表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

巻き込まれた男

不定期更新になります。直接は辺境領主物語とは関係ありません。呼んでいただければ判るかもしれません。

 俺の名は奥野宗司という。年は二十三歳で、職業は軍人、日本陸軍少尉だ。いや、だったといい直そう。正確には少尉候補生だった。俺のいた日本は第二次世界大戦に敗北したが、条件付降伏だったため、軍は残されていた。そして、高校を卒業した俺は、陸軍士官学校へと進学した。家族は軍人の父と専業主婦の母、会社員の兄、姉の五人家族で、姉は既に嫁いでいた。現姓は三上という。そうして、士官学校四年の秋、クラス生四十人と共に、ベトナムへ校外実習として参加していた。そこで、あの事件に巻き込まれたのだった。


 今は冒険者でランクはDランクといったところだ。まあ、一年で三つランクが上がったのは珍しいらしいが。経済的にはなんとかなっているというところだろう。俺が拠点を置いているのはフォレスタ王国北部の街スタンレーで、スタンレー伯爵の領地になる。街は小高い丘の上にあり、直接魔物に襲われることはあまり無いようだが、東西どちらかの門を出て丘を降りて行けば、そこはもう魔境といわれる地域になる。多種多様な魔物を討伐する毎日を送っている。


 ちなみに、フォレスタ王国は総人口五万人ほどの小さな国だ。東西は魔境に面し、北は標高百mの山地が東西に連なり、南は標高三百mほどの山地が東西に連なっている。西に馬車で二日ほどのところにはワーグナン王国があり、その北にはノイエランド帝国が存在するという。ワーグナン王国は人口三二十万人ほど、ノイエランド帝国は人口四百五十万人の大国だといわれている。


 どちらの国も周辺の小国を征服し、領土拡張政策を採っているようだ。フォレスタ王国がワーグナン王国に征服されない理由はただひとつ、両国の間に馬車で半日ほどの魔境が存在するからだといわれている。それがなければ、とっくに征服されていたという。ちなみに、魔境の話が出たが、フォレスタ王国の北の山地は、ワーグナン王国の北を北西に向かって伸びている。その北側は馬車で十日ほどの魔境があり、その北側にノイエランド帝国がある。


 俺がここに、というよりも、この世界にいる原因ははっきりしている。その原因とは、ワーグナン王国が実施した勇者召還にあった。それにより、この世界に現れたのは俺を含めて四人、俺以外の三人はいずれも白人、というよりも、アメリカ陸軍の将校だった。ベトナムの同盟国アメリカ軍基地で、たまたま彼らの近くにいたため、巻き込まれた、そういえるからだった。


 召還された後、ワーグナン王国王城の謁見の間で説明されたので、はっきりしている。その場で、ある貴族が『何故黒髪の人間がここにいるのだ』と言ったことで、俺の立場が他の三人とは異なるのだと気付いた。ワーグナン王国では黒髪の人間は不吉とされていたのである。俺がワーグナン王国を出るときに、その理由が判った。三百五十年ほど前、黒髪で茶色の瞳をもつ剣士と揉め、彼に二年間でワーグナン王国軍兵士五千人が殺されたことに起因するらしい。


 結局、俺は金貨五十枚を貰い、三日以内にワーグナン王国を去る羽目になった。金貨五十枚をもらえたのも、召還された他の三人、フレイ、アース、ジャック、むろん、本名ではなく、コードネームだと思う、が追い出すのに、裸で追い出すのか、と詰め寄ったからだろう。国王や貴族たちも何も持たせずに俺を追い出せば、彼らが自分たちの命令を聞かない可能性が高いと判断したためだろうと思う。だからこそ、金貨五十枚と三日以内、という条件を付けたのだろうと思われた。


 そうして、俺は王城を出て王都で当座に必要なもの、衣類、武器、日用品を購入し、街の宿に一泊、翌日朝早く、王都を出発したのだ。ワーグナン王国最東部の街を出るまでの三日間、監視がついていたのは知っていた。行くあてはなかったのだが、ワーグナン王国の東に黒髪の人間が多く住む国があると聞き、とりあえず、そこを目指すことにしたのだった。最後の街を出る前に、冒険者登録を済ませたのは、冒険者カードが身分証明書だと聞いていたからだった。王都で登録しなかったのは単純に、早くそこを離れたかったという理由だ。


