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穴に向かって叫ぶ!  作者: マタゼロ
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☆17話 夕食をいただきました



 

 「まったく、とんでもないにゃー!」


 食堂にクロディーネちゃんの可愛いにゃんにゃん声が響きます。でも、とても不機嫌そうです。


 顎に一発くらって気を失った後、キャシーが回復させてくれたようです。また、悪意のこもった清らかな光を浴びたような気がします。


 とても怒っていたクロディーネちゃんを、ミィがなだめて一緒に夕飯を食べる事になりました。


 食堂のテーブルは、20人位は座れそうな無駄に長いものでした。端と端に座ったのでは話が出来ないだろうと、ミィが気をきかせてクロディーネちゃんの隣に席を用意してくれました。


 「ホント、あれはないにゃー」


 右の上の方からプリプリした声が聞こえます。クロディーネちゃんは豪華な椅子にクッションを重ねてその上に座っていました。


 「いや、あれはわたしもわざとじゃないというか、不可抗力というか」


 「黙るにゃ!言い訳よりあやまるにゃ。驚かせた事を心から謝るにゃ」


 クロディーネちゃんが、こちらを見下ろして怒ります。ポンポンと左前足の肉球で豪華な椅子のひじ掛けをたたきました。


 「アホウでしたと謝ったらいかがかしら、ご主人様?」


 クロディーネちゃんの脇に立った、キャシーが蔑みを込めた目でにらんできます。


 ここは仕方ありません。意図した事ではありませんが、素直に謝った方がいいでしょう。


 「すみません。アホウでした」


 「そうにゃ。素直に謝れば許すにゃ。アホウにゃ。アホウのする事にゃ」


 クロディーネちゃんに頭を下げると、クロディーネちゃんは満足そうに頷いて前を向きました。


 マタゼロの立場は非常に弱いものと自覚せずにはいられません。


 なんで、ミカン箱なの?これ、ゴザだよね?ゴザに座る奴なんて時代劇位でしか見たことないよ。奉行所のお白洲で裁かれる罪人だよ。


 ミィがクロディーネちゃんの隣に用意してくれた席は、ミカン箱とゴザでした。普通に隣に腰かけさせてくれればいいものを、この扱いです。

 箱のミカンの絵と『みかん』の文字が目にしみます。心あたりがありすぎるだけに、こんな物を調達してくれたのは誰かと考えてはいけないでしょう。


 「では、そろそろお食事をご用意してよろしいでしょうか?」


 キャシーがにっこりと笑顔でクロディーネちゃんに尋ねます。


 「頼むにゃ」


 クロディーネちゃんが頷くと、キャシーがどこからか皿を取り出しました。


 「にんじんのムースとブロッコリー、舌平目のスフレ、コンソメジュレがけでございます」


 そう言って、クロディーネちゃんの前に皿を置きます。


 「いただくにゃー。」


 クロディーネちゃんが嬉しそうに言って、並べられたカトラリーからフォークを器用に掴んで食べ始めます。


 「きゅうりとなすのぬか漬け、そのままでございます」


 嗄れた声と共に、トンと皿が置かれます。脇に立っていたミィからの配膳です。皿にはぬかを洗い落としてない、きゅうりとなすが一本ずつ載っています。愕然としていると、またキャシーのハスキーな声がしました。クロディーネちゃんの前にスープ皿が置かれます。


 「牡蠣やレレレエビなどの新鮮な魚介類をつかったブイヤベーススープでございます。」


 レレレエビは聞いた事がありませんが、何か美味しそうです。


 「ワカメの合わせ味噌汁10袋入り、ワカメほんの少しでございます」


 クロディーネちゃんの方に気をられていると、トンと朱塗りのお椀が前に置かれます。


 「美味しいにゃ~。いいだしがでてるにゃ」


 今度はスープスープンで飲み始めます。クロディーネちゃんの食べるスピードは早いです。猫なのに猫舌ではなさそうです。そうでした。そもそも普通の猫とは違いました。


 「メデータイギョとポワンの実のゾラタン仕立て、フレッシュドメイトソースでございます」


 何だか耳慣れない名前の料理が、クロディーネちゃんの前に置かれます。


 「高級家畜米のカツオぶしのせでございます」


 何だか耳慣れたものが載った、人用ではないご飯のどんぶりが置かれます。


 「仔メエダ背肉のグリルとサイボンフィレ肉のロースト、キラキラソースがけでございます」


 何だかよく分からないなりに、美味しそうな物がクロディーネちゃんの方に置かれている気がします。


 「薄切りロースハムとマヨネーズ、醤油がけでございます」


 ミィがどんぶりのカツオぶしの上に薄いロースハムを一枚のせて、どこからか取り出したマヨネーズのチューブを絞ります。

 醤油さしを取り出して、その上に醤油をたらしました。

 ロースハムの上に人らしき顔と、直ぐ下に『アホウ』の文字。滴らせた醤油が血塗れの感じを出しています。チューブから絞り出したマヨネーズをグルグルさせず、真っ直ぐな線を描けるとは熟練の職人技です。見事です。


