☆16話 キャシーが来ました
「一体、どうしたの?!」
手鏡を握りしめたまま、腰を抜かしていると、ホールにハスキーな声が響きました。
「まあ!クロディーネちゃん!」
銀髪の綺麗なオネエさんが、仰向けにひっくり返っているクロディーネちゃんに走り寄ります。いえ、キャサリンことキャシーでした。悲鳴を聞いて、ホールまで来たのでしょう。
しゃがんで、気を失ってるらしいクロディーネちゃんの顔を撫でます。大丈夫な事を確かめるとこちらの方を向きました。
バッチリ深い緑色の目と視線が合いました。 まつ毛の長い切れ長の目です。美しいです。でも、男です。トキメいてはいけません。こちらとは相容れない何かを隠し持っているはずです!
「なんと、邪悪な!血濡れ怪人か!」
叫ぶ声がグッと低くなりました。男の、見た目通りの年齢の若い青年の声です。
立ち上がると胸の前で手を組みました。祈るようなポーズです。
「いと高き処におわす聖なる方よ。至高の御身に宿したる力を、その慈悲を持ちて矮小なる我が身に分け与えよ。邪悪なる存在を滅する力を我は乞う」
朗々とした声が言葉を紡いでいきます。聞いてる内に、と~っても不味い気がしてきました。
あんれ~。邪悪な存在ってわたしかな?もしかして、ヤろうとしてないか?!
胸の前に組まれた手がほどかれ、両手の平がこちらに向けて突き出されます。手の平で強い光が収束すると、光輝く玉になりました。こちらに向けて発射されます。
「穢れしものよ!滅びよ!『邪滅光』!」
「スキル発動!『反射鏡』!」
慌てて体を起こすと、手鏡を持った右手を前に出しました。右の膝を立て、左足と左手を後方に流した華麗な形です。
テニスのボレーのように光を鏡で受けます。打ち返った光は、キャシーの体に当たると何事もなく消えました。本人には無効の光の玉のようです。
「くっ、打ち返しただと?!生意気な!」
キャシーの顔が怒りで歪みます。
「素直にヤられろ!『邪滅光』!」
今度は片手での光の玉の発射です。
「ヤられてたまるか!『反射鏡』!」
立ち上がり、鏡をラケットのようにして光を打ち返します。今度は光はキャシーの後ろの壁に当たって消えました。もしかしたら、当たっても平気な光なのかも知れませんが、そんな冒険は出来ません。万が一を考えると怖すぎます。
「この!素直にヤられろって言ってるだろうがっ!」
キャシーの声がさらに低くなり、野太いドスの効いたものになりました。怖いです。
両手を交互に出して、光の玉を連射し始めました。
「ヤられろ!」「ヤられろ!」「ヤられろ!」
「イヤ!」「ダメ!」「ヤメテ!」
のけ反り、横飛び、回転しながら、鏡を振って光の玉を打ち返していきます。説得したくても、うまく話す事が出来ません。
必死です。必死によけ続けます。攻撃は苛烈さを増していきます。
「やめるだよ!ご主人様だべー!」
腰の抜けてたリラが立ち上がって、手を広げて前に立ちはだかってくれました。
リラの体に幾つか光の玉が当たって消えていきます。
「そうです。滅したくなるほど気持ち悪いですが、ご主人様なんですよ。このアホウの顔をよく見なさい」
やれやれといった感じで、ミィも立ち上がりました。
「……えっ、アホウ?」
光の玉の乱射が止まります。キャシーが怒りに歪んだ表情を戻すと、こちらを窺うように見つめてきました。
息を弾ませながら、リラの後ろから顔をそっと出します。目が合ったので、『わたしだよ』の意味を込めた笑顔で自分アピールです。
ゴクッと息を飲む気配がしました。
「アホウ……。アホウだわ。この貧相なアホウ面はアホウだわ」
愕然とした表情を浮かべた後に、両腕を胸の前で交差して組むとこちらを睨んできます。視線に蔑みが混じってます。
「どうしてそんな血濡れなのかしら?ご主人様」
声は高めのハスキーなものに戻っていますが、口調は優しくありません。
「なっなんていうか……手違い?」
先程の攻防で乱れた息を整えながら、やっとの思いで答えます。
「リラ、どいてちょうだい」
ハァと大きなため息を一つ吐いて、ハスキーな声をリラにかけました。リラがどくと、また両手を祈るように胸の前で組みます。
「光増します、いと高き方よ。清浄なる息吹きを我に分け与えよ。穢れしものを清める力を我は乞う。血濡れの不気味なおぞましくて気持ち悪いもう見るだけで吐き気がする生きてる価値も分からないカビの方がまだ役立つアホウ面のあの生物を清めよ!『清浄光』!死ねばいいのに」
両手の平が前に突き出されます。今度はフワッとした白い光の玉が収束して、発射されました。フワリと当たった玉は、弾けて全身を包み込むように広がります。光が収まると、皆の気配がホっとしたものになりました。
自分の服を見ると綺麗な緑になっています。汚れも血も落ちてスッキリ綺麗になっています。悪意のこもった清らかな光でしたね。
なんだか詠唱がかなり気になる内容でしたが、ここは素直にお礼を言った方がいいでしょう。
「ありがとう。キャシー」
「ふっざけるにゃー!!」
ニッコリ笑顔を浮かべる前に、飛んで来た黒い固まりに顎を蹴りあげられました。
「アガァッ!」
体が吹き飛びます。両後ろ足を使った、いい位置に決まった一撃でした。
──意識が途切れました。
〈お詫び〉
だいぶ遅れて、深夜投稿になってしまいました。すみません。遅れた上に、このような事を書くのは恐縮なのですが、更新をしばらくお休みさせて頂きます。だいぶ、回りもバタバタしてきて執筆時間が取りづらくなってきました。片付けないといけない事もありまして……。この機に少し書きためてから、更新を再開しようと思います。頑張って毎日更新しようとしたんですが、無理でした。ごめんなさい。この話はちゃんと区切りをつけるつもりでいます。
しばらくお休みします。m(_ _)m




