☆11話 食費って……
「まずは、庶民の一食にかける値段でございますね。これは自給自足して、まるでかけない者から、そこそこかける者まで、色々です。
一ヶ月の生活費としては、驚愕するような技を駆使して一万ゼニアで済ますものも入れば、そこそこかけるものまで様々でございますね」
ミィの顔をジッと見つめました。リラの膝の上で、すまして座っているミィと目を合わせます。
「……その、色々や様々の平均──普通はどのくらいかを知りたいんだよ!」
「おや、まあ。そうでございましたか。アホウにも分かる、ざっくりとした説明をさせていただいたつもりだったのですがね。
そうですね。『ウエーストネ王国』の場合、一食は庶民の食堂で、500ゼニア前後でございましょうか。自炊は当然もっと安くなります。
生活費としては家持ちなら、一人5万ゼニア前後でもやっていけますかね。家族構成や事情によって、必要な経費も変わってまいります。
僻地や王都で物価は変わりますし、国によっても違ってまいります。 ご主人様の場合、このお屋敷の諸経費とご自分の生活費を考えればよろしいのではないかと思いますが?」
「……」
何でしょうか。あの愚か者を見るような憐れみのまなざしは……。正論らしい事を言われた敗北感とともに行き場のない憤りを押さえ込みます。
「うん、じゃあ、それを教えてくれる?」
「フウ、ではリラさん、あの表を出して下さいな」
やれやれ、と言うように首を振るミィが憎たらしいです。
リラがミィの頭の上に何やら書かれた紙を広げます。模造紙の4分の1程度の大きさの紙です。
「上の紙に内訳が書いてありますが、屋敷の照明、空調、結界用などに消費する魔石が35万ゼニア、温泉用が10万ゼニア、卵用のコッコケタ鳥とミルク用のチチボン牛と伝書用のヤダカラスの餌代が15万ゼニア、番狼のジュリアスくんと使い魔の黒猫、クロディーネちゃんのお食事代が20万ゼニア、ご主人様のエ……いえ、お食事代が2万8000ゼニア、わたし達の休憩用のおやつ代が8万4000ゼニア、洗剤などその他諸々の雑費が4万8000ゼニア、予備費として4万ゼニア、以上で100万ゼニア、1白金貨でございますね。
ざっくりとした概算ですが、一ヶ月の必要経費を出させていただきました。」
早口でされた説明に表情が固まります。満載です。突っ込みどころが満載です。
無理矢理100万ゼニアと言う、切りのいい金額にされている気がします。知らない動物がいっぱいいます。でもまずは一番気になった事から突っ込むべきでしょう。
「……あのさ、わたしの食費なんだけどさ」
「あっ、多すぎましたか?一日3食1000ゼニアで考えたんですけれど」
「そんなわけないだろ!なぜわたしの食事代が、一食333.333333……」
なっなんと割り切れません!
333333『散々さ散々さ』と永遠に続いてしまいます。無理!これが無理数というやつかと驚愕しますが、そんな訳ありませんでした。
「……なぜ、わたしの一日の食事代が一食につき333と3分の1ゼニアなんだ?」
「1000ゼニアだからです」
割り切れて、これで話を有利に進められると思ったマタゼロの疑問に、ミィが速攻で答えます。正解です。
うんうん、1000ゼニアを3で割ったんだものね。そうなるよね。
頷きかけたマタゼロはハッとします。
ちっが~う!違う!そうじゃない。
「なぜ、わたしの食事代が、動物のエサ代より下なんだ?休憩用のおやつ代より予算が割かれてないぞ!」
危うくごまかされるところでした。聞きたかった事を尋ねます。
「役立たずだからですかね?ご主人様は今のところ無職。
家畜達はいい卵やお乳のために、ヤダカラスは遠くまで飛んでいく体力維持のためにそれなりの餌が必要です。
狼のジュリアスくんはお屋敷を守るために、頑張って周辺を見張ってますし、猫のクロディーネちゃんは可愛いだけでなく、とってもお役に立つんですよ。お二方とも女神様のところにおられた方々なので、とても舌が肥えてるんです。お食事の質は落とせません。
お屋敷の必要経費を出すのに削れるところは削りました。
もっと食事の予算が欲しければ、ご自分で稼いで上乗せして下さい。 ご主人様がお屋敷でお食事をされる場合を考えて食事代を一応入れましたけど、この概算は、ご主人様の生活費は考えてません。
ご自分の希望される水準の生活費をお入れ下さいませ。予算があれば、その様にさせていただきます」
おおうっ、ミィの淡々とした早口攻撃です。
知らない動物達の存在が確定しました。家畜やカラスだけでなく、女神様から派遣された狼と猫がいるようです。マタゼロのとっても弱い立場も判明しました。
「で、でもさ、入れてくれたわたしの食費の予算は、君たちのおやつ代より下に考えられてるよね。わたしが入れるお金だろ?」
無駄なあがきと知りながら、粘ってみます。マタゼロの言葉にミィの眉がピクリとはねあがりました。
「はっ?下?何をおっしゃいますか。一人一日1000ゼニアで同じでございましょう」
「あっ、そうか、三人だものね。同じか。んっ、でもおやつ代と食事代が同じ?」
納得しかけて、首を捻ったマタゼロをミィがあきれたような目で見ます。
「ご主人様、おやつ代より、もっと気になさる事がございましょう」
「えっ、もっと気になる事?」
「わたくし達、メイドのお給金やお屋敷での生活費が入ってないと思われませんでした?使用人をタダでこき使えると思っておられましたか?」
ミィに言われてハッとします。そうです。人を使うにはお給金などがいるのです。
「そっそれは……」
「ご安心下さいませ。わたし達メイドは女神様に雇われております。女神様からお給金をいただいており、『アホウに仕えよ』とのお言葉を承っております。
何とご主人様はタダでメイドを使えるのですよ。良かったですね」
「そっそうか」
ホッと頷いたところで、疑問が再び湧いてきます。
うん?生活費は別としても、お金はこれからわたしが稼いで入れるんだよね?必要経費を増やせばよくないか?わたしの食費を削った?予備費に4万取られてるよ?雑費だって怪しいよね。最初からこの食費の予算を決めて、全部で100万ゼニアになるようにしてないか?メイドの給金だって、女神様がつけてくれるって言ったんだよね。払う必要とかないよね。考えなくていい事だったんじゃないの?
ゼニアとかの異世界単位でごまかされるとこだったけど、100万ゼニアって結構な金額だよね。家を貰ったけど、これ貰ったと言えるのか?お金かかりすぎないか?
『考えたら負けだよ』どこからか声が聞こえます。
「はあ?!考えないと負けだろうが!この場合は」
思わず、宙に向かって叫んでしまいます。
「ご主人様、どうかなさいましたか」
訝しげなミィの声がかかって、ハッと我にかえりました。
「いっいや、なんでもないよ。ところでさ、この概算なんだけど」
「あっ、ご主人様にお勧めしようと思ってた事を思い出しました。
明日は冒険者ギルドへ行かれるんですよね。今からでも山で薬草などを採取なさっておけば、明日ギルドで売れますよ。
なにしろご主人様は1ゼニアも持ってない貧乏人でございますからね。少しでも働かないといけませんよね。
お任せ下さいませ。すぐに準備して、送り出させていただきます」
マタゼロはスコップを片手に、門の外にたたずんでいました。
──負けです。