 幸いというか、この世界の言葉は理解できたし、文字を読むことも書くこともできた。それに、原因はわからないが、空間魔法と土魔法が使えたことが魔境を無事に渡る最大の要因だった。むろん、多くの魔物に襲われたが、すべて倒すことができたのは、愛刀のおかげだろう。これは、王都の武具屋<セーリン武具工房>、ほとんど商売になっていないのでは、そう思えるほど寂れた店、で購入したものだった。


 駄目元で、刀はあるかと聞いてみたら、あるというので、見せてもらったのが今持っている刀だった。<一撃一斬>という名前までついていたのには驚いたが。ついでに、防具は店主の進めるベストタイプのものと手甲、ナイフはハンティングナイフを金貨十枚で購入した。なぜ刀かというと、俺は剣道をしていたからだ。ちなみに、刀だが、全長八十五cm、刀身六十二cm、根元の幅三cm、厚み六mm、反りが三cmというものだった。鞘はマスキという木でできているそうだ。材質は鋼鉄で刃の部分はダイアチタ鋼でできているらしい。


 防具の革鎧は動きやすいものをと指定したら、ワイバーンの革を使っているものを出してきた。厚みは五mm程度なのだが、強度はかなりのものらしく、さらに、衝撃も少しは吸収するようだ。見た目はやや暗い銀色で、鱗の紋様がはっきりと見える。手甲も同じ材質だそうで、軽くて着用しているのを意識しなくても良いのはありがたい。


 この世界に来たときには迷彩服だったが、今は綿のトレーナーのような服と綿ズボン、一般的な冒険者のスタイルだ。これらは王都の衣服屋で購入したものだ。軍用の迷彩服は目立つので。さらに、少し小さめのリュックサックもつけている。本当は空間魔法で亜空間庫が使えるから、必要ないのだが、ダミーとして持っている。未だに、どれくらいの容量があるのかわからないが、結構便利なものだ。


 冒険者としての登録の際、名前はソージで行っている。冒険者ギルドは超国家規模の組織だというのは聞いていたが、フルネームの登録はワーグナン王国に情報を与えるかもしれない、そう考えたからだ。今は冒険者ギルドは冒険者の個人情報を洩らすことは基本的にない、とは思っているが、その当時はそこまで信用できなかった。


 なぜ俺がスタンレーを拠点にしているかというと、フォレスタ王国では王都フォレスや南のサンクアではあまり魔物が現れず、西のサウスタや東のイスロンでは高ランクの魔物が多く、俺の今の技量では対応できないと考えたからだ。この国に来た当初はサウスタに拠点を置いていたのだが、幾度に死に掛けたものである。ちなみに、フォレスタ王国は東西が馬車で二日、南北が馬車で一日半という小さな領土しか持たない。また、各都市は標高五十mほどのところにあり、緩やかなスロープ状になっている東西の街で魔物を防ぐことができれば、領土内には魔物が侵入しないという。むろん、空を飛ぶ魔物は多くあり、それらが侵入することがあるが。


 昨日、ノイエランド帝国とワーグナン王国が戦闘状態に入った、と聞いた。フォレスタ王国にもワーグナン王国から商人が来るから、彼らからもたらされた情報なのだろう。俺がこの国に来るときは魔境を渡って来たのだが、山あいに細いながらも街道が整備されており、比較的安全に行きかうことができるようだ。むろん、時間はかかるだろうが。それに、あまり重いものは運べないと思っていたのだが、多くの商人は空間魔法を使えるか、使える人を雇っており、重量はあまり関係ないという。


 ここまで思いつくまま書いてきたが、俺、奥野宗司の現状はわかってもらえたと思う。できるものなら、元の世界に返りたいとは思うが、それは無理だろう。以前は帰りたい、そればかり考えていたが、今はこの世界で生きていくしかない、そう思っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