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イスロンにて

 イスロンは周囲三km、厚さ五十cm、高さ三mの石壁に囲まれた街だった。王国でここまでは三番目ということになるだろうか。俺がこの前までいた、スタンレーの街は石壁ではなく、木柵で囲われていた。たぶん、王都とサウスタ、イスロンだけが石壁に囲われているのだろう。東西の街はもっとも魔物に襲われやすい、そう考えられていたようである。しかし、街の外は静かなもので、魔物が多くいるとは思えないほどだった。街に到着した翌日、俺は冒険者ギルドへと向かった。他の冒険者との顔合わせのためである。


「ジャクソンだ。剣士でランクはDだ。よろしく頼む」

 そういったのは四十過ぎと思われる狼獣人の男だった。

「ノエルです。火属性と風属性の魔法使いです。ランクはEです。よろしくお願いします」

 そういったのは二十過ぎの人族の女性だった。

「ヘンリーだ。火属性の魔法使いだ。ランクはEランクだ。よろしく」

 そういうのは人族の男、年は二十前と言ったところか。

「セレスです。水属性の魔法使いです。治癒魔法も使えます。ランクはEです」

 そういってきたのは二十半ばの人族の女性だった。

「ソージだ。剣士だが、土属性の魔法も使える。それと空間魔法も使える。今回の調査団の荷物持ちも勤めている。Dランクだ。よろしく頼む」

 俺の挨拶に他の四人は驚いている。

「空間魔法か。ということは亜空間庫も使えるだろうから、俺たちの荷物も頼めるか?」

 とジャクソン。

「かまわんが、最低限のものにしてくれ」

「ああ、助かるよ」

「ひとつ提案がある。食料は俺たち冒険者と調査団では別だ。五人で食料は揃えたい。むろん、俺が運ぶ」

「賛成だ。生ものでも良いんだろう?」

 とジャクソン。どうやら彼らの間で話がついているようで、リーダーはジャクソンに決めているらしい。

「まあ、食える魔物も捕れるだろうから、パンとか野菜になるかな」

「いや、肉も持っていったほうが良い」

「なぜだ?」

「この一ヶ月、街から半日離れても現れるのは蟲系の魔物でな。オークなど見ておらんよ」


 よくよく聞いてみると、この半年、東の魔境ではオークなどほとんど見ないという。ゴブリンすら稀にしか現れないらしい。代わりに現れるのが、大蟷螂、大蠍、大蝗と言った蟲系の魔物だという。むろん、プレーリーラットやジャンピングラビットは現れるが、それも数が減っているというのである。


「まあ、いいだろう。念のためだな、撮れればそっちを使うようにすれば良いだろう。打ち合わせの後、誰か市に同行してくれ」

「じゃあ、私が」

 とノエル。


 その後、市で食料品を買い求め、出立の準備は終えた。街の様子は王都と違ってのんびりとしたものであった。ノエルに聞くと、ここ三ヶ月ほどは高ランクの魔物も現れず、この街に拠点を置く冒険者の多くは西のサウスタに移動しているという。彼女達魔法使いは基本的にはソロで活動することはない。多くの場合、パーティを組んでいるはずだが、ノエルやヘンリー、セレスもいまはソロだという。元々はパーティを組んでいたのだが、前衛たる剣士や盾役が西に向かったため、だという。そして、彼女達がここに残ったのは自らのランクが低いためだともいう。


 そもそも、彼女達の使用する魔法は何とか中級といえる程度で、そう強力な魔法が使えるわけでもないのだという。そのせいで残った、いや、残らざるを得なかったようだ。ちなみに、俺の土魔法は中級で石弾、岩弾、岩槍などの攻撃魔法と防御のための土壁、石壁が使える。とはいえ、土属性の魔法使いは基本的に防御優先なので、攻撃魔法を使うと、すぐに魔力切れになる。俺も何度か経験しているが、あれは相当にしんどいものだ。


 その日の夕食は俺たち五人で囲んだ。これは連携のためでもあった。各人の考えを知ることで、現場での連携が上手くいく場合もあるからだ。それに、東の魔境の様子を再確認するためでもある。むろん、王都で仕入れたサウスタ方面の情報の提供も行った。一見、何の関係もなさそうであるが、連動している可能性もあったからだ。