 いえ、違います。いくらマヨネーズで器用な腕前を見せても、感心してはいけませんでした。


 「オリンボウズバニャニャームースのワイルドグランドベリーソースがけ、生クリーム添えでございます」


 「種無し干しうめでございます」


 これはひどい格差ではないでしょうか。小皿に載せられた干しうめ一粒を見ます。


 「ゼータック帝国産ゼータックコーヒーでございます」


 「番茶でございます」


 キャシーの声の後にミィの声が続きます。


 あんれー。コーヒーとか聞こえたぞ。この世界コーヒーあるの?猫にコーヒー?いや、なぜこちらには番茶なんだ。


 前に置かれた湯呑みからはホカホカと湯気がたっています。

 ミカン箱に置かれた料理(?)はひどい気がします。一体誰がこんなメニューを思いついたのでしょうか。まったく、普段食べてる食事の質が分かるようなひどさです。


 「……ミィさんや、これがわたしの食事なのかな?」


 「はい。贅沢すぎましたか?マヨネーズはもっと少なめでよろしかったでしょうか?どうしても文字は外せないと思いましたので、余計に使ってしまいました」


 ミィの返事にどんぶりの上の『アホウ』の文字を見ます。悟りました。これはミィも怒っているのです。驚かせた事を怒っているに違いありません。ロースハムの上の力作、血濡れた感じの人の顔が物語っています。


 しっ、仕方ないよね~。わざとじゃないけど、驚かしたのはホントだもんね。


 今回は文句を言うのを止めました。キャシー、ミィ、クロディーネちゃんとメンバーを見れば言うだけ無駄です。さらに待遇が悪くなる危険もあります。順番に食堂にいる者を見て、ハッとしました。


 「あれ?リラがいないけど、どうしたの?」


 あの大きな体を見落とすとは、動揺していたようです。


 「リラはジュリアスくんのお食事の給仕にいっております。ジュリアスくんは別棟に住まわれているので、そこに伺っております」


 「えっ、ジュリアスくんて山に住んでるんじゃないの?」


 門の前で別れた時に、山に入っていくジュリアスくんを見ていたので、てっきり山に住んでいると思っていました。


 「違います。普段は山の見回りをしてくださっておりますが、このお屋敷の敷地内の別棟にお住まいです。神獣ですから、野の獣とは違いますよ。女神様の所にいた高貴なお方です」


 ミィの説明でジュリアスくんが、この屋敷の敷地内にいる事が分かりました。結構、広い敷地だと思ったので、後で見て回ろうと思います。


 「そうなのか。あっ、じゃあクロディーネちゃんも?」


 ふと思いついてクロディーネちゃんの方を窺います。


 「そうにゃ、女神様から、おまえの側にいろとここの敷地内に住まいの別棟をいただいたにゃ。ジュリのやつは前から住んでるけど、わたしはここに来たばかりにゃ。なんで側にいろと言われたか、今回の件でよくわかったにゃ。アホウの見張りにゃ」


 クロディーネちゃんは右の前足でティーカップを持つとコーヒーらしきものを飲んでます。器用です。あの肉球は不思議肉球です。


 見張り?そこは助けるためとか、お手伝いじゃないの?


 湧いた疑問を押さえ込みます。そんな事を言っても無駄だと分かってきています。


 「にゃ~。美味しかったにゃ。ごちそうさまにゃ。」


 トンとティーカップをテーブルの上に置くとクロディーネちゃんはクッションの上に立ち上がりました。椅子からひじ掛けを越えて、ヒラリと床の上に飛び降ります。


 「まあ、これからよろしくたのむにゃー。迷惑かけたら、しめるにゃー」


 こちらを見てそう言うと、尻尾をフリフリ去っていきます。


 「失礼いたします。ご主人様」


 頭を軽く下げ、キャシーも蔑んだ視線の一瞥をくれて去っていきます。

 ミィと二人で残されました。


 「お召し上がりになられないのですか?ご主人様」


 去っていく二人の姿を目で追っていると、嗄れた声がかかりました。


 「いや、いただくよ」


 マタゼロは貧乏症です。食べ物を無駄にはしません。手を胸の前で合わせます。


 「スキル発動『すすぎあんど輪切り』」


 ぬか漬けがピカリと光り、ぬかが落ちて輪切りになりました。前に置かれたフォークを手で持ちます。きゅうりに刺すと口に運びました。


 美味しいです。いい漬かり具合です。いい色味を見せるなすも食べます。どんぶりものもいただきます。カツオぶしはどうかと思いましたが、ロースハムとマヨネーズと醤油は合います。

 お腹が空いていたので、ちょっとパサついた食感の高級家畜米も問題なく食べられました。空腹は最高の調味料です。干しうめを食べながら、番茶を飲みます。うめとお茶は合います。定番でしょう。


 「ごちそうさまでした」


 お茶を飲み干して、ミカン箱の上にトンと湯呑みを置きました。どうかと思う料理(?)でしたが、問題なく美味しく食べられて自分の貧乏舌に感謝しました。

 異世界でなんでこんな食事なんだとかは、今はいいません。ゴザに座り、ミカン箱に置かれた食事をとる『王』ってなんだとかは、今はいいません。






 長く更新が止まっていて、申し訳ありませんでした。本日は5話、投稿します。他の作品も書きながら、少しずつ、固まり投稿していこうと思ってます。区切りまで考えましたが、少し長めの話になりそうです。時間がかかりそうなので、もし、よければ完結がついてからでも、まとめてゆっくりお読みいただければと思います。

 ジャンルに文芸コメディがあるのが目にとまりました。これ、もしかするとそっちの作品ではないかと気づいてしまいました。ハイ、ファンタジーだと言い逃れられるように、もう少しそれっぽくしていこうと思っています。でも、やっぱりおかしくなるかもしれません。ジャンル詐欺かも知れませんが、許していただければと思います。

 こんな話で m(_ _)m

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