少年と猫
楽曲制作や物書きをしてしっぽりと生きています。
レゴジャンことregolith junctionです。
入道雲と晴天のコントラストが美しい空。そんな空の下には果てしなく続く荒野。荒野に伸びる一本のまっすぐな道。
地平線まで伸びるその大きくて長い道をひた走るバイクが一台。バイクに跨っているのはライダーズキャップに風よけのゴーグルをかけた小柄な少年。ひらひらと風を受けてロングジャンバーが背中で揺れている。
そして、お供には猫一匹。少年と旅をするその三毛猫は揺れる振動を体に受け、心地よさそうに荷台に積まれたカバンの中で丸くなっている。一人と一匹はひたすら荒野の道路を風を切ってどこまでも走る。
それが日課。当てもなく進む。どこまでも。
前日のキャンプ地を離れ暫く。ひたすら走った先にぽつんとあるガソリンスタンドを発見した。
スタンドの入口には雑草が生え、店のガラスには土埃が溜まり、風に吹かれてドアがバタンバタンと音を打ち出している。
バイクを給油場に置き、設備が生きているかを確認する。鼻につんとガソリンの刺激臭がする。このスタンドはまだ生きている。
少年はいつものようにエンジンを切り、店内のカウンターに小銭を置く。ノズルを旅の相棒と呼べるバイクに入れガソリンを注いでいると、荷台のカバンからひょっこりと猫が顔を出し少年に口開く。
「相変わらずご丁寧なこって。」
少年はひょうひょうとした口で猫に返す。
「人として当然だろ。使わせて貰うんだから、対価を払わなきゃいけないんだよ。」
「ふーん、対価ね。このご時世対価なんて使ってるのはお前さんだけじゃよ。」
ふてぶてしい猫の物言いに少年は「はいはい」と軽く切り返す。
「これは僕の心。君にとやかく言われる必要はないよ。給油の邪魔だからどっか行っててくれないか?」
フン、と鼻息を鳴らして猫はバイクからひょいっと飛び降り、尻尾を左右に振って散歩を始める。ふう、とため息をついて少年は給油を続ける。
雲が流れ、午後の風が出てきた。もうしばらくすれば雨雲が出てくるだろうと少年はお散歩中の猫を抱き上げバイクの荷台に放ちシートに跨る。満タンになったタンクをポンポンと叩き、エンジンをかけて荒野の道を進み始める。
数十分ほど走った頃か、地平線の手前に大きな雲が現れ、その下には雷の筋が見える。
支道に入り進むとそこに林があった。林の木々を縫って走りながらバイクを進めると切り立った崖に洞窟が見えた。
ラッキーと洞窟にバイクを入れ、今日の野営の地とすることを決めた。タイミング良くゴロゴロと音がしたかと思うと、ザーっという轟音とともに雨。またしてもラッキーと少年は鼻歌まじりで言う。
荷物を弄り猫の下に敷かれていた、古びた大きな地図を広げ、今後のルートを検討する
またしても猫が少年に茶々を入れる。
「そんな古めかしい地図なんか使わなくとも、電子の地図があるじゃろうに。」
「聞き飽きたよ。僕はこっちのほうが好きなんだ。」
「たまには年寄りの言うことも聞くのが年少の役割ぞ。」
「たまには若者の言うことに頷いて背中を押すのが年長の役割でもあるんだよ。」
猫はちょっとムッとして。
「電子で見たら雨雲の動きもわかろうに。」
「わかったら、旅の行程が面白くなくなるだろ?」
まるで禅問答のようなやりとりをしながら、少年は薪に火をつける。パチパチと音を立てる火を見つめ少年は休息に入るのだった。
どれくらい時間が経っただろう。いつの間にか雨はすっかりあがり、漆黒があたりを包んでいた。休息に入ったのちにウトウトしてしまい、時が経過し月が昇っていた。その睡眠を邪魔したのが、また猫の一声だった。
「おい…。おい…。目を覚ませ。起きろ!」
うーんと顔を上げた少年は、まだ半開きの目をこすり猫を見た。猫は険しい顔をして洞窟の外を警戒している。
