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穴に向かって叫ぶ!  作者: マタゼロ
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☆13話 スコップは……



 ジュリアスくんに言われて、回りをちゃんと見渡してみます。確かに色々な植物があるようです。額に右手の指を二本揃えて当てます。

拳から人指し指と中指を立てて爪側が額に当たるように平の方が外を向いた形です。


 「スキル発動!『鑑定』!」


 スゴイガンバル草(高級・高品質)・体力を回復し、傷を癒す。『ファイト、一発!』と叫びたくなる。上級回復薬の材料


 スゴイマホボン草(高級・高品質)・魔力をとっても回復させる。爆発はしない。上級魔力回復薬の材料


 スゴイナオッチャウ草(高級・高品質)・疾病に効く。大抵の病気を治す。頭の病気は治せない。上級疾病薬の材料


 スゴイドクケシ草(高級・高品質)・毒を消す。大抵の毒を無効にする。毒舌には効かない。上級解毒薬の材料


 モノスゴイハリキリ草(最高級・高品質)・精力が増大する。昔、過疎村のジサンバサン村で使用され人口が爆発的に増加し、町にまで発展した逸話がある。使用量は要注意。幻の最高級精力剤の材料


 「おおおおお~!」


 回りの生えている草を見ていくと、目の前にテロップのような文字が浮かびます。スゴイです!ざっと見ただけでもスゴイ草ばかりです。胸熱です。スコップを収納から取りだし、ウキウキと一歩を踏み出すとクラリと目眩(めまい)がしました。


 「フニャラ~」


 「おい、大丈夫か」


 手からスコップが落ち、フラフラと地面に膝を突くと、ジュリアスくんの心配そうな声がかかります。これは貧血ですね。考えてみれば、あれだけの大量出血です。よくハイファンタジーで〈傷は治せても流した血は元に戻らない〉という不親切設定になっているのを忘れていました。


 「スキル発動!『増血』!フンガッ!」


 両膝を地面に突いたまま、頭に両手のひらを当てて叫びます。とたんに頭がカッと熱くなりました。両方の鼻の穴から鼻血が吹き出ます。勢いよく吹き出たのは一瞬で、その後はダラダラと流れ落ちていきます。

 少しして、鼻血は止まりました。


 ──いやいや、血を増やし過ぎたね。ああ~。また服が汚れちゃったよ。


 服を見ると、白くなったジャージに二筋の血の流れた跡と点々とした血しぶきの跡ががついています。吹き出たせいでしょう。太股の方にも点々と血しぶきの跡がついてました。白地に赤の跡が鮮やかです。出たばかりの血の色ですね。これはいけません。膝を突いたまま、両腕をハの字に広げます。同じ失敗はしません!


 「スキル発動!『洗浄』!ブワウッ!」


 叫んだとたん、大量の泡が全身を覆います。泡は体の表面を、シャワシャワと揉み込むように動いてます。水流のようなものも体の回りに起こります。息が出来ません。苦しいです。もがいていると、水がサバンと頭からかけられる感じがして終わりました。


 ヨレヨレと地面に倒れ込むように、両手をつきます。四つんばいになって、ハアハアと息をしました。死ななかったです。危ないところでした。気軽に風呂がわりに洗浄をかけていた話を読んだ事があったので使ってみましたが、この世界の洗浄は危険です。


 「……驚かない。驚かないぞ。ぼくは驚かないと決めたんだ……」


 低い声が聞こえてそちらを見ると、箱座りしたジュリアスくんが地面を見つめています。グルグルと喉を鳴らしながら、呟いています。見つめていると、顔を上げたジュリアスくんと目が合いました。鼻に寄っていた皺が一瞬で消えます。


 「面白い魔法の使い方だったね。生活魔法の『洗浄』だよね。全身に使って溺れかける奴なんて、初めて見させて貰ったよ。どうして、魔法を使うのにポーズを取ったり、『スキル発動』とか叫ぶのさ」