「つまり、その西の盾となっていた山地が崩れたことで、魔境の多くの魔物がそちらに流れ、こっちには現れなくなった、と?」

 ジャクソンが聞いてくる。

「確定情報では無いが、サウスタ近郊で魔物が急増した原因として一番すっきりすると思ってな」

「その山地が崩れた、てのは確定なのか?」

「王都の冒険者ギルドではそういっていたがな」

「しかし、崩れた原因はなんなんだ?」

「不明と聞いている」

「それじゃ当てにならんぞ」

「そうだよな。まあ、それもどのくらい続くかわからん。こっちが東の魔境にいるときに溢れてくる可能性もある」

「それだけはやめてほしいな」


 俺の中では原因として、召還された連中がノイエランド帝国軍に対して放った魔法が引き起こした、そう考えている。巻き込まれた俺にこれほどの能力があるということは、本来の召還者である彼らはもっと凄い能力を持っている可能性が高いからだ。この世界では、火水風土というように、火属性、水速成、風属性、土属性が基本多度言われる。俺が土属性なので、あの三人はそれぞれ残りの属性を持っている可能性がある。


「で、調査団のメンバーですが、女性三人は王城の人間でしょうか?」

 とノエル。

「わからん。が、エリーゼは王家の人間かも知れん」

「証拠は?」

「他の連中の接し方がな」

 つい先ほど、四の鐘が鳴るころ、俺以外のメンバーが調査団の連中と顔合わせしていた。そのときの状況を話しているのだ。

「それに、護衛が大掛かり過ぎでしょうね」

 とセレス。

「たしかに、王家の人間でなければ、あそこまで大掛かりな護衛は必要ないでしょうし」

 とヘンリー。

「まあ、調査団の護衛は彼らが請け負うと言質は取っている。よほどのことがない限り、俺たちが加勢することはない。塑に、自分の身は自分で守れということだから、こっちは互いをカバーしないとな」

「ああ、ソージのいう通りさ。基本的に俺たちの役割は斥候だからな」

「ですが、そもそもの調査の目的はなんでしょうか? 先ほども目的は言っていませんでしたが」

 とノエル。

「わからん。一応は魔境の調査、ということになってはいるが」

 とジャクソン。そして俺を見てくる。つられて他の三人も俺を見る。

「知らん。王都からここに来るまでも、会話はしていないからな。ただ、宛もなく、魔境を二日も進むはずはないだろうよ」

「だなぁ」

「ただ、国内の状況を考えてみれば、新しい移住地でも探しているのかもな」

 俺のその言葉に四人は俺を見てくる。

「どういうことです?」

 とセレス。

「サウスタの西方に魔物が多く現れたが、王城では守りきれないと判断しているかも知れん。そうなると国民を移住させる場所でもあれば、移住させるかも、その程度だ」

「それなら南の山を越えれば」

 とヘンリー。

「三百mの険しい山で、道もないのに移動できないだろうな」

「それならなぜ二日と?」

「たぶん、女子供老人を含めれば、それが限度かも知れない、そう考えているのじゃないか。現国王は情け深いと聞いている」

「・・・・」

 四人は黙った。

「たぶん、だが、王城ではこの一ヶ月、東の魔境で魔物がほとんど見られない、という情報を得たのだろうさ。ならば、調べてみるか、そうなる」

「たしかに・・・」


 俺がそれに思い当たったのは、イスロンに来るまでのことだった。王家の人間が含まれているなら、馬車での移動も考えるだろう。それが、なぜか徒歩で移動している。そして、イスロンでの情報、東の魔境での魔物減少、ということでそう考えたのだ。今はまだ、ワーグナン王国が存在するため、戦争状態とはいえ、魔物の討伐はある程度進むだろう。しかし、ワーグナン王国が壊滅すれば、サウスタ程度の街はすぐに魔物に飲み込まれてしまうだろう。


 少なくとも、王家や貴族、王城の人間だけではなく、国民のことも考えてのことだろう、とは思うのだ。しかし、小さな国とはいえ、人口は五万人もいるのである。その総てを移住させるなど無茶だとは思うのだ。ちなみに、王国の兵力は五千人、これに各街の衛兵百人、そして、冒険者が百十人ほど、これでどうやって残りの人間を守ることができるだろうか。


「まあ、ここで言ってもな。明日からの移動中にはそれも判るかも知れんよ」

「だな、ソージの言うとおりだ。明日からの四日間は気を入れるとしよう」


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