表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来生探偵社   作者: エンドウ
1/2

~顔のない男~ 1/2

後半も推敲終わり次第あげます。

「キスギタンテイシャ?」

 荒城(コウジョウ)穂波(ホナミ)は疑わし気に声を上げる。穂波は寝不足でボウっとする頭を振って学友を見上げた。

「そう、キスギ探偵社」

 穂波の友人が頷く。

「なんでも、悪夢専門の探偵屋さんですって」

「別に・・・・・・」

 友人の目は真剣だ。そして、穂波の身に降りかかっている事態も深刻だった。

 悪夢専門の探偵、つまりオカルトである。

 穂波はオカルトを、三日前まで信じてはいなかった。他人事のように考えていた。

 自分の右腕をまさぐる。今朝の夢から、いまだ痺れが取れない。長袖の上からではわからないが、そこにはくっきりと人の手の跡が残っている。


 穂波が初めてその夢を見たのは三日前のことだ。

 殺風景な白い部屋。窓からは青空と隣のビルの屋上が見えている。

 その部屋の窓際のベッドの上で、顔のない男が彼女を見つめていた。

 顔のない、というよりも、印象から消えている。誰だかは知っている気もしたが、覚えていない。

 その男が、ゆっくり立ち上がり、穂波に近づく。その手を、穂波の手に伸ばす。

 不思議と恐怖はない。穂波はその手を握り返そうと、手を伸ばす。

「穂波!」

 母の声。そして、彼女は目を開ける。


 自分の右腕をまさぐっていた穂波は、友人の声に頭を上げた。

「妖怪シデムシよ。やっぱり、このままじゃ死んじゃう!」

 友人の必死な声に、穂波は首を振った。

「聞いたよ」

 妖怪シデムシは、彼女たちの間で噂になっている怪人だ。夢に現れて、呪い殺す怪人。

「・・・・・・」

 自分の右腕の、手の跡を想像しながら、穂波は頭を振った。

 穂波は諦めて、そのオカルトな探偵社を訪ねることにした。


『来生探偵社』

 放課後、穂波は教えられた場所に来ていた。

 彼女の住む街でも、あまり治安のいいとは言えない繁華街の一角、

「ここ、だよね?」

 その古びた小さな雑居ビルの3階、あからさまにボロボロなその一室だ。

 ボロボロな扉のボロボロな文字が、目的地であることを穂波に告げていた。

「うー」

 穂波は頭を掻きむしり、深呼吸をした。

 その扉を押す。開かない。扉を叩く。反応がない。

「あの、すみませーん」

 穂波の声にも、扉の無効からの反応はない。穂波はため息をついた。

「つぶれてるよ。ソコ」

 後ろから、背後霊のような声が聞こえた。振り向くとそこには、背の低い老婆がいる。

「え」

 老婆は、弱弱しく頭を振った。

「そこの、キスギは、いいオトコだったんだけどね。仕事中に死んじまったよ」


 荒城穂波は何の収穫もなく、その日を終えた。

 打つ手は、何かあるかもしれないが、彼女には分からない。

 そして、いつもの夢を見るのだ。

 あの夢を。いつか彼女に届くであろう、あの呪われた夢を。


 ・・・


 その日見た夢は、やはりあの夢だった。

 場所はどこだかわからない。真っ白な部屋。殺風景な部屋だ。今朝も昨日も一昨日もこの場所だった。

 その部屋で一人の男がベッドの上からこちらを見つめる。顔のない男。顔のない、というよりも、印象から消えているそんな顔の男だ。

 顔のない男が立ち上がった。

 穂波は彼に恐怖に感じないことに、恐怖した。目の前の男の腕に、今にも、吸い込まれそうな感覚に、だ。

 穂波は竦んだ足を叱咤し、部屋を走り出す。

 まっすぐな細い廊下。この恐ろしい感覚から急いで逃げなければ。

 穂波は廊下を出て、走り出した。

 廊下は誰もいない。白く薄暗い廊下まっすぐに伸びている。

 どこへ行くのかもわからず、穂波は駆けだした。

「やあ」

 穂波の体が、止まる。足が止まってしまったのは、目の前にいつのまにか軽薄な男がいたからだ。

 顔かたちと表情と恰好の全てが、軽薄で薄っぺらい。そういう印象を与える若い男だ。

「やあやあ、待ってくれたまえ」

 その声はこの悪夢にふさわしくない、明るい声だ。


「参った、無視されるのかと思ったよ。良かった良かった。」

 声の主を、穂波は知らない。

(――誰!?)

「酷いなぁ」

 顔のない男(シデムシ)から逃げようと部屋を出て、走り出したら、気が付いたらこの男が後ろにいた。

 顔かたちは少しだけ丸顔で童顔の部類の顔だろう。表情は人を安心させるような目じり緩んだ顔だ。そしてこの白黒灰色の建物で、明らかに浮いている黄色いジャケットとズボン。まるで、バラエティ番組の司会者のような男だった。

「もしかして、この服ダサい?まあ、いいや。でも、僕を知らないというのは訂正してもらうよ、お客さん」

 下手くそなウィンクとともに、彼は懐に手を入れて、

「わたくし、こういうものです。どうぞ、宜しく」

 穂波は名刺に目を落とした。

『キスギ探偵社 社長 来生(キスギ) (アキラ)


 穂波が男から受け取った名刺に目をやる。

「キスギ探偵社・・・・・・キスギ アキラ?」

「無駄足を取らせて悪かったね。探偵は営業場所と営業時間を変更したんだ」

「でも、貴方は死んだって!」

「だから移転したのさ」

 男は、にやりと笑った。

 穂波は、絶句していたが、呼吸を整えて、キスギの瞳を見た。

「助けてください!私、怪人シデムシに!」

 穂波の視線は、白い手袋をした手で遮られた。

「分かってる。OKやってみよう」

 キスギは不敵に笑い、足を止めた。

「君を追う、怪人シデムシは僕が退治して見せよう」

「・・・・・・」

 顔のない男は、部屋から顔を出した。何かを口を動かしているが、穂波には何を言っているのかは分からない。

 キスギはジャケットを脱ぎ捨てネクタイを緩めた。




 荒城穂波は、その夢の続きは覚えていない。

 だが、普段の掴み起こされる夢とは違う。

「・・・・・・」

 右腕に違和感はない。手を開いて、閉じる。毎朝、穂波を悩ませた痺れもない。 

 穂波は、目を開けて体を起こした。

 鏡には自身の顔が映る。


 血まみれの顔。血だらけの穂波自身の顔だ。


「え?」

 驚いて、穂波は布団に目を向ける。布団の上に、赤い染みがあった。

 血は、布団に文字をかたどっていた。

『よくも邪魔者を呼んだな。お前は残虐に殺してやる』

 キスギ探偵社の仕事は失敗したのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