 ジュリアスくんに落ち着いた声で質問されました。


 「ああ、魔法なら、『魔法発動』と叫んだ方がいいって事かな。でもどんなものでも『スキル発動』と叫ぶ事に決めたんだ。何を叫ぶか迷うのも大変だと思ったのさ。ポーズと技名を叫ぶのはわたしの世界ではお約束なんだよ。無詠唱スキルを持ってるから、ホントは必要ないんだけどね」


 「そうなんだ。まともな詠唱を唱えている奴が聞いたら怒りそうだけど、確かに何か使うのが事前に分かれば、回りに覚悟ができるよね。

 あっ、そう言えば他にもおかしな詠唱して、魔法を使うのが身近にいたよ。忘れてた。うん、こういうのは慣れだね。慣れれば何とも思わなくなる例があったよ」


 話している内にジュリアスくんの声が明るくなります。何かがふっきれたのか、晴れやかな雰囲気が伝わってきます。


 「ほら、早く採取しなよ。日が暮れちゃうよ」


 右の前足で近くの草を示すと、ジュリアスくんがそう促してきます。そうです。採取に来たのでした。落ちていたスコップを拾うと、目についたスゴイガンバル草の根本を掘ります。


 「あっ、根は残してよ。根が残ってれば、またすぐに生えてくるからね。根本の近くから刈り取るんだよ。特別な場合以外は、貴重な薬草の根は残すのが、当たり前だよね」


 ジュリアスくんの言葉に、草を掘りおこそうとした手が止まります。知りませんでした。


 なぜ、スコップを持たせた?スコップあったら掘ろうと思っちゃうだろ!


 もの凄い憤りを感じながら、スコップを収納にしまいました。


 「スキル発動!『手刀』!」


 右手を前に突きだし叫びます。草の上部を左手で掴んで、右手の平の脇で根本の方からザクザク刈っていきます。刈った草は収納にどんどん放り込みます。スコップ、まるで要りません。自分の力だけで十分でした。


 「うまく採取出来そうだね。ここでボーッと見てるだけなのも暇だから、果物とか取ってこようかな。一人でも大丈夫?」


 草を刈り取る手を止めて、箱座りしたジュリアスくんの方を見ます。


 「……ここは魔物とかいないのかな。凶暴な動物とか……」


 おそるおそる尋ねると、ジュリアスくんが首を傾げます。


 「神山だから、魔物はいないけど、虎とか熊とか竜とかミニ〇ジラとかヤバスギドンとか肉食系のはいるね。

 こんなアホそうなの誰も食べないと思うけど、お腹が空きすぎてうっかり食べようとする奴もいないとは言い切れないよね」


 そう言った後、ジュリアスくんは腰を起こすと四つ足で、側に近寄ってきます。正面まで来るとクルリと背を向けて、尻尾でバシバシとマタゼロを叩き始めました。


 フサフサとした大きな尻尾です。右によろめき、左によろめき──数度左右によろめいたところで、叩く尻尾の動きが止まり、ジュリアスくんがこちらを向きました。


 「ぼくの匂いと毛を付けたから大丈夫だよ。多少血迷った奴でも、この神山でぼくのものに手を出すやつはいないからね。結界を張る必要もないね」


 自分の服を見ると、銀色の毛が何本か付いています。フフンと自慢げに鼻を鳴らすジュリアスくんを見ました。


 女神様のところから来たんだよね?この大きさ。普通の狼とは違う綺麗な銀色の毛並み。喋る知性もある──まっまさか!


 「ジュリアスくんて、もしかして『フェンリル』なの?」


 思い至ったことを勢い込んで口にすると、ジュリアスくんが後ろ足で立ち上がりました。


 「やめてよね。そういうの。」


 両方の前足を広げ、肘から上を曲げて持ち上げます。器用に裏返った足の先がピンクの肉球を見せました。左右に首が振られます。欧米人がよくやる、呆れたポーズです。


 「あんな子に間違えるなんて、やめてよね」


 ジュリアスくんの嫌そうな声が、辺りに響きました。




鼻血はブーッかな、と少し迷いました。

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