☆22話 ギルドで登録①
しんと静まり返った室内の中、不気味な笑顔を浮かべたミィに促されて、部屋の奥へ向かいました。
木製のカウンターなような所に五つほど、窓口らしきものがありました。女性が其々座っています。素早く視線を走らせて、座る女の子達をチェックします。
若い!可愛い!美人!ど、どの子もいい!だ、誰にしような。
カウンターに座った女の子達は、どの子も綺麗で、魅力的でした。猫耳の子も、耳の尖ったエルフのような子もいます。まともです。まともな異世界美人です。初めての美女との遭遇に感激します。
窓口の前には何人か人がいましたが、あまり混んだ様子はありません。空いた時間帯なのでしょうか。
感動に震えながら、素早くチェックした中から、お胸の大きい色っぽい綺麗なお姉さんの所に並びました。オネエさんではありません。(←ここ重要)
脇にいるミィを青ざめた顔で見ている三人程いる列の後に並ぶと、前の三人は慌てた様子で、他の窓口の方に移動していきました。あっという間に自分の番がきました。さすがに回りの様子が変だと思います。
「……ミィさんや、あなたは何者なのでございましょう」
脇に立つミィに視線を向けて、尋ねるとミィは首を傾げて見せました。
「ただのご主人様のメイドでございますが、何でしょうね」
ただのメイド?ただのメイド見て、何で皆青ざめてるんだよ。あっ、小さな可愛い女の子かな~と思ったら、不気味なおばさんだったから?
「こちらへどうぞ」
ミィを見ながら考えていると、若い女性の声がしました。素早く反応して、窓口に貼り付くように近寄りました。そう、今はおばさんより、若くて綺麗な異世界美人と話す方が重要です。
肩口までの金の巻き毛、大きくパッチリした青い目、厚めの赤い唇は色気があります。白いブラウスにV字の前ボタンの紺のベスト。
ブラウスのボタンは、大きく盛り上がったお胸の谷間が見えそうな所まで外されています。
こちらの想像力を掻き立てる、見えそうで見えない、憎い演出です。とても色っぽい人族の女の子でした。
「サトリンと申します。新規のご登録ですか?」
若い可愛い声です。喋り方もどことなく色っぽいです。
「はい。登録をお願いします!」
鼻の下がダーッと伸びた、にやけた顔になった自覚はありますが、伸びていくものは仕方ありません!
「俺が代わろう。君は小休憩に入っていいぞ」
「あっ、ギルド長」
野太い声がして、女の子が振り返ります。女の子の背後に頬に傷のあるいかついオッサンが立っていました。あちこち筋肉の盛り上がった、ガチムチのオッサンです。黒い革製のつなぎのような服が、筋肉ではち切れんばかりです。
「はい、ではお願いします」
女の子は元気よく返事をして、座っていた椅子から立ち上がると、奥の方へ消えて行きました。残されたオッサンの顔を見て、伸びた鼻が一瞬で縮みました。元より短くなった気がします。
「よっ、『回転蹴り』のミィ、久しぶりだな」
オッサンが、脇のミィに手を上げて挨拶をします。
「ああ、『爆裂拳』のハルク、お久しぶり。ギルド長なんてものになったんですね」
ミィも手を上げて挨拶を返しました。
「まあな、似合わないものを任されちまったよ。引退してのんびり過ごすつもりだったんだがな」
「あなたには、合ってると思いますよ。まあ、頑張ってください」
マタゼロの存在は無視されて、懐かしそうにオッサンとオバサンが話しています。
「今日はそいつの登録かい?」
オッサンに拳から出した親指で、クイッと指差されました。
「ええ、よろしく頼みます」
ミィの言葉の後、オッサンにジーッと見つめられます。全然嬉しくないです。
「情けねえ、面だな」
オッサンがボツリと呟きます。ええ、そうでしょうとも。色っぽい女の子が、いきなりガチムチのオッサンになったのです。ガッカリです。
この、長時間並んだのに、目の前で目当ての物が売り切れになった時の絶望感より、ふか~い絶望感が顔に出ていてもなんら不思議はありません。見つめてくるオッサンの眉がピクピクと上下します。
「こりゃ、すごいんだか、すごくないんだか、面白いやつというか、また、珍妙なやつを連れてきたなあ」
「アホウです」
腕を組んで感心したように言うオッサンに、ミィが素早く答えました。
「ま、能力鑑定とか面倒な手続きは省いて、簡単にしてやるよ」
そう言ってオッサンは、カウンターの下から一枚紙を取り出しました。
「字は大丈夫か?」
「代筆でお願いします」
マタゼロが答える前に、オッサンの問いにミィが早口で答えます。オッサンは椅子に座ると、紙をカウンターの上に置き、筆記具らしい棒のような物を手に持ちました。
「名前は?」
「マタゼロだ」
「アホウです」
ミィとほぼ同時に答えました。
「わたしの名前はマタゼロだ。なんで代わりに答えるんだよ!」
「アホウをアホウと正直に言いました。アホウなのは本当でしょう!」
『マタゼロだ』『アホウです』と言い争う様子を、しばらく見ていたオッサンが、手を振りました。
「わかった、わかった、『マタゼロアホウ』でいいだろ」
そう言って、オッサンがサラサラと紙に字を書きました。『マタゼロアホウ』と書かれたらしい、オッサンの手元を信じられない思いで見ます。ミィは満足そうに頷いています。
な、なんで本人の主張が優先されないんだ?このオッサン、両方の言い分を取っていい人ぶったけど、おかしい事に気づけよ!本人の言うことを優先しろよ!名前だぞ!
「出身地は?」
「『どこかあの辺りから湧いた』とか『その辺から発生』とでも、適当にお願いします」
「おい、いくら何でもテキトーすぎるだろ!」
憤っている間に、また代わりに答えたミィに抗議します。
「あっ、そうですね。『マタゼロアホウ王国』でお願いします」
「おい!」
「おや、この世界のどこで生まれたと?今、お住みになっている所で何か問題が?」
すかさず、そう言われて、文句を言おうとした口を閉ざします。確かにこの世界に、マタゼロが生まれた場所はありません。不服ですが、我慢しなければならないでしょう。
「『マタゼロアホウ王国』?聞いたことのない国だな。ま、いいだろ。で、種族は?」
サラサラと紙に書き込んだオッサンがまた、尋ねてきます。
「人族です」
「アホウ族です」
ミィと同時にオッサンに答えました。
「おい、『アホウ族』ってなんだよ!そんなの聞いた事ないぞ!ここは『人族』だろ!」
「ご主人様が初めて目撃された事例になります。稀有な『アホウ族』ですね」
『人族だ』、『アホウ族です』と言い争っていると、またオッサンが手を振りました。
「わかった、わかった、『人族のようなアホウ族』でいいだろ」
「ちょっと、まったー!それだと『アホウ族』だろ!」
紙に書き込もうとしたオッサンを阻止します。
「ああ、じゃあ『アホウ族のような人族』か?」
聞かれて激しく首を振ります。
「その、『アホウ族のような』なんて、なんで付けるんだよ。『ナニナニ族のような』なんて要らないだろ。ただの『人族』でいいだろうが!」
オッサンに怒鳴ると、オッサンは頷いて、サラサラと紙に書き込みます。
「わかった、わかった、『アホウ人族』これでいいだろ。もう、書いた」
愕然とオッサンの手元を見つめます。
なんだとっ?!なぜ、そうなった?!いや、言った通りにしたんだとは思うが、アホウとつける事をやめる発想はないのか?!
「特技は?剣とか、弓とか」
「アホウです」
「得意な魔法とかは?属性とか」
「アホウです」
「性格は?自分で思うのでいい。明るいとか、寡黙とか」
「アホウです」
「うん、ま、必要事項はこんなところだな」
呆然としている間に、ミィが答えて、書類への記入が終わっていました。
「名前、『マタゼロアホウ』。出身地、『マタゼロアホウ王国』。種族、『アホウ人族』。特技、『アホウなこと』。魔法、『アホウ属性』。性格、『アホウ』。以上で間違いないか?」
「完璧です」
『間違いだらけだよ!』と叫ぶ前にミィが、隙なく答えました。
今日は5話、更新します。間があいてのゆっくり更新ですみません。 m(_ _)m




