きの扉は開けられていました。

 店の中には色々な物が置かれて、何人か人がいるのが見えます。入り易そうな店です。


 中に入ると店内をぐるりと見ました。

 剣、弓、槍、楯などが置いてある武具防具のコーナー、甲冑や金具がついた上着やら、ベストのような物が置いてある着衣のコーナー、指輪や、ペンダントなどのアクセサリーが置いてあるコーナー、何かの液体が入った瓶が並ぶ棚もあります。


「いらっしゃいませ。本日はどのような物をお求めに?」


 店にいた人達の注目を浴びたと思ったら、奥から出てきたふっくらしたオバアサンに声をかけられました。


 灰色の足首まである長いワンピースに白い前掛けをした、優しそうなオバアサンです。


 出てきたオバアサンとミィの視線が、合いました。何か不思議なものが二人の間に流れたような感じがしましたが、すぐに二人は視線を反らせました。


「えー、今日、冒険者登録したばかりで、必要な物を揃えたいんだが……」


 そう言うとオバアサンはじーっとこちらを見つめてきました。オッサンの時と同じような視線です。


「まあまあ、これはまた、なんと言うか面白い方ですわねえ」


「はい。緑の変わった衣服に、額に『ぺーぺー』カード、一目で、おかしな初心者と分かる装いになっております」


 ため息まじりに言ったオバアサンさんに、すかさずミィが答えます。ミィの言葉を聞いて、ギョッとしました。


 ──そ、そうだよ。額にギルドカード、立てるヤツなんかいないよ! 『アホウ』が消えて、それでいい気になってたけど、カードが額に立ってる事自体が変じゃないか!


 ものすごく、ショックを受けます。


「フフフ、堂々と分かるようにしてらっしゃるのは、これからカードを変えていくという、やる気の表れだと思いましたよ。『頑張る』という気持ちが伝わってくるような気がいたします」


 オバアサンさんの言葉に、ミィの時よりギョッとしました。

 そんなふうに言われてしまったら、額から外すことが出来ません。『分かってて、やってるんだ。これから、すごくなるから~。わざと見せてるんだよ~』の振りをしなければ、ならなくなりました。


「カードが、変わっていくのが、楽しみですわねえ。頑張ってくださいね」


「はい!」


 優しい笑顔で言われて、キリッと顔を作って答えてしまいました。ああ、もう本当に外せません。


「では、まずはどんなものがいいか、武器を考えましょうか。希望はございます?」


「剣、とかでしょうか。まあ、たいていの武器は使いこなせるんじゃないかなーなんて思ってますが」


 女神様から、一通り武器を使いこなせるスキルを貰っています。ちょっと、自慢げになってしまいました。


「うーん、あなたの場合は才能があったとしても、まったく体を鍛えてませんからねえ」


「はい。ナメクジのような体ですね」


 オバアサンの言葉にミィが相づちを打ちます。


 どんな体だよ!? とツッコむ前に、言われたことに愕然とします。


 ──そうだよ。まったく運動してないよ。学生の時は帰宅部のようなものだったし、体育の授業くらい?

