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穴に向かって叫ぶ!  作者: マタゼロ
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☆25話 ペンダントは……。

 


 受付窓口の方に戻ると、オッサンの座る窓口には誰も並んでいないのが、目につきました。


 分かります。とてもよく分かります。可愛い女の子の受付がいるのに、誰が頬傷のある厳めしいガチムチのオッサンを選ぶでしょうか。


 「終わったのか。こっちも直しがおわったぞ」


 窓口に近寄るとオッサンはとても嬉しそうに破顔しました。破れちゃってる顔に満面の笑みです。寂しい思いをしていたに違いありません。


 「あ、これ、買い取り金額証です」


 「お、これは!次のランク試験へのポイントを一回で稼いだのか。『ぺーぺー』にしてはすごい額だな」


 貰った紙をオッサンに渡すと、オッサンは大きく目を見張りました。


 ええ、いい値段で売れました。死にかけたり、血まみれになったり、ひどい扱いを受けたりしましたが、いい値段で売れました。


「よし、ポイントはつけたぞ。これを見てくれ」


 感慨深く、採取の苦労を思い出していると、オッサンから声がかかりました。


 カウンターの上を見ると、細い鉄製の半円の金具が置いてありました。カチューシャのような形です。見たとたん、嫌な予感がします。


 「この真ん中の部分に嵌め込める金具がついててな。カードが着脱できるようになってるんだ。

 嵌める時はそのまま、カチッと手応えがあるまで差し込んで、外す時は、この根元にある赤い石を押せば、簡単に外せるようになっている」


 オッサンが半円の金具の少し出っ張った真ん中から、カチッとカードを差し込んだり、外したり、して見せてくれます。


 「端には頭から、ずり落ちないように特殊加工がしてある。まあ、さすがにこれは、本職の慣れたやつに手伝ってもらって作ったがな」


 照れくさそうに、傷のない方の頬をポリポリと掻くオッサンが信じられません。何を作ってくれちゃったんでしょーか!


 「してみろ。顔の前でブラブラしないようにしてやったぞ」


 声をかけられても、動かないでいると立ち上がったオッサンが、金具を持ってカウンターから身を乗り出してきます。


 オッサンが両手で、ズッと金具を額に嵌め込んできました。


 「遠慮するな」


 遠慮じゃありませーん!とーっても、したくなかったのでーす!

 確かに顔の前でブラブラはしてません。しっかりとまってます。だが、しかし、けれども、『アホウ』の文字が書いてある板が、真ん中に立ったサークレット(?)など、誰がしたいと思うでしょうか!


 「お似合いです」


 顔を見たミィが、満足そうに頷いて言葉をかけてきます。


 ペンダント、どうしたのでしょうか。鎖を長くするだけで良かった物を、なぜこんな物にする事に挑戦したのか。理解に苦しみます。


 「やはり、そのカードはおまえの顔に似合う。味が出るな」


 そんな理由でした。でも、目は真面目でも口元はヒクヒクしています。


 こ、これは面白がって作ったものに違いありません。ふざけたオッサンです。こんな物はしていられません。


 「待て!名前の表示は任意でできるぞ」


 外すそうと手を伸ばすと、そう声をかけられました。


 「三回カードを叩けば、名前は消したり出したりできる。名表示は身元の証明が必要な時だけでいいんだ。まあ、名前を売りたいやつとかは、わざと出してるがな」


 早口に説明してくるオッサンの顔を見ます。もっと、早く説明してくれれば、よかったのにと思いながら、額の板を三回叩きました。


 「ああ、お似合いでしたのに、お名前が消えてしまいましたね」


 残念そうなミィの様子に安堵しました。確かに名前は消えたようです。


 「うむ。似合ってるな。アクセサリー加工は、それだけのできの物でもサービスだ。登録料は500ゼニアだがな」


 腕を組んで頷くオッサンに、登録料を催促されました。収納から袋を出して、中から金貨を一枚取り出します。

 カウンターの上に置くと、オッサンは金貨を受け取って、トレイにおつりを載せて差し出してきました。


 トレイを覗くと銀貨が9枚と穴の空いた銀貨が1枚あります。穴の空いた銀貨は確か半銀貨といって500ゼニアだったはずです。


 そう言えば、5ゼニアと500ゼニアの硬貨はあるのに、50ゼニアと5000ゼニアの硬貨は無かったようです。この世界では、そんなものは作られなかったようです。

 たとえ、忘れられていても何の問題もありません。おつりに貰う硬貨の枚数が増えるだけです。

 これから先、金貨に穴の空いたやつが『やあ、半金貨だよ。ぼくは5000ゼニアなんだ』とか、50円玉に似たやつが『えへ、あたし、50ゼニア』とか言って、出てくるかもしれませんが、今は関係ないでしょう。


 おつりを受けとると袋に入れて、また収納にしまいました。


 「これで、登録は終わったが、もう少し、ましな身支度をしてから、活動を始めた方がいいぞ」


 オッサンにそう言われて、頷きます。


 「ええ、もうちょっと、ましな格好をしようと思ってるけど、どんなものを揃えたらいいのか、よく分かりません」


 「ここで、回復薬とか『ぺーぺー』用の初心者セットとかは売ってるが、おまえの場合はなあ」


 少し考えたオッサンが、サラサラと紙に何かを書きました。


 「この店にいってみろ。冒険者用の店で色々置いてある。相談にものってくれるだろ」


 オッサンが書いてくれた紙を受けとると、ミィが紙を覗きこんできました。


 「『ペペドウナ』ですか。初心者向けの中級ランクまでの品揃えの店ですね。雑貨も置いてあるし、今のご主人様にはよいかもしれませんね」


 紙を見たミィが納得したように頷きます。


 「ああ、そうだった。そいつに色々聞けばいい。詳しいはずだ」


 オッサンがミィを顎で差します。とんでもないと心の中で、大きく首を振りました。

 ミィに頼ったり、任せたりしたらどんな事になるか、恐ろし過ぎます。


 「じゃあ、色々、親切にどうも。今度はちゃんとした格好で来ます。またその時は、よろしくお願いします」


 「ああ、またな。冒険者としてがんばれよ」


 オッサンと挨拶を交わしてギルドの建物を出ました。


 「ご主人様、規定の条件とか、依頼はどんな物があるか、見なくてよかったのでしょうか。揃える物の参考になったり、多少の違いが出てくるような気がしないでもない気がするようなしないような……」


 ミィの言葉にピタリと足を止めました。建物を出てから、そんな事を言うとはさすがです。

 

 あんなふうに挨拶をした後、すぐ戻る事はとても恥ずかしい事です。恥ずかし過ぎます。


 くるりと振り向くと、ギルドの扉を開けました。一斉にまた、注目を浴びます。窓口のオッサンとも目が合いました。


 「てへ、すぐ戻って来ちゃった……」


 呟くと、なんら変わらない緑のジャージ姿のまま、堂々とボードの方に向かいました。


 そう、ここで少ーしくらい、恥ずかしい思いをしても、少しでもいいものが買いたいです。




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