☆15話 クロディーネちゃん?
鏡の中の自分の顔をよく見ます。
うわあ、気持ち悪!これ、どんな生き物だよ。
長く見てはいけない顔のような気がします。特に目玉が白いのがいけません。こんな色でよく物が見えています。
んっ?でも、ファンタジーって、赤や金や銀の目とかでてくるから、見えてていいのか?そう言えば歌って踊るイケメン達に囲まれた、薄気味悪い目の女の子をどこかで見たことがあるような気がするな。
「ニャー!気持ち悪いものがいるにゃあ!」
鏡の中の自分をじっと見ていると、かん高い声が響きました。
声のした方に顔を向けると、そこには真っ黒な猫がいました。
側の絨毯の上で、全身の毛を膨らませています。首もとには背の方で結ばれた赤いリボン、顎の下にはリボンに通されたキラキラした虹色の鈴のようなものがぶら下がっています。よく見ると、額にはハート形の白い模様がありました。
「にゃ、にゃ、にゃ、気持ち悪い間抜け面の生き物にゃ」
そう言いながら、顔を上下に動かして確かめるようにこちらを見てきます。
「にゃ!おまえがマタゼロアホウ王かにゃ!」
黒猫が驚いたように、体を一歩後退させます。
自己紹介いりませんでした。顔が名刺がわりになっているようです。 何かが釈然としません。ちょっと不快感を感じてしまいます。
「クロディーネちゃん?」
初めて会いますが、たぶんそうだろうと名前を呼びかけてみました。とたんに臭いものでも嗅いだように、嫌な顔をされます。しかめた顔から小さな牙が覗いています。
「ニャー!名前を呼ばれてこんなおぞましい気持ちになったのは、初めてにゃ。アホウにゃ。全身に『漂白』かけてるアホウに名前を呼ばれたにゃ。アホウが移りそうな気がするにゃ」
高い可愛い声ですが、言ってる事はひどいです。好きでやっているとでも思われたのでしょうか。誤解は解いた方がいいですね。
「あーっ、この状態は狙ってやった訳じゃないんだよ。たまたま、こうなったというか、予想外というか、ちょっとした手違いでね。どうしよかな~なんて、ハハッ」
「手違いかにゃ?アホウが好きでやった訳じゃなく、アホウがアホウだからそうにゃったのかにゃ?」
笑って言うと、クロディーネちゃんの視線は呆れたようなものになりました。やっぱり、言ってる事はひどい気がします。
「元に戻れるにゃら、戻りたいかにゃ?」
「えっ、そりゃあ戻りたいよね。」
疑わしそうな目での質問に、速攻で答えます。本当に好きでなったわけじゃない、白人間です。
このままじゃ困るよね。これ、白い壁の前に立ったら同化するよ。んっ?闇夜では浮き上がるのか?もしかして実は面白い?
「戻りたいにゃら、戻してやってもいいにゃ」
むずっとした感情が芽生えたところで、クロディーネちゃんの声がかかります。
「ぜひ、お願いしますだ。おら、焼いた魚の目をしたご主人様は嫌すぎるだ。近寄られたら殴り飛ばしそうだべ」
「わたしからもお願い致します。真っ白なお顔に『アホウ』と書きたくなって、手が震えます」
クロディーネちゃんの言葉に、側にいたリラとミィがすぐに反応します。このままでいいかもなんて思ってはいけませんでした。殴り飛ばされ、顔に『アホウ』と書かれてしまいます。
「……あーっ、戻せるならお願いしてもいいかな」
女神様の所から来た猫です。不思議な力があってもおかしくありません。戻せる手段があるのでしょう。
「わかったにゃ。まかせるにゃ」
クロディーネちゃんは一つ頷くと、後ろ足で立ち上がりました。
「ニャン♪ニャン♪ニャン♪」
右側を向くと前足を揃えて、クイクイと猫招きのように動かします。
「ニャン♪ニャン♪ニャン♪」
今度は左側に向きます。しなやかな前足の動きです。
「ニャ♪ニャ♪ニ♪ャニャ♪」
今度は後ろを向いて、腰に前足を当ててお尻を振ります。可愛くお尻が左右に振られ、尻尾もお尻とは逆の方向に振られます。
「みんニャー!わたしを見てニャー!」
クロディーネちゃんは前を向き、そう叫びます。顎に前足を逆ハの字に添えて、可愛く首をかしげます。膝に両前足を置いて可愛くウインク。両前足を口元に当てたと思ったら、前方に投げ出し投げキッスのような仕草。次々と可愛く見えるポーズを決めていきます。ポーズを決める度に、胸元の鈴の輝きが増していきます。
「ありがとうニャー!もう十分ニャー!」
宙に叫んだクロディーネちゃんが右前足を振ります。鈴が変化して飛んでいきました。右前足に、虹色に輝く猫の顔形の石がついた短いバトンがくっつきました。
「愚かなアホウを救うニャー!『ニャニャンノニャ♪ニャニャリンリン♪』」
バトンがグルグルと振られます。
軽快な呪文のような言葉が唱えられ、リンリンと鈴の音のようなものが鳴ります。
「『漂白』がかけられる前の状態に戻すニャー!『時戻し』!」
バトンがこちらに突き出され、光が放射されます。真っ白な体に強い光が降り注ぎました。
「ギニャー!」
「ギャゴッホ!」
「ヒィィィ!」
光が収まったとたん、玄関ホールに大きな悲鳴が響き渡りました。クロディーネちゃんは仰向けにひっくり返り、メイド達は床に腰をつけています。
えっ、どうしたのさ?何がおこったの?
疑問に思って手元の鏡を見ると、そこには血塗れの不気味生物がいました。
「ウンギャー!!」
自分も悲鳴をあげて腰を抜かしました。
──『時戻し』いい状態に戻してくれました。インパクトありすぎです。
あざとくても、猫ならいいです。可愛いです