「何か、いるぞ。熱源が感じられる。」
「どこ?」
ガバっと体を起こし洞窟の入り口まで忍びながら向かい、林の方を警戒する。ピリッとした緊張感が一人と一匹を包む。林の奥の遠くから物音が近づいて来るのをどちらも感じていた。まっすぐ前を向き警戒しながら少年が猫に問いかける。
「人間?」
「なわけなかろう。」
「獣?」
「それも違うな。においがない。おそらく…。」
そう言った途端、木々の間からガシャンガシャンという足音、更にはヴ―というモーター音を立てて出てきた機体。
「ロボット…。」
と少年は言った。
「ふむ。大分旧式じゃな。」
森から出てきたロボットは可憐な少女の姿。金色の髪に蒼い瞳、ショートカットにかけたリボンとひらひらのスカートの上にエプロンがとても美しい顔立ちを引き立てている。
「ほお、メイドタイプか。近くに金持ちの屋敷でもあったのかのう。」
「じゃあ。」
「うむ、危害は加えてこないじゃろ。何か問いかけてみるが良い。」
と、猫は少年に勧めてみた。少年は少し考え、口を開く。
「君は誰?」
少女型のロボットに問いかけてみると、その妙に人間に寄せた機体はこう答えた。
「ワタシハ…N502…マラジャ…デス。」
少しカタカタと揺れながら、こう答えた。
「ほう、初期型じゃな。よくここまで持ったというべきか…。」
猫はなんだか得意げに話している。
「ねえ、起動を解除してあげることはできる?」
少年が猫に問う。
「お安い御用じゃ。ほれバックからあれを出せい。」
「うん。」
少年は猫に言われたまま、バックから猫の半分くらいの大きさの板状の小さな端末を用意し猫に渡す。
「ほれほれ~。」
そういって猫は肉球を駆使して端末の画面をタップしたりスワイプしたり動かしている。猫は緑に光る端末で情報の世界を操り少女の機体の情報を探っている。
「これじゃ!」
猫は遠隔操作のボタンを発見し、少年に耳打ちをする。少年は猫に言われた通り、その機体に言葉をかける。
「あなたのご主人はいますか?」
「…イマセン。」
「では、貴方はどうしたいですか?」
「…ワカリマセン。」
「貴方はどうしたいですか?」
「…ワカリマセン。」
「貴方の心を教えてください。」
「…ネムリタイ。」
「解除キーを」
「***********」
猫は少女の口からでた解除キーを端末に打ち込む。すると画面に浮き上がるシャットダウンのボタンの文字。
「いいのか?」
猫は少年に問う。
「うん。」
まっすぐ少女の機体を見つめ答える。猫は画面上に浮かび上がったシャットダウンのボタンを肉球でぐいっと押す。徐々に静まっていく少女の機体。それを見て少年はボソッと口ずさむ。
「おやすみなさい。」
そう言って少女の顔を優しい目で見つめる。
「ありがとう。」
と、少女が言ったような気がした。その少女は目を閉じ完全に動きを止めた。静かになった少女を見て、妙に人間と思えたのは少年だけだっただろうか?
翌朝。昨晩のうちに少女の機体を手厚く葬った跡に一輪の花を供えた。手を合わせ、少しの間想いを馳せる。
すっと立ち上がり、背を向け昨日の不思議な縁と別れを告げる。
相棒のバイクが待っていた。少年は跨り、猫はひょいっとバックに入っていつものようにエンジンをかける。
今日は一体どこへ行こう?気の向くまま道路をひた走る。猫が少年に言う。
「電子で道をさがしてやろうか?」
「それはおじいちゃんが触りたいだけでしょ。」
少年と猫とバイクは旅を続ける。
HPでも公開しています。
その他舞台脚本や短編など。
遊びに来てもらえると嬉しいです。
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