 卒業した後は、デスクワーク中心の社畜生活だったし、辞めた後も日を浴びないひきこもり状態だったし、体、鍛えたことないよ。筋肉? 何それ? 状態だよ。


「身体強化とか、身体能力を上乗せできる才能もありそうですけど、元が元ですからねえ。あまり無理すると反動がすごくなって、逆に動けなくなりそうですし」


 オバアサンの言葉に大きく目を見張ります。


 ──おーい、ナメクジ仲間のみんなー。異世界行って、日を浴びて、急に元気よく動き回るようになったみんなー。

 君たちは大丈夫なのかい? 急に筋肉ついたの? 身体強化? 武器の才能あると動けるの? ナニソレ、うらやましい。

 こっちの世界はね、厳しそうだよー。ナメクジ仲間のみんなー。


「まあ、ちょっと武具を見てみましょう。こちらへ来てください」


 異世界通信に挑戦していると、オバアサンに声をかけられました。ハッとわれに返って武具コーナーへ行きます。


「あまり重いものはダメでしょうし、まったく体ができてないと、どの武器も微妙ですわねえ」


「宝の持ち腐れですね。最初は軽い木刀とかこん棒あたりでも、いいかもしれません。ただ振り回すだけでも、刃が付いてると自分を切りそうですし、弓は技術がいりますし」


 オバアサンに答えて、ミィがまた何やら言っています。


「ぶ、武器がダメなら、魔法とかどーかなー。ほら、わたし、いろんな魔法が使えるから魔術師として頑張ろーかなー、なんて」


「魔術師はちょっと……」

「今は無理ですね」


 魔術師申請して、すぐに却下されました。


「魔術師になるほどの魔力量は、ない感じですわよねえ」

「向かない気がいたします」


 二人の言葉に呆然としました。この世界の魔術師には、まだ、会ったことはありませんが、なれないようです。


「あ、そうだわ」


 オバアサンが何か思いついたようで、武具コーナーの奥の方に向かいます。ゴソゴソと物を探す気配がした後、手に短い筒のような物を持って戻って来ました。


 両端を持てば、胴の幅より、少し長いくらいの黒い金属の筒です。太さは、握れば手に隠れるくらいです。親指とひとさし指で円を作ったくらいの太さでしょうか。


「思い出したわ。これはあなたに合うんじゃないかしら。迷宮の宝箱から出たお品なんだけど、微妙で使い手を選ぶ物なのよねえ」


 そう言った後、片手に筒を持って振ります。


「『木刀』、『剣』、『槍』」


 オバアサンさんの声に合わせて、筒が変化します。『木刀』の時は、長さが伸びて長い木の棒、『剣』の時は握りと鍔のような物ができ、鉄の刃のついた細身の剣、槍の時は、一回り細くなりグーッと伸びて先に尖った鉄の穂がついた槍になりました。


「これはね、7種類に変化する武器なんだけど、その武器の才能がないと変化しないの。わたしだと3つまでね」


 そう言った後、手に持った槍を振ると元の筒になりました。


「便利そうだけど、変化した武器はどれもそこそこの品で、特に良いものというわけじゃないの。これは迷宮産の武器で、変化するし、同じ位の品よりちょっと高いのね」


「ああ、才能があるなら、その武器の少しでも良い物が、持ちたいものでございますからね」


 ミィが頷くとオバアサンも頷きます。


「そう、そうなのよ。才能がないと使えない、高いそこそこの品たくさんより、同じ金額を払うなら自分に向いた良いものが一つの方がいいでしょう?」


「えー、それは、おいくらでしょうか」


 筒の値段が気になったので、聞いてみます。


「100万ゼニア、1白金貨ね」


 オバアサンの答えにのけ反りました。高いです。とても高いと思います。


「あのー、ちなみにそこらの剣とかは、おいくらでしょうか」


 目についた剣を指さして、尋ねてみます。相場が、分からないと高いと叫べません。


「あの辺は5万ゼニア、あの辺になると10万ゼニア、そこが20万代の剣ね。

 3万ゼニアから30万ゼニアまでの剣を置いてあるわ。どの武器もそのくらいね。うちは初心者よりの初心者から中級者向けの店ですもの。そのお品は昔、たまたま入手して置いてあったものなの」


 オバアサンさんの説明で勧められた物が、とても高いことが分かりました。なるほど、誰も買わないはずです。初心者がそんな大金を払えるはずがありません。


「それで、この武器はどうかしら? 合ってると思うのだけど」


「買います。ご主人様は」


 高いからいらないと言う前に、ミィが返事をしました。


「えっ、高くないか?!」


「お金はお持ちでしょう。この武器はご主人様と巡り会うのを、ここで埃を被って、暗くじめじめといじけながら、ずっと待ち続けていたのです。

 自分を使える変なやつ、来るがいいさ! と呪いのように願っていたに違いありません」


「え、でも……」


「運命的な出会いでした。この武器はとても、ご主人様向きでございます。お金は払います、ご主人様が。買います、ご主人様が」


 断る前に、ミィがオバアサンさんにきっぱりと言い切ります。


「まあ、お買いになられるのね。ありがとうございます」


 オバアサンが嬉しそうに笑います。その笑顔を見たら、もう何も言えなくなりました。

 

 ああ、大金を払える初心者、ここにいました。ド貧乏人から、にわか成金になってました。



 武器、買うことになりました。


 

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