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穴に向かって叫ぶ!  作者: マタゼロ
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☆19話 露天風呂で月を見上げます



  広い湯船は最高でした。こんなに大きくて豪奢な浴槽に浸かっているのは自分一人だけです。バタバタとしぶきをあげてバタ足で泳いでみたり、平泳ぎしてみたり、アヒルのオモチャで遊んだりしました。普通なら怒られそうな事も堂々とできます。


 スポンジとアヒルは使わせてもらいましたが、タワシはボトルの脇に放置です。あれでナニを洗えと言うのでしょうか。


「いや~。温泉はいいねえ」


 長く浸かれる少しぬるめの快適な温度です。

 手の平で湯を挟んでピューピュー飛ばしながら、呟きます。ここに来てから初めて王様気分を味わいました。


「あーっ、露天風呂もあるんだっけか」


 ミィが言っていた露天風呂も入ってみなければならないでしょう。露天風呂なんてなんだかウキウキします。


 沈めていた体を起こすと、立ち上がってザバザバと湯をかき分けて湯船から出ました。ミィの指差した扉に向かいます。


 扉を開けると、すぐ目の前にゴツゴツとした岩に囲まれた露天風呂がありました。その回りには人の背丈程の茂みがあり、外から見えないようになっているようです。


 外に出ると火照った体に、少し冷えた空気の感触が気持ちよく感じられました。


 浴場の扉から露天風呂までは、石畳が敷かれていて素足で行き来できるようになっています。浴場の窓から洩れる明かりで夜でも真っ暗ではありません。薄明かりに照らし出された温泉からは白い湯気が上がっているのが見え、情緒のある景色に心が浮き立ちます。


 フンフンと鼻歌混じりに露天風呂に向かうと、手を入れて温度を確かめます。


 浴場の温泉と同じ様な温度です。中に入り、ジャバジャバと温泉の真ん中に行くと安心して湯に体を沈めました。暖かに包み込んでくる湯に身を委ね、ハアとため息をついて空を見上げます。


 星が出ています。月も出ています。


 思わず口を開けて瞬きしました。月は二つありました。満月が二つ並んでいます。中心に丸くて黒いクレーターらしきものがあり、まるで何かの目の様です。


「異世界だよ。ビックリした……」


 何度か瞬きしながら、月を見つめて納得します。ある意味不気味な異世界の月です。


 驚きながら月を見ていると背後の茂みからガサガサと音がしました。


 ビクッとしてそちらを見ると茂みから大きなネズミが現れました。目が合いましたが、ネズミはこちらの事を気にせずジャボンと湯に入ってきました。一匹だけではありません。ジャボン、ジャボンと後から続けて大きいのと小さいのが入ってきます。


 えっネズミ?! なぜ、ネズミがここに?!


 頭の中がグルグルして、体が固まってしまいます。


 どうやら親子のようですが、なぜかこちらの方にジャブジャブと寄ってきて並びます。並ぶと親子は月の方に顔を向けました。

 最初はすごく驚きましたが、危険がないのが分かってくると、何だか同じ方を見ないといけないような気持ちになってきました。横並びに一列になり、月を見上げます。


 また、ガサガサと音がしてビクリとそちらを見ると、またもやネズミでした。この大きなネズミはカピバラに似ています。次から次へと現れては、温泉に入ってきます。ネズミの集団に前後左右に並ばれました。急に占有面積が狭くなりました。皆、月の方を向いています。


 この集団の中心で違う方を向く勇気はありませんでした。何か意味があるのか分からないままに、同じ方を向きました。


 大きなネズミ達と月を見上げながら、露天風呂に浸かる時間が過ぎていきました。


 外の空気を肌に感じ、ネズミと夜空の月を堪能し、心を通じ合わせながら湯に浸かる……。


 ──風流です。









「ふっざけるなー! なんでネズミが入ってくんだよ! ネズミ風呂なんて聞いてないよ! ここの露天風呂どうなってんだよ!」


 浴場のタイル床に開いた穴に向かって叫びます。


 あれから、のぼせる直前であの集団から抜け出し、フラフラと浴場まで戻ってきました。早速浴場の床に穴を開けました。


「わたしの扱いひどすぎないか?! なんだよ! あの食事は! 騙された気がするぞ! アホウ、アホウってひどすぎないかあ!」


 今まで溜め込んだ不満を色々叫んでいきます。思っていた待遇と違い過ぎます。騙された感じがすごいです。


「ふざけるなあ!!」


 叫びまくっているうちにスッと気持ちが鎮まってきました。


 いや、動物と触れ合えるなんて、よかったんじゃないかな? めったに体験できない事だよ。いいじゃないか、ネズミ風呂でも。ネズミ、可愛かったよ。

 ハハッ、食事も美味しかったんならいいんじゃないかな。贅沢言っちゃいけないよね。別にこれから異世界の美味しいものは食べられるだろ。

 うん、アホウもさ、別に気にする事はないよね。アホウって言われても気にしなければいいんだよ。アハハ、アホウぐらいなんだよ。アホウ、アホウって、アホウが、アホウの、ア・ホ・ウ……


「気にするわっー!! 腹立わっー!!」


 再び湧き上がってきた怒りが、口をついて出ます。浴場の空気を震わせワーンと声が反響しました。


 ハッとします。この穴は危険です。


 不満を吸い込んでくれる穴──とても良いもののように思えましたが、何かが危険です。


 これ、ヤバくないか? 何でもかんでも叫べばいいってもんじゃなさそうだぞ。


 具体的に何がどうこうとは言えませんが、穴に対する疑問が芽生えたのでした。


 立ち上がるとスッと穴は消えました。1、2、3歩、歩きます。


 あんれー? 何か思ったけど、何だっけ?


 何か重要な事を思ったような気がしましたが、どうでもよくなりました。


 フフッ、アホウぐらい気にしゃいけないよね~。叫んでたら、体が冷えちゃったよ。


 スッキリした気持ちで、また浴場の豪華な湯船に浸かり直しました。





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